労働基準法では、法定労働時間が定められています。労働者がこれを超過して働いたり、休日や深夜に働いたりした場合には、会社は残業代(割増賃金)を支払わなければなりません。

この法律に違反し、会社が従業員に対し残業代の支払いをしていないことで起こるのが、「未払い残業代」の問題です。
未払い残業代は、本来残業した従業員に支払われるべき賃金です。この未払いに対し、従業員は後からでも請求手続きを行うことが可能です。

では、未払い残業代はどのような場合に発生し、その請求手続きはどのように進めればよいのでしょうか。

今回は、未払い残業代があるケースやその手続き、計算方法について詳しく解説します。

残業代に未払いの可能性があるケース

労働基準法では、労働時間について次のように定めています。

「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について8時間を超えて、労働させてはならない。」(労働基準法第32条)

つまり、事業主が労働者に課すことのできる労働時間は、原則として、「1日8時間、週40時間」が上限とされているのです。
この上限を超えて行う労働は「時間外労働」となります。時間外労働が発生した場合、事業主はこの労働に対し、別途残業代を支払わなければなりません。

しかし、このように法律で定められているにも関わらず、時間外労働に対して残業代が不当に支払われないケースは少なくありません。
ここでは、考えられる9つのケースをご紹介します。ご自身が該当しないか確認してください。

ケース1 名ばかり管理職

労働基準法第41条では、「監督もしくは管理の地位にある者」(管理監督者)については、前述の労働時間の上限を適用しないと定めています。つまり、管理監督者には基本的に残業代は支払われないのです(※ただし、深夜残業の割増賃金は適用されます)。

この制度を悪用しているのが、「名ばかり管理職」です。これは、職務内容や権限、待遇などの面で、実際には管理監督者の要件を満たしていないにも関わらず、従業員を名ばかりの管理職として扱うことを指します。
名ばかり管理職については、仕事の実状は一般従業員と変わらないのに、「管理職だから」と会社が残業代の支払いを拒み、無償で残業させるケースが問題となっています。

しかし、法律で定められている以下の管理監督者の要件を満たしていない場合、それは法的な管理職にあたらず、残業代の未払いは違法となります。

①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること ②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること ③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること

名ばかり管理職については、こちらで詳しく解説しています。「「名ばかり管理職」でも残業代は貰えます。」

ケース2 裁量労働制

裁量労働制とは、会社と従業員の間で予め決めた時間を労働時間とみなし、賃金の支払いを行う働き方です。この働き方では、実働時間の長さは賃金の支払いに影響しません。
最初に「労働時間は8時間」と決めたのであれば、6時間働こうが10時間働こうが、8時間分の賃金が支払われます。

裁量労働制では、原則残業代は支払われません。実際に何時間働いても、事前に決めた時間が労働時間だとみなされるためです。

ただし、この働き方でも次のような時には、割増賃金が発生します。

  • みなし労働時間が法定労働時間を超過した時
  • 深夜や休日の労働が発生した時

上記のケースでは、会社は従業員に25〜50%の割増賃金を支払わなければなりません。

実際には裁量労働制に該当しない場合も

「裁量労働制を導入している」とする会社の中には、裁量労働制が法的に認められない場合もあります。

裁量労働制には、次のような導入条件が定められています。

  • 導入できるのは特定の業種に対してのみ(大きくは専門業務型・企画業務型の2種類で、それぞれに具体的な業種が定められている)
  • 就業規則に規定がある
  • 労使協定を締結し、労基署に届け出ている
  • 労使委員会を設置している(企画業務型の場合)

これらの条件を満たしていない場合、裁量労働制の導入は認められません。
よって会社には、一般的な働き方同様に、従業員に対し残業代を支払う義務が生じます。
そもそも、上記の条件を満たしていないにも関わらず、「裁量労働制を導入している」とすること自体が違法なのです。

また、従業員に裁量が与えられなかったり、みなし労働時間が実働時間とかけ離れていたりと、実際には裁量労働制が成り立っていないケースも見られます。
このようなケースも違法であり、通常の働き方と同じように残業代を請求できる可能性があります。

ケース3 変形労働時間制

変形労働時間制とは、月や年によって所定労働時間を変えることのできる制度です。繁忙期には労働時間を増やし閑散期には減らすなど、仕事の状況に応じて、法律で定められた範囲内で労働時間を振り分けることができるものです。
この制度は、主に繁忙期と閑散期の差が大きい業種で採用されています。

例)

  • 月単位の変形労働時間制
  • 1ヶ月が31日の月の法定労働時間は177.1時間
  • 1ヶ月のうち1週目が繁忙期

1週目5日間・・・1日10時間労働(50時間)
2週目5日間・・・1日7時間労働(35時間)
3週目5日間・・・1日7時間労働(35時間)
4週目5日間・・・1日7時間労働(35時間)
5週目3日間・・・1日7時間労働(21時間)
合計176時間

変形労働時間制では、このような働き方が可能になります。この場合、1週目の5日間は法定労働時間の8時間を超えていますが、月の労働時間の合計が月単位の法定労働時間を超えてはいないため、残業代は支払われません。

このように、変形労働時間制では、1日の労働時間が8時間を超えていたとしても、その月の労働が月毎(または年毎)の法定時間を超過していなければ、残業代は発生しません。

ただし、次のような時には残業代が発生します。

  • 実働が会社で決められた所定労働時間を超えた時
  • 実働が月毎(年毎)の法定労働時間を超えた時
  • 変形労働時間制の要件を満たしていない時

上記の状況で残業代を支払わないことは、違法です。

変形労働時間制については、こちらで詳しく解説しています。「変形労働時間制とは?残業時間の考え方を解説」

ケース4 固定残業代制

固定残業代制とは、実際の残業時間には関係なく、一定時間分の残業代を毎月定額で支払う制度のことです。この残業代は、毎月の固定給に含まれます。

この制度下では、既に残業代が支払われているため、実際に残業してもプラスアルファの残業代は支払われないことが多いです。

ただし、固定残業代分の残業時間を超過した時には、会社はその従業員に別途残業代を支払う必要があります。

また、ある手当を固定残業代として支給するということが雇用契約書や賃金規程などで定められていない場合、固定残業代制の存在自体を否定することができる場合もあります。さらに、月間80~100時間を超えるような長時間の残業に相当する固定残業代が払われている場合などは、そのような固定残業代の制度自体が、長時間労働を引き起こしかねないもの(公序良俗違反)として、無効とされる場合もあります。

固定残業代制については、こちらで詳しく解説しています。「固定残業代(みなし残業代)を超えた残業代は請求できます。」

ケース5 年俸制

ジョブ型採用の普及に伴って増えているのが、年俸制です。
年俸制とは、給与額を1年あたりで決定する制度のことです。年俸額を12で割った額を月給とするのが一般的です。

年俸制の場合、会社が「1年の給与は決定済みであり、残業代は出さない」と主張するケースがありますが、これは間違いです。年俸制であっても、法定労働時間を超過して働いた場合には、残業代が発生します。
つまり、年俸制の年俸は法定労働時間内の労働に対するものであり、法定労働時間外の労働に対しては別途残業代の支払いが必要なのです。

また、年俸制を採用している会社の中には、固定残業制も併用しているところもあります。この場合、固定残業代に含まれる残業時間を超過した分は、別途残業代が発生します。

ケース6 歩合給

歩合給とは、成果に応じた額の給与を支払う仕組みのことです。この仕組みでは、仕事の成果が大きいほど給与の額は多くなり、成果が少ないほど給与も少なくなります。
ただし、賃金の最低保証の観点から、会社に雇用されている従業員の給与にこの仕組みを採用する場合には、「固定給+歩合給」の形が取られます。

歩合給の場合でも、法定労働時間を超過して労働を行った場合には、残業代が支払われなければなりません。休日や深夜の労働も同様です。
歩合制を理由に残業代を支払わないとする事業者もいるようですが、これは違法です。

ケース7 タイムカードを定時で切らされている

実際には残業をしているのにも関わらず、会社がタイムカードを定時で切るよう要求し、データ上残業代が発生しないようにしているケースは珍しくありません。残業代を請求されても、「タイムカードを切った後の残業は会社の指示ではなく、従業員が勝手に行ったものだ」と主張し、会社側が残業代支払いの必要性を認めないこともあるようです。

このような対応はもちろん違法ですが、会社にそれを認めさせ残業代を請求するには、残業の客観的証拠が必要になります。
この場合タイムカードは証拠にならないので、業務メールやパソコンの使用履歴、スマホのGPS記録など、他の証拠を残しておくことが大切です。

ケース8 持ち帰り残業をしている

業務量が多い中で会社が残業を禁止した結果、自宅で持ち帰り残業をしているという人も多いでしょう。
自宅での残業に対して残業代が支払われるかどうかは、ケースバイケースですが、次の要件を満たす場合には、残業が認められ、その分の賃金が支払われる可能性が高いです。

  • 上司の指示による、また許可を得た持ち帰り残業である
  • 持ち帰り残業しなければならない理由がある

持ち帰り残業が残業と認められるかどうかの判断で重要なのが、「上司の指揮命令下にあった行動か」という点です。上記要件を満たせばそれが認められ、残業代も支払われると予想されます。
ただし、上司の指揮命令下にない持ち帰り残業は、その従業員の独断によるものとされ、残業代支払いの対象から外されます。

持ち帰り残業については、こちらで詳しく解説しています。「持ち帰り残業の残業代請求はできるのか?」

ケース9 残業時間を切り捨てられている

基本的に、残業時間の切り捨ては認められていません。
例えば、所定労働時間が17時までのところ、17時13分まで働いた従業員に対し、「15分以下は切り捨てになる」と会社が残業代を支払わない場合、この対応は違法です。
このような対応により数分から数十分の残業時間が蓄積されれば、結果的に長時間のサービス残業が発生します。

ただし、1ヶ月の総労働時間に対して、30分未満の残業時間を切り捨てることは可能です。これは、経理業務の簡素化を目的としたものです。

残業代を請求する流れ

法律上支払うべきであるのに、実際には支払われていない残業代を「未払い残業代」と呼びます。
従業員は、後日これを会社に対して請求することが可能です。

その際の手続きは、次の5つのステップが考えられます。

  1. 証拠を集める
  2. 残業代を計算する
  3. 会社と交渉する
  4. 労働基準監督署への申告
  5. 労働審判
  6. 訴訟

それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。

STEP1 証拠を集める

未払い残業代の支払いを会社へ請求するには、実際の残業時間を示す証拠が必要です。よって、まずはタイムカードやパソコンの使用履歴など、残業していたこととその時間がわかるような証拠を集めなければなりません。
証拠となるものの具体例については、後の章でご紹介します。

また、会社との労働契約に関する書類や給与明細も用意しておきましょう。これには、賃金の支払い形態や残業の取り扱いについての明記があるはずです。
最も、お手元に証拠が全くない場合でも、請求は可能な場合が多いので、諦める必要はありません。

STEP2 残業代を計算する

次に、未払い残業代の計算を行います。これは、会社に対し「何時間分・いくらの残業代が支払われていないのか」を明確に提示するために行います。

ただし、この計算はやや複雑です。残業代は、時間帯によって変わる割増率を踏まえ、算出しなければならないからです。勤務形態によっては、計算が複雑になるため、一般の人では計算するのが困難かもしれません。
よって、残業代の計算は弁護士に任せるのもひとつの方法でしょう。

残業代の基本的な計算方法については、後の章でもご紹介します。

STEP3 会社と交渉する

準備が整ったら、会社との交渉に入ります。未払い残業代の金額とその証拠を提示し、支払いを求めましょう。お手元に証拠がない場合は、この際に、タイムカードなどの資料の開示を会社に求めることとなります。

交渉の方法は、「会社側と直接交渉を行う」か「内容証明郵便による請求」の2つです。時効を中断するためには、何月何日に会社に請求したという証拠が必要となってきますので、内容証明郵便による請求がなされることが多いです。

この段階で未払い残業代の支払いを会社に認めさせることができれば、その後の労働審判や訴訟は必要なく、労働者本人の負担も軽くなります。

STEP4 労働基準監督署への申告

会社が交渉に応じない場合には、労働基準監督署への申告を検討しましょう。
労働基準監督署は、労働に関する違反を取り締まる機関です。未払い残業代について相談し証拠を提示すれば、会社に対する調査や是正のため動いてもらえる可能性があります。もちろん、相談にあたって費用はいらず、匿名での依頼も可能です。

ただし、労働基準監督署が動くのは明確な証拠がある場合に限られ、確実に問題解決に至るとは言いきれません。

会社と交渉しても対応してもらえなかった場合や、会社側と直接やり取りをしたくない場合などは、早めに弁護士に相談するといいでしょう。

STEP5 労働審判

交渉などで問題が解決しない場合には、労働審判を行います。
労働審判は、労働者と使用者との間で起こった紛争を法的に解決するための手続きです。一般的な訴訟に比べ短期間での解決を目指せ、その結果には法的効力が生じます。

労働審判では、必要書類を用意して申し立てを行い、答弁書の提出などを経て、審理を行います。話し合いの中で調停が成立すればそれで解決とされますが、話し合いがまとまらない時には審判委員会が判断を下します。

STEP6 訴訟

労働審判の結果に納得できず、2週間以内に裁判所へ異議申し立てを行った場合には、その判断は無効となり、訴訟手続きへと移行します。

訴訟では、労働審判よりも仔細な審理が期待できますが、解決までには長い時間がかかり、労働者と使用者双方の負担は大きくなります。

ただし、訴訟では未払い残業代に対し、「労働基準法で定められている割増賃金と同額の付加金」を請求することができます。

会社との交渉や労働審判、訴訟の手続きはかなり専門的です。労働審判や訴訟となれば、会社側も必ず弁護士を付けてくるでしょう。正確で有利に手続きを進めるために、これらの手続きは弁護士に依頼した方がいいでしょう。

労働審判と裁判については、こちらで詳しく解説しています。「残業代請求では「労働審判」と「裁判」、どちらがお勧め?」

残業代を請求するのに必要な証拠

ここまで、残業代の請求には証拠が必要だとご紹介してきました。
では、具体的にはどんなものが残業の証拠となるのでしょうか。

残業の証拠になる可能性があるものの具体例を見ていきましょう。

【残業の証拠になる可能性があるもの】

  • タイムカード
  • 勤怠データ
  • パソコンの使用履歴(ログイン・ログオフ履歴)
  • グーグルタイムラインなどのGPS記録
  • 業務メール
  • 日報
  • 上司による指示書や指示メール、メモ
  • ICカードデータ(公共交通機関やオフィスへの出退勤など)
  • 手帳やメモ など

このようなデータやメモは、業務をしていた時間やその内容の証拠となる可能性があります。

残業代の証拠については、こちらで詳しく解説しています。「残業の証拠を残すにはどうすればいいのか」

また、請求にあたって必要な残業代の計算や労働契約の確認には、次のような書類も必要です。

【請求手続きに必要な書類】

  • 労働契約書(雇用契約書)
  • 労働条件通知書
  • 就業規則・賃金規程
  • 給与明細・源泉徴収票 など

とはいえ、タイムカードのデータや勤怠データは、労働者自身が保有するものではないため、用意が難しい場合もあるでしょう。そのような場合には、会社に開示請求を行うことができます。

タイムカードがない会社にお勤めの方は、こちらもご覧ください。「タイムカードがない会社で残業代を請求する方法|違法性、代わりになる証拠を解説」

残業代の計算方法

残業代は、次の式で算出します。

残業代= 1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間

1時間あたりの基礎賃金は、「基本給÷1ヶ月の所定労働時間」で算出します。

割増率とは?

法律では、「残業に対する賃金は、基礎賃金を割り増して支払わなければならない」ことが定められています。この割り増しの割合として決められているのが割増率です。
割り増しの対象となるのは、「時間外労働」「深夜労働」「休日労働」の3種類で、割増率はそれぞれ以下の通りです。

①時間外労働(法定労働時間を超えた場合):25%以上 ②時間外労働(1ヵ月60時間を超えた場合):50%以上 ③深夜労働(午後10時から午前5時までに労働した場合) 25%以上 ④休日労働(法定休日に労働した場合):35%以上 ⑤時間外労働+深夜労働:50%以上 ⑥休日労働+深夜労働:60%以上

計算例

具体例で残業代の計算をしてみましょう。 (Aさんの例)勤務時間:平日9~18時(休憩1時間)、休日:土日祝日、基本給:23万円、住宅手当:3万円 Aさんがひと月のうち特定の1週間の平日だけ、9~22時まで勤務(4時間残業)した場合の残業代 基礎賃金23万円 ÷ 1ヶ月の所定労働時間160時間 × 割増率25% = 1時間あたりの割増賃金約1,796円 1時間あたりの割増賃金約1,796円 × 残業時間4時間 ×残業した日数 = ひと月の残業代35,920円

残業代の計算方法については、こちらで詳しく解説しています。「残業代の計算方法を分かりやすく解説(具体例付き)」

残業代請求の時効

2023年1月現在、残業代請求の時効は「3年」と定められています。もともとこの時効は「2年」でしたが、法改正によって2020年4月に「3年」へ延長となりました。
ただし、その対象は「2020年4月以降に発生した残業」です。これ以前の残業の時効は、2年のままとなるので注意しましょう。

時効を過ぎた場合、労働者の残業代請求権は消滅し、会社への請求は行えなくなります。

時効の起算日

残業代の請求権が発生するのは、給料日です。そのため、時効の起算日は「給料日の翌日」となります。

例えば、1月分の給与が2/20に支払われたとします。本来1月に行った残業の残業代もこの日に振り込まれるはずですが、この残業代は支払われませんでした。
このような場合には、2/20に残業代の請求権が発生し、その翌日である2/21を起算日として3年以内であれば、労働者はその残業代を会社に請求することができます。

残業代の時効については、こちらで詳しく解説しています。「残業代の時効は2年から3年に 時効3年の考え方と時効を止める方法も解説」

残業代を請求したいと思った時の相談先

残業代の請求を検討する際には、まずは専門機関へその旨を相談するようにしてください。これにより、専門家による手続きのサポートを受けられる可能性があります。

具体的な相談先としては、次のような機関が挙げられます。

【社内通報窓口・労働組合】
会社によっては、社内に労働問題を相談できる社内通報窓口が設置されていることがあります。また、この役割を労働組合が担っていることもあります。
残業代の未払いについては、このような内部の組織に相談するのも有効です。ただし、規模の小さな会社ではこのような窓口が設置されていないことが多いです。その場合、外部の公的機関への相談を検討しましょう。
【労働条件相談ほっとライン】
労働条件相談ほっとラインは、フリーダイヤルで、違法な時間外労働や賃金不払いに対する相談対応および関係機関の紹介を行う、厚生労働省の委託機関です。
労働者はもちろん使用者も無料で利用することができ、匿名での相談も可能です。このサービスでは、法令や過去の裁判例などから相談内容に応じた情報提供を受けられます。よって、残業代請求における不明点を解決したい場合の利用に向いています。
【総合労働相談コーナー】
総合労働相談コーナーは、あらゆる分野の労働問題について相談を受け、助言や指導、あっせんを行う機関。労働局や労働基準監督署を中心に全国379ヵ所に設置されています。

賃金問題をはじめ、職場でのいじめやハラスメント、解雇などさまざまな問題に対応するこの機関では、残業代の請求手続きについて教わったり、労働に関する悩みを聞いてもらったりすることができます。

【労働基準監督署】
会社に法令違反が認められるような場合には、労働基準監督署への相談も効果的です。労働基準監督署では労働者からの相談を受け付けており、その内容によっては、調査を実施し、勧告や指導を行います。

労働基準監督署の調査や指導によって、問題が解決する可能性はありますが、必ずとは言えません。調査をするかどうかは労基署の判断によりますし、労基署の指導には強制力がないためです。

【弁護士】
残業代請求について総合的なサポートを希望するなら、弁護士への相談を検討しましょう。

残業代請求の手続きは専門的で、これを労働者が自身で行うには困難な場合があります。しかし弁護士の手を借りれば、複雑な手続きを任せながら、有利に交渉や訴訟を進めてもらうことができます。
また、弁護士が付くことによって、安心感も得られるでしょう。これにより、労働者の負担は軽くなります。

「弁護士への依頼はハードルが高い」と感じる方は、まずは手軽な無料相談を利用してみても良いでしょう。

このように、未払い残業代に関する相談を受け付ける機関は複数存在します。自身の負担を軽減するためにも、請求手続きはこのような機関によるサポートを受けながら進めるようにしましょう。

残業代請求を弁護士に依頼するメリット

残業代の請求手続きは、弁護士に依頼することをおすすめします。なぜなら、弁護士に依頼することで、依頼者は次のようなメリットを得られるからです。

メリット1 時間と手間がかからない

残業代の請求手続きを自身で行うには、時間と手間がかかります。
しかし、弁護士に依頼してこの手続きを代行してもらえば、依頼者の負担は軽くなります。残業代の計算や内容証明の送付、会社との交渉、労働審判の申し立てなど、必要な手続きは基本的に弁護士が行いますし、場合によっては証拠集めにも弁護士が動きます。
知識と経験のある専門家が代行することで、手続きはスムーズに進み、結果として問題の早期解決を目指せます。

メリット2 弁護士が付いていることで会社側の対応が変わる

残業代の請求手続きでは、会社を相手に交渉を行います。この時、弁護士が付いているケースと付いていないケースで、会社側の対応は変わることが多いです。中には、個人だけで交渉を行う場合には、きちんと対応してくれない会社もあります。

弁護士が交渉を行うことで、会社側は真摯な対応を余儀なくされ、交渉による解決の可能性は高くなります。交渉で問題を解決できれば、両者にとって負担の大きい訴訟を避けることができます。

残業代を請求するデメリット

結論から言うと、未払いの残業代を請求することに、デメリットはありません。

あえて懸念点があるケースを挙げるとすれば、在職中に残業代を請求するケースです。残業代の請求は、退職後に行う方が多いですが、在職中に行うことも可能です。このような場合、残業代請求後の職場での立場や扱いを気にする方は多いでしょう。

しかし、未払いの残業代を請求したことを理由に、降格させられたり解雇されたりといった不当な扱いをすることは、許されません。このような問題が生じた場合、程度によっては会社に賠償金の支払いを求めることも可能です。
弁護士を付けて手続きを行った場合であれば、その弁護士から不当な扱いについて追及を受けることも予想されるため、会社側でもそのような対応を行うことはほぼないでしょう。

また、従業員が残業代を請求したことを受け、「それなら過去に起こしたミスの賠償請求をする」などと反論し、会社が従業員に脅しをかけるようなケースが稀に見られます。このような場合、従業員側に重大な過失がなければその額は少額であり、わざわざ弁護士費用を出して会社が実際に賠償請求を行う可能性は低いです。
万が一このような脅しを受けた場合には、速やかに弁護士に相談し、然るべき対応を行いましょう。

このように、在職中に残業代を請求する場合ですと、不当な扱いや逆に賠償請求されることを心配されるかもしれませんが、実際のところは心配されるほどのリスクは無いと言えるでしょう。

残業代を請求しても負ける可能性はあるか?

残業代請求では、審判や訴訟に負けてしまい、残業代を受け取れない場合もあります。では、それはどのような場合なのでしょうか。

ここでは、残業代請求で負けてしまう可能性のある主な2つのケースについてご説明します。

他のケースや負けないための対策は、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業代請求で負けるケース|負けた裁判例と負けない対策も解説」

ケース1 証拠が不十分なケース

残業代の請求を行うには、残業時間を証明する証拠が必要です。十分な証拠が用意できなかった場合、請求が法的に認められず、残業代を受け取れない可能性があります。

現在では労働時間を正確に管理している会社がほとんどで、パソコンの使用も多く、タイムカードや勤怠データ、パソコンの使用履歴など、残業時間の証拠は残りやすいです。しかし、労働時間を管理しておらず、このようなデータが存在しない会社では、従業員自らがきちんと証拠を残しておくことも大切です。

また、証拠集めについては弁護士に相談するのもひとつの方法でしょう。

ケース2 会社による指示に反し従業員が独断で残業したケース

会社から「残業禁止」の指示が出されており、残業の必要性もないにも関わらず、従業員が独断で残業した場合には、残業代の請求は認められない可能性が高いです。

ただし、その時の業務量から残業を余儀なくされていたり、会社が残業を黙認していたりする時には、請求が認められる可能性もあります。

まとめ

残業代の請求は、法律で決められた労働者の権利であり、その支払いは使用者の義務です。「会社が支払わないと決めているから」「手続きが難しいから」と、未払い残業代の請求をあきらめる必要はありません。時効内であれば、たとえ退職後であっても、過去の残業代の請求は可能です。

ただし、この手続きをスムーズに、そして有利に進めるには、明確な証拠が必要です。
証拠は在職中の方が集めやすいこともありますので、退職してから残業代を請求しようとお考えの方でも、証拠集めは在職中に行っておくと良いでしょう。

また、複雑な未払い残業代の請求手続きは、弁護士への依頼を検討してください。
弁護士が間に入ることで、会社との交渉が有利に進む可能性があります。弁護士の代行により、事務対応や証拠集めの負担も軽減できます。
まずは弁護士事務所の無料相談をご利用ください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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