未払いの残業代を請求しても「負けてしまったらどうしよう」と思う方もいるでしょう。
この記事では、「残業代請求で負けるケース」をテーマに、具体的な裁判例や負けないための対策方法を解説します。
現在サービス残業に苦しんでおり、残業代請求を検討されている方は、ぜひご一読ください。
残業代請求で負けるケース
残業代請求を行ったにもかかわらず、あなたの主張が認められず、満足のいく結果が得られないケースがあります。
この章では、よくある6つのケースを解説します。
ケース1 残業の証拠が不十分
残業代請求で納得のいく解決を目指すためには、残業時間の証拠が必要です。原則として、残業代を立証するのは会社側ではなく、労働者側なのです。
しかし、会社によってはタイムカード等による時間管理自体がなされていないことや、タイムカードはあっても定時で打刻したうえでサービス残業を行うことを強いられていることなどがあります。このような場合、他の証拠等による立証が成功しなければ、勤務していた記録がないため残業していたことが認められない場合があります。
タイムカードがない場合はこちらの記事を参考にしてください。
「タイムカードがない会社で残業代を請求する方法|違法性、代わりになる証拠を解説」
ケース2 会社からの残業の指示が認められなかった
残業代請求に対し、「指示していないのに勝手に残っていただけだ」との反論が会社側からなされることがあります。
しかし、通常の残業、つまり終業時間後の残業(居残り残業)については、会社から黙示の業務命令があったと解されることから、裁判所は、そのような会社の反論を認めないことがほとんどです。
ただ、会社にて厳格な残業承認制が取られ、実際に承認制の元で運用がなされているケースなどでは、業務命令がないことを理由に残業したことが認められない可能性もございます。
他方、始業時間前の残業(早出残業)については、「勝手に早朝に会社に来ていたにすぎない」という反論については、上司から早朝出社の命令があったことや、業務上必要な早出であったことの立証が求められるケースが多くなります。このようなケースでは、会社からの指示があったことを示す業務メール等があると良いでしょう。
ケース3 労働時間とは認められなかった
残業を認めてもらうには、その時間、会社の指揮命令下にあり、仕事をしていたことを証明できなければいけません。
私的な理由で会社に残っていたり、会社のPCを使っていたりした場合は、労働時間にはならないためです。
基本的には、会社にいる時間は労働時間と認められる可能性が高いですが、私用を行っていたり、業務上明らかに不要な滞在であることが伺える場合などは、労働時間(残業時間)であるとは認められない可能性が高いです。
ケース4 固定残業代として残業代が支払われていた
勤務形態の中には、残業代が「固定残業代」として支払われている場合があります。実際の残業の有無にかかわらず、毎月定額の残業代が支払われる雇用形態です。
残業時間が、固定残業代として定める残業時間内の場合、追加で残業代は支払われません。
しかし、定められている残業時間や残業代によっては違法性がある場合もあります。固定残業代については、こちらの記事をご覧ください。
「固定残業代(みなし残業代)を超えた残業代は請求できます。」
ケース5 管理監督者に該当する
「管理監督者」に該当する場合は、残業代は支払われません。しかし、深夜手当は支払われます。
また、法律上の「管理監督者」と一般的に使われる「管理職」は定義が異なります。「管理監督者」に該当しなければ、残業代は支払われますので、残業代がもらえない理由が「管理監督者」である方はその条件などを一度確認されるといいでしょう。
管理監督者については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「「管理職」と「管理監督者」とは 残業代に関わる話」
ケース6 時効が成立している
残業代請求には時効が設けられています。残業代が支払われるはずだった給料日から3年が経過すると時効を迎えてしまい、残業代を回収することが出来なくなります。
残業代の請求を決意したら早急に手続きを進めましょう。
残業代の時効については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業代の時効は2年から3年に 時効3年の考え方と時効を止める方法も解説」
ケース7 労働者とは認められなかった
業務委託契約や請負契約で働いている方は、会社に直接雇用されている労働者とは異なるため、残業代が回収できない可能性があります。自分の雇用形態はきちんと確認しておきましょう。
残業代請求で負けた裁判例
当事務所が関与した案件ではありませんが、残業代請求の裁判において、労働者側の主張が認められなかった判例を紹介します。
どのような点が認められなかったのかを知ることは、残業代請求の準備に活かせますので、参考にしましょう。
神代学園ミューズ音楽院事件(東京高等裁判所平成17年3月30日判決)
専門学校で働いていた労働者が残業代請求を行った裁判です。
学校側は「管理監督者である」と主張しましたが、東京高裁は待遇などの観点から管理監督者であるとは認めませんでした。
しかし、36協定を締結していなかったこと、学校側が朝礼などで残業をしないように従業員に伝えていたことから、従業員が会社の意向に反して残業していたとし、結果として残業代は認められませんでした。やや特異な判断をしたケースと考えられます。
オリエンタルモーター事件(東京高等裁判所平成25年11月21日判決)
会社から支給されているICカードの使用履歴を根拠に、4か月間にわたり残業を行ったと主張し、残業代の支払いを求めた裁判です。
東京高裁は、ICカードは施設に滞留している時間を示しているに過ぎないため、残業の証明にはならないとしました。また、労働者側が主張した「日報の作成」などの業務内容も「会社の業務に直接関係ない」などとし、残業とは認められませんでした。
富士運輸事件(東京高等裁判所平成27年12月24日)
トラックドライバーとして勤務していた労働者が運送会社に対して残業代を請求した裁判です。
この裁判では、会社側が固定残業代を支払っており、固定残業代を上回る残業代は発生していないとし、残業代は認められませんでした。
ことぶき事件(東京高等裁判所平成20年11月11日判決)
美容室の「総店長」という立場にあった労働者が未払い残業代を請求した裁判です。
東京高裁は労働者を、他の店長と比較すると好待遇にあったなどの理由により「管理監督者」に該当すると判断し、残業代を認めませんでした。
残業代請求のリスク
残業代を請求しても、納得できる金額が回収できないなど「負け」と感じる結果になったらどうしようとご心配の方の中には、他のリスクを気にされる方もいます。
この章では考えられるリスクについて解説しますが、いずれも大きなリスクではありませんので、ご安心ください。
1.在職中に請求した場合のリスク
在職中に勤務先の会社を相手取って残業代を請求する場合、勤務先から報復を受けることを心配されるかもしれません。報復とは、急な配属替えや転勤、無視をされるなどの嫌がらせが該当します。
こうした報復行為は許されることではありません。正当な目的のない異動などは無効になりますし、悪質な嫌がらせは不法行為ですので損害賠償請求が可能です。
とは言え、実際このような報復行為があった場合、会社に居づらくなるのは事実です。そのため、退職後に残業代請求をすることも対応策の1つです。
2.負けた場合のリスク
ご紹介してきたとおり、残業代を請求すれば、必ずあなたの主張が認められるわけではありません。
残業代を全く回収できなかった場合や結果に満足できなかった場合、残業代請求のために集めた資料や費やした時間が無駄になったと感じることは否定できません。
しかし、弁護士費用については、完全成功報酬制を採用している弁護士に依頼することで、無駄になることはありません。残業代が回収できた場合にのみ費用が発生するシステムだからです。
当事務所も完全成功報酬制を採用しています。料金につきましては、こちらをご覧ください。
「勝浦総合法律事務所 残業代請求の報酬基準」
残業代請求で負けないための対策
残業代請求で満足のいく結果を得るためには、対策を講じることが大切です。
以下のポイントを押さえておきましょう。
対策1 証拠を集める
残業代を請求するためには証拠が必要です。残業の指示が分かるメールや残業したことが分かるPCの履歴、家族への退勤時間の報告メールなどが活用できます。
退職すると残業の証拠が集めにくくなる可能性があるため、在職中に証拠集めを始めることがおすすめです。しかし、退職後であっても諦める必要はありません。時効が過ぎる前に請求を目指しましょう。
残業代の証拠については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業の証拠を残すにはどうすればいいのか」
対策2 会社の反論を推測する
残業代の支払いを交渉する際、会社側は反論してくる可能性が高いでしょう。「残業を指示していない」「管理監督者に該当する」「固定残業代を支払っている」など、会社側の反論を事前に推測しておくことで、対策することが可能になります。
その反論を否定できるように準備を行うことが大切です。
対策3 弁護士に依頼する
会社側は弁護士を付けることが多く、弁護士ではないあなたが1人で残業代の交渉にあたっても、対等に話を進めることは難しいでしょう。また、過去の判例も踏まえながら残業代請求を行わなければ、満足できる結果が得られない可能性が高まります。
弁護士に依頼をすると、会社との交渉だけではなく、労働審判や訴訟についても代理人として対応してくれます。残業代請求を成功させるためには、法律の専門家に依頼した方が良いと言えます。
まとめ
残業代請求において「負ける」と感じる結果は人それぞれですが、納得のいく結果にするためには、ひとりで闘わず、労働問題に強い弁護士に相談することが大切です。
時効を迎える前に、まずはご相談ください。
監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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