長時間労働や残業代の未払いなど様々な労働問題が提起されている現在においても、タイムカードの設置をするなどして正しく労働時間の把握を行っていない会社が存在します。
正しく労働時間の把握ができていないということは、どれだけの時間働いたかわからないということになりますので、残業代に反映されることはまずないでしょう。
労働時間を管理するということは、残業代請求や過労死の認定といったさまざまな面で重要なポイントになってきます。

では、タイムカードがなく、勤怠の記録がないといった場合に労働時間を把握するためにはどのようにすればよいのでしょうか?本記事で確認していきましょう。

タイムカードがないのは違法なのか?

まず、タイムカードが無いこと自体が違法かどうかを確認しておきましょう。

労働安全衛生法第68条の8の3には次のように規定されています。

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。(労働安全衛生法第68条の8の3)

これは、労働者に対して医師による健康診断を行うことや健康の保持をするために、事業者は労働時間を把握していなければならないと定めた条文です。
しかし、この条文や関連条文などに「タイムカードを使用すること」といった細かい要件は記載されていません。
あくまでも労働時間の状況を把握しておくことが義務づけられているという事ですので、タイムカードがないことが違法であるということにはなりません

一方、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」には「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置」として次の方法によって始業・終業の確認や記録をするよう記載されています。

①使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
②タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。

このことから、タイムカード等の客観的な記録がある方が良いことは明らかです。とは言っても、現状、タイムカードを設置していない会社の場合に今すぐ設置を強制できるものではありません。

そのような状況でどのように残業代を請求すれば良いのでしょうか?

タイムカードがない会社で残業代請求するには?

先ほど「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」の部分で触れましたが、労働時間を把握するための客観的な記録として

・タイムカード
・ICカード
・パソコンの使用時間

が挙げられています。
タイムカードやICカードなどで勤怠管理していない場合は、パソコンの使用時間を確認しましょう。パソコンのログを取得することによって、何時にパソコンを立ち上げ、何時まで稼働させていたかが目に見えてわかるからです。

パソコンのログの取得方法

どのようにログの取得をするのか確認していきましょう。

(1) windows7でのログの取得方法

  1. 「スタート」の中の「コンピューター」を右クリックし、「管理」を選択します。
  2. 「コンピューターの管理」の中に「イベントビューアー」というものがありますので、これをダブルクリックしましょう。
  3. 「カスタムビュー」「アプリケーションとサービス」などに並んで「windowsログ」がありますので、これを選択します。
  4. 「windowsログ」の中の「システム」を右クリックし、「すべてのイベントに名前をつけて保存」をクリックします。
  5. 「名前を付けて保存」する場所を聞かれますので、保存場所を選びましょう。
  6. 「保存」ボタンを押すと「このログを別のコンピューターで正しく表示できるようにするには、表示情報が必要な場合があります。」と表示されます。
    ここでは「表示情報なし」を選択し、OKボタンで次に進みましょう。
  7. ログが保存されました。

(2) windows10でのログの取得方法

  1. スタートボタン(左下のウィンドウマーク)を右クリックし、「イベントビューアー」を選択しましょう。
  2. 「windowsログ」の中の「システム」を右クリックし、「すべてのイベントに名前をつけて保存」をクリックします。
  3. 「名前を付けて保存」する場所を聞かれますので、保存場所を選びましょう。
  4. 「保存」ボタンを押すと「このログを別のコンピューターで正しく表示できるようにするには、表示情報が必要な場合があります。」と表示されます。
    ここでは「表示情報なし」を選択し、OKボタンで次に進みましょう。

イベントIDとは

イベントIDとは、パソコンの起動時間や終了時間を特定してくれるIDになります。
Windows7の場合には6005-6006、Windows10の場合には6005-6006もしくは7001-7002に設定したら、「イベントログサービスの開始・停止」もしくは「ログオン・ログオフ」の時間を特定することができるようになります。

パソコンを使わない職種の場合

中には、「外回りがメインなのでパソコンは使わない」という人もいるかもしれません。その場合には、どのように労働時間を立証すれば良いのでしょうか。

もっとも簡単な方法は、手書きのメモを残しておくことです。手帳への書き込みや日記でも証拠として有用ですので、必ず毎日メモするようにしましょう。
また、労働時間を記録してくれるアプリを利用する方法もありますし、日々家族に退勤することを知らせる旨のメールやLINEの記録も証拠となる可能性があります。
大切なのは、継続的に記録することです。

Googleマップのタイムライン(GPS記録)も活用を

他に労働時間を証明する証拠として、「Googleマップのタイムライン」があります。Googleマップのタイムラインとは、GPSを使って位置情報を記録する機能で、行った場所や滞在時間、移動ルートなどが記録されるものです。

パソコンを使わない職種の方や外回りの仕事の方でも、スマホを常に持ち歩いている方がほとんどだと思いますので、Googleマップのタイムラインを確認すれば、いつどこにいたのかを過去に遡って確認することが可能になります。

Googleマップのタイムラインは100%正確ではない点に注意が必要ですが、労働時間を推測できる証拠として、タイムカードがない場合は有力な証拠になり得ます。実際に、労働時間を証明する証拠として認められた事例も存在します。
未払いの残業代があり請求したいとお考えの方は、「Googleマップのタイムライン」を設定しておくと良いでしょう。

Googleマップのタイムラインの設定方法

①Googleアカウントにログインした状態で、Googleマップを立ち上げます。
②右上のアカウントのアイコンをタップし、「設定」>「個人的なコンテンツ」を開きます。
③位置情報サービスを「常に使用」(「常に許可」)、ロケーション履歴を「オン」に設定します。

タイムカードがあっても、改ざんは違法!

タイムカードが設置されている会社で働いているとしても、改ざんされている場合は違法です。
あってはならないことですが、残業代を支払わないようにするためにタイムカードで退勤を押してから残業させたり、「残業代は15分単位で計算する」としていたりするなど、労働時間を改ざんする会社が残念ながら存在します。
しかし、「1日8時間、週40時間」の労働時間を超えた場合には残業代を支払わなければならないと労働基準法第37条によって定められていますので、改ざんをして残業代を支払わないということは、もちろん違法行為となります。

15分未満の残業時間を切り捨てることも違法行為です。残業代は、1分単位で正しく支払われるべきものです。
タイムカードの有無に関わらず、正しく勤怠管理がなされた上で残業代を支払われていなければなりません。
『タイムカードがあるから大丈夫』というわけではありませんので、不安に思う場合は一度自分が行っている残業に対して正しく残業代が支払われているか確認してみましょう。

まとめ – ログは強い証拠

残業代請求をするにも、まずは労働時間が確定できなければなりません。
タイムカードが無い場合は、ログが非常に強力な証拠として働いてくれます。

実際の裁判でも「デスクワークをする人間が,通常,パソコンの立ち上げと立ち下げをするのは出勤と退勤の直後と直前であることを経験的に推認できるので,他に客観的な時間管理資料がない以上,当該記録(引用者注 ログデータ)を参照するのが相当」(東京地裁平成18年11月10日判決)として、証拠としての価値を認めた裁判例があります。

証拠集めは労働者本人にしかできないことも多いですから、ぜひログの取得方法をマスターしましょう。
また、実際の請求についてわからないことがあれば、すぐに弁護士に相談してください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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