日本では長時間労働によって過労死が引き起こされるなど残業は常々問題視されています。近年では、政府が働き方改革を打ち出し、労働基準法の改正を行うなど、残業時間を減らそうとする取り組みがなされています。
趣味や家庭といったプライベートと仕事を両立させたいという人にとっても、残業時間は少ないほうが良いでしょう。
現在、日本ではどのぐらい残業が行われているのでしょうか。残業時間の平均や上限についてチェックしていきましょう。

調査結果からみる残業時間の平均

まず、厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和3年10月分結果確報」によると、同月における一般労働者の総労働時間の平均合計は165.6時間です(一般労働者とは、常用労働者のうちパートタイム労働者以外の労働者のこと)。
そのうち、所定内労働時間は152.2時間、所定外労働時間は13.4時間となっています。
所定内労働時間は労使間で契約した「始業から終業までの時刻」の間で働く労働時間、所定外労働時間はいわゆる「残業」のことです。月13.4時間であれば、1日に40分程度の残業なのでそこまで多くない感じがします。

しかし、民間企業が行ったアンケート調査結果を見ると、この残業時間とは異なる平均残業時間であることが分かります。例えば、dodaのビジネスパーソン15,000人に対して行った残業時間に関する調査結果「残業の少ない仕事・多い仕事は?90職種別の残業時間ランキング」によると、2020年4~6月の間における1ヶ月あたりの平均残業時間は20.6時間でした。

さらに、OpenWorkの「残業と有休 10年の変化」によると、 2020年および2021年の全年齢の平均残業時間は24時間です(OpenWorkに投稿した社員による残業時間のデータ集計による)。

厚生労働省の結果は会社からの申告に基づくものですので、民間企業の結果の方が実態に近いのではないかと考えられます。

残業時間の少ない職種

前出のdodaの調査結果によると、残業が少ない職種のランキングの上位は次のようになっています。

1 営業事務アシスタント 9.2時間
2 医療事務アシスタント 10.7時間
3 MR(医薬情報担当者(営業系)) 11.8時間
4 薬事(製薬会社で医薬品の承認申請を行う者) 12.5時間
5 一般事務アシスタント 12.7時間

全体的に事務やアシスタント系の職種の残業時間が少ないようです。これはコロナ禍の影響を受ける前からあまり変わらず、事務やアシスタント系は安定して残業時間が少ない傾向にあると言えるようです。
一方、同アンケート調査では飲食業界や旅行・宿泊関連の職種がランキングの上位になっていましたが、こちらはコロナ禍の影響を受け残業時間が減少したと考えられます。実際にdodaの2018年のランキングを見ると上位にはどちらの職種も載っていません。

目安となる残業時間の上限

どれほど残業をすると「長時間労働」になるのでしょうか。
ここでは、残業時間の上限について、目安となる時間を確認しておきましょう。

36協定

労働基準法では法定労働時間である「1日8時間、週40時間」を超えて労働させてはならないとされています。
それ以上残業させたい場合は、労使間で労働基準法第36条に基づく協定、いわゆる36協定を締結する必要があります。
また、36協定を締結しているからといって無制限に残業をさせられるわけではなく、同条によって、残業時間には次のように上限が設けられています。

労働基準法第36条による原則 1ヶ月 45時間
1年 360時間

業種によっては、急なリコール対応や年末の繁忙期などの理由で、1ヶ月45時間を超えて残業することが必要な場合もあるでしょう。そういった場合は特別条項付き36協定を締結すれば、次の上限まで残業させることができるようになります。

特別条項付き36協定による例外 1ヶ月 100時間以内
2~6ヶ月間の全ての月の平均 80時間以内
1年 720時間

過労死ライン

特別条項付き36協定によって最大で月100時間までの残業が認められることがわかりました。しかし、月100時間残業するということは、1ヶ月で20日勤務する場合に平均して1日5時間残業をすることになります。そのような生活が続いたら、心身ともに疲れ果ててしまうことは容易に想像できます。

そこで、厚生労働省は「過労死ライン」を定めています。
残業時間が月45時間を超えて長くなればなるほど疲労の蓄積による脳疾患・心疾患を引き起こす可能性が高くなり、その発症と長時間労働との関連性が高くなるとされています。
時間外労働が前述した特別条項付き36協定の上限である「月100時間」「2~6ヶ月の間の月平均80時間」を超えると過労死につながる危険性があることから、これらが過労死ラインとされています。

未払いの残業代を請求する方法

残業をしているのにもかかわらず、きちんと残業代が支払われていない方がいるのも事実です。これらは本来であれば時間外労働を行った分だけ残業代を支払ってもらうべきなので、会社に対して未払い残業代を請求しなければなりません。
おおまかな流れとしては次のように請求を行います。

1 証拠を集める

できれば、タイムカードや執務記録など、自分が実際に労働した時間を証明することができる証拠を集めます。ただし、弁護士が請求をする際に会社から開示を受けることも可能ですので、手元に資料がなかったとしても請求を断念する必要はありません。
(残業の証拠については、こちらで詳しく解説しています。「残業の証拠を残すにはどうすればいいのか」

2 未払い残業代を算出する

本来もらうべきだった残業代を算出します。
(残業代の計算方法については、こちらで詳しく解説しています。「残業代の計算方法を分かりやすく解説(具体例付き)」

3 会社に請求する

証拠を元に算出した未払い残業代を会社に請求します。

4 労働基準監督署に相談する・労働審判や裁判を行う

会社に請求しても解決しない場合、労働基準監督署に相談を行うなどして会社に是正勧告を行ってもらうという方法があります。ただし、労働基準監督署がすぐに対応してくれるとは限らず、仮に是正勧告が行われたとしても、必ず会社が残業代を支払うという保証もありません。
その場合は、裁判所で労働審判(裁判所で行う話し合い)を行います。労働審判でも解決しない場合は裁判を行うことになります。
(労働審判と裁判については、こちらで詳しく解説しています。「残業代請求では「労働審判」と「裁判」、どちらがお勧め?」

まとめ

残業が多すぎて、残業が少ない職種に転職したいとお考えの方は、まずはこれまで正しく残業代を支払われていたかどうかを確認しましょう。
支払われていない場合は会社に請求しなければなりませんが、会社側が取り合ってくれない場合や、波風を立てずに退職したいと考える場合もあるでしょう。
初めから専門家である弁護士に依頼すると、証拠集めの助言や未払い分の残業代計算をしてもらえますし、会社に請求をかけた際にもスムーズに話が進む可能性は高くなります。まずは一度、お気軽にご相談ください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
「解決したはいいけど、費用の方が高くついた!」ということのないように、残業代請求については初期費用無料かつ完全成功報酬制となっております。成果がなければ弁護士報酬は0円です。お気軽にご相談ください。