「高度プロフェッショナル制度」という言葉を耳にしたことがありますか?
これは2019年4月から施行されている比較的新しい制度なのですが、施行に至るまでは「残業代ゼロ法案」「残業代がもらえなくなるかもしれない」などと批判され、大きな話題を呼びました。
この制度はどういった内容なのか、メリットがあるのかなど、「高度プロフェッショナル制度」について知っていきましょう!

1. 「高度プロフェッショナル制度」とは

「高度プロフェッショナル制度」は、

・高度な専門知識を有し
・一定水準以上の年収を得る(1,075万円以上)

の労働者について、労働基準法で定める労働時間の規制の対象外とする制度のことです。
高度の専門知識を持つ人を対象として、労働時間の長さに関係なく、労働の質や成果によって報酬を支払う「成果報酬制」となっています。つまり、専門能力のある人について、仕事の時間の長さではなく成果に対して賃金が支払われるという仕組みになっているのです。
この制度が採用されると時間に縛られて働くということがなくなるため、対象者には「時間外労働」という概念がなくなり、時間外手当や深夜手当、休日手当も支払われなくなります。
このことを指して「残業代ゼロ」と呼ぶのです。

国としては、「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため」にこの制度を導入したとしています。

2. 高度プロフェッショナル制度のメリット

「残業代ゼロ」という言葉だけを切り取るととあまりよくない印象を受けますが、この制度を導入するメリットはきちんとあります。

出社や退社の時間を自由に決められるので、育児や介護がしやすくなる。 成果があがれば早く仕事を終えられるため、生産性があがる。 「残業すればするほど賃金が高くなる」という矛盾が解消される。 残業代が出ないことから、仕事を早く終わらせようというモチベーションアップにつながる。 「自分の仕事が終わっても、同僚や上司の仕事が終わるまで手伝わなければならない」という風習がなくなる。

このように、「高度プロフェッショナル制度」を導入することによって「仕事が終わっても帰れない」という日本の職場の意識改革を行い、多くのメリットを得ることができるのです。

3. 高度プロフェッショナル制度のデメリット

素晴らしいメリットが多くある反面、多くのデメリットがあるのも確かです。

残業代が出ないにもかかわらず、自分の仕事が終わるまで職場に残らないといけないので「サービス残業」が横行する。 労働時間ではなく成果で評価されるため、従来より評価基準が厳しくなる。 仕事が終わらないために、むしろ労働時間が長くなる。 この制度を採用するかは、本人が自由に決められる制度となっている。しかし、現実には上司と部下の関係があるため断ることができない。 「仕事が終われば早く帰れる」という建前だが、日本の職場環境は「終わらない人を手伝う」風潮にある。そのため、実際には自分の仕事が終わっても帰れないおそれがある。 自分が仕事をする範囲について「職務記述書」を提出しなければならないが、あいまいに書いてしまうと仕事の範囲がとても広くなってしまう。

「高度プロフェッショナル制度」に反対する人は、現在の日本の職場環境に高度プロフェッショナル労働制が合わないことを理由とします。
欧米諸国では自分の仕事をやり切ったら帰るというのが当たり前ですが、日本は未だに上司より先に帰社することをためらうといった人が多いのが現状です。
そのため、せっかく高度プロフェッショナル制度を導入しても、ただサービス残業が増えてしまうだけだというのも一理あります。

4. 対象の職種は?

高度プロフェッショナル制度は対象となる業務や職種が限定されています。
対象となるのは、「高度の専門的知識、技術又は経験を要する」とともに「業務に従事した時間と 成果との関連性が強くない」業務です。
労働基準法施行規則第34条の2第3項によって業務や職種が定められています。

金融商品の開発業務 金融商品のディーリング業務 アナリストの 業務(企業・市場等の高度な分析業務) コンサルタントの業務(事業・業務の企画 運営に関する高度な考案又は助言の業務) 研究開発業務等

ただし、これらの対象職種であっても、「高度プロフェッショナル制度」を適用するためにはいくつかの条件を満たす必要があります。

職務の範囲が明確に定められていること 職務記述書などに署名する形で同意すること (希望しない労働者には制度は適用されない) 年収1075万円以上 年少者(満18歳未満)には適用しない

労働者があまりに低い賃金とならないよう、一応の配慮はされているようです。
これらの条件も踏まえた上で、現時点で対象となる人は、サラリーマンのうち4%ほどです。

また、高度プロフェッショナル制度を導入する際には、設置した労使委員会での5分の4以上の委員による賛成決議が必要です。決議では対象業務や対象労働者の範囲などを明らかにし、高度プロフェッショナル制度に同意しなかった労働者について解雇等の不当な扱いをしないことなどを定めます。

高度プロフェッショナル制度の利用状況

「高度プロフェッショナル制度」を導入している企業は「健康管理時間」を把握することとされています。
健康管理時間とは、対象となる労働者が事業場内・事業場外において労働した合計の時間のことです(休憩時間を含む)。

厚生労働省が令和3年6月30日に公表した「高度プロフェッショナル制度に関する報告の状況」によると、令和3年3月末時点で、令和3年3月末時点で、この制度の導入した企業は20社(21事業場)、対象労働者数の合計は552人となっています。

このうち、労働者の1か月あたりの健康管理時間を見ると、6つの事業場で最長月300時間~400時間となっている労働者がいたという結果が出ています。
一般的な労働者が1日8時間で20日働いた場合は月160時間となりますので、「高度プロフェッショナル制度」の労働者が仮に300時間働いたとすると140時間の残業をしたことになります。この結果を受けて、この制度が過重労働につながっていることが明らかになったともいえます。

健康を確保するための措置

先述したとおり、「高度プロフェッショナル制度」を導入している企業で長時間労働を行っている方がいるのは確かです。
使用者には労働者健康状態を維持するために「健康管理時間」を把握し、これに基づいて労働安全衛生法に基づいた健康診断および医師面談を実施することが義務づけられています。
また、「選択的措置」として次の4つのうちいずれかを実践しなければなりません。

・勤務間インターバル制度と深夜業務の日数制限
・健康管理時間の上限設定
・連続2週間以上の休日
・臨時の健康診断

勤務間インターバル制度と深夜業務の日数制限

勤務間インターバル制度は、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までの間に、一定時間の休息時間を確保する制度です。
インターバル時間は11時間以上に設定しなければならず、深夜業務についても回数を1ヶ月4回以内にする必要があります。

健康管理時間の上限設定

1週間あたり40時間を超える労働時間について、1か月あたり100時間以内または3か月あたり240時間を超えないように設定しなければなりません。

連続2週間以上の休日

連続2週間の休日については、1年に1回以上設定する必要があります。この期間に有給休暇を使ってしまうと、連続2週間の期間の対象外になってしまうので注意が必要です。本人の請求があれば連続1週間を2回以上取得することも可能です。
なお、前述した報告状況によるとこちらを選択している企業が一番多かったようです。

臨時の健康診断

健康管理時間が1週間あたり40時間を超える場合で、超えた時間が月80時間を超えた労働者または本人からの申し出があった場合に臨時の健康診断を行います。
また、疲労の蓄積や心身の状況等から必要と認められる場合にも臨時の健康診断を行います。

まとめ

「高度プロフェッショナル制度」は、仕事とプライベートが充実するような働き方ができるように設けられた制度なのですが、結果としては過重労働につながっていることが否定できなくなっています。
制度が正しく使われているか気になる場合や、過重労働によって心身に影響がある場合など、労働状況に不安がある場合は一度弁護士などに相談してみてはいかがでしょうか。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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