日本には労働者の働き方について規定している「労働基準法」があります。この法律は労働者が働く条件の最低基準を定めているものですが、残念なことにこの基準が守られていない会社が存在します。
サービス残業が常態化し、悩んでいる人もいるでしょう。慢性的な長時間労働から過労死に至るケースもあり、痛ましい事件は定期的に報道されています。労働時間の改善は日本社会の課題です。
では、未払いの残業代が発生している場合には、労働者側はどのように対処すれば良いでしょうか。この記事では残業代の回収について、勝率や回収のポイントを詳しく解説します。
残業代請求の勝率はどのくらい?
残業代の請求を行う場合、気になるのは「勝率」でしょう。
一般的に、未払い残業代の請求はタイムカードやパソコンのオンオフの時間などの証拠が得やすく、労働者側が負けてしまうケースは少ない傾向にあります。しかし、雇用形態や集められた証拠の有効性によっては、負けてしまう可能性もあります。
このように未払いの残業代が回収できるかどうかはケースバイケースであるため、勝率を気にする必要はあまり無いと言えます。
また、何を持って「勝ち」「負け」とするかも個人によって異なるため、一概には言えないのです。例として以下のようなケースでは、満額の残業代が回収できなくても、勝ったと感じる方が多いでしょう。
・一部の残業代は支払われ、その後も円満に勤務を続けられた
・満額ではないものの納得できる金額の残業代が回収でき、早期に解決できた
残業代が全く回収できなかった場合は誰にとっても「負け」を意味しますが、「勝った」と感じるケースは人それぞれです。勝率を気にするのではなく、望む結果を手に入れるために、十分な準備をすることが重要になります。
残業代を回収できる可能性が高いケース
未払い残業代を請求する場合、どのようなケースなら回収できる可能性が高いのでしょうか。
ここでは、残業代を回収できる可能性が高い5つのケースを解説します。
ケース1 証拠が十分に用意できた
残業代請求に備えて用意周到に証拠を揃えられた場合、残業代の未払いが認められる可能性は高くなります。
タイムカード、勤務時間の証明ができる日報などがあれば、会社側に残業を証明できます。
残業代の証拠については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業の証拠を残すにはどうすればいいのか」
ケース2 名ばかり管理職に該当する
労働基準法上では、「管理監督者」に該当する職務にいる方には残業代を支払わなくてよいとされています。
管理監督者は以下の3つの条件をすべて満たしている必要があり、いわゆる「管理職」とは異なります。
ところが、会社側が残業代を不当に支払わないようにするため、本来は要件を満たしていないにも関わらず「管理監督者」にされている管理職の方がいます。このような方を「名ばかり管理職」と呼びます。
「名ばかり管理職」であれば、残業代が回収できるでしょう。
「名ばかり管理職」については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「「名ばかり管理職」でも残業代は貰えます。」
ケース3 固定残業代(みなし残業代)の残業時間以上に残業した
「固定残業代」(みなし残業代)は、残業の有無にかかわらず支払われますが、固定残業代以上に残業している場合は、残業代が発生します。
固定残業代は残業が多い職場に導入されていることが多く、「固定残業代をもらっているから、それ以外の残業代は絶対出ない」と認識している方もいるかもしれませんが、それは誤りです。
また、固定残業代制度自体が正しく導入されていないケースでは固定残業代を否定することも可能です。
固定残業代制については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「固定残業代(みなし残業代)を超えた残業代は請求できます。」
ケース4 タイムカードを正しい時間に打刻させてもらえていない
本来正しい労働時間を記録するためにある「タイムカード」ですが、会社によっては定時の終業時刻での打刻を強制しているケースがあります。
この場合、タイムカードを元に残業時間を判断することはできませんので、他の証拠が必要になります。
タイムカードがない方は、こちらの記事を参考にしてください。
「タイムカードがない会社で残業代を請求する方法|違法性、代わりになる証拠を解説」
ケース5 残業時間を1分単位で管理していない
本来残業代は「1分単位」で計算する必要があります。しかし、会社によっては10分単位や30分単位など、独自のルールで残業時間を計算しているところがあります。
こうした計算に基づく残業代の支払いは法律で認められておらず、請求すれば支払われる可能性が高いでしょう。
残業代が何時間から請求できるのかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業代の請求は何時間から?」
残業代請求時には時効に注意
残業代の請求には時効があり、時効を迎えてしまうと残業代を請求できなくなってしまいます。残業代の時効は、3年です。本来残業代が支給されるはずだった給料日からカウントします。
2020年4月より前の残業代の時効は2年でしたが、2020年4月以降は3年になっています。
退職後は、時効により、期間が経過するごとに回収できる残業代が少なくなってしまいますので、早めに請求することが重要です。
残業代の時効については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業代の時効は2年から3年に 時効3年の考え方と時効を止める方法も解説」
未払い残業代を回収する可能性を高めるポイント
残業代を請求する以上、できる限り回収を成功させたいものですが、確実に回収するにはどんなポイントを押さえておくべきでしょうか。
回収の可能性を高くする3つのポイントを解説します。
ポイント1 証拠集めを徹底する
残業代の未払いを証明し、会社に支払いを認めさせるためには証拠をなるべく多く確保しましょう。
例として、以下のようなものがあれば記録を集めていきましょう。
・タイムカード
・勤怠管理システムなどの記録データ
・パソコンのオンオフの時間が分かるデータ
・勤務日報
・タコグラフ(運送業の場合) など
証拠集めに悩んだら、退職前に弁護士に相談することがおすすめです。証拠集めのアドバイスをもらえます。
この他に、雇用契約書や就業規則なども用意しておきましょう。社外に持ち出せない書類についてはコピーを取得しましょう。
もっとも、資料がないケースでも残業代請求は可能ですので、資料がなくても諦める必要はありません。
ポイント2 会社の反論を予測して備える
残業代を請求しても、会社によっては強硬な姿勢を見せ、不当な反論をしてくることもあります。そこで、あらかじめ会社側の反論を予測し、準備しておくことが重要です。
予想される会社側の反論には、以下のようなものがあります。
・残業代を請求してきた労働者は管理監督者であるため、残業代の支払いは不要である
・残業は会社側の指示ではなく、労働者が勝手に残っていただけであるため、労働時間にはあたらない
・固定残業代を支払っており、未払いの残業代はない
会社側はすんなりと残業代の支払いに応じることは少ないので、反論を予測しておくことで、それに合わせた証拠を準備しておくなどの対策を講じることが可能になります。
ポイント3 労働問題に強い弁護士に依頼する
会社との交渉が決裂した場合には、労働審判や訴訟にステージを変え、争いを続けることも可能です。その場合、個人が一人で対応することは非常に難しくなります。
残業代を請求するあなたと会社側で意見が対立している場合、裁判所にあなたの主張を認めてもらう必要があります。経験のない法的な手続きを進め、法律や判例をもとに相手を説得することは素人には到底できることではありません。
残業代の回収を目指すのであれば、専門家である弁護士の力を借りた方が良いでしょう。
まとめ
この記事では「残業代請求の勝率」に注目し、回収するためのポイントについても詳しく解説しました。
残業代請求に悩んだら、まずは弁護士に相談することがおすすめです。弁護士は証拠集めのアドバイスはもちろんのこと、代理人として交渉や労働審判、訴訟にも対応できます。
現在残業代に関するお悩みを抱えているなら、まずはお気軽にご相談ください。
監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
「解決したはいいけど、費用の方が高くついた!」ということのないように、残業代請求については初期費用無料かつ完全成功報酬制となっております。成果がなければ弁護士報酬は0円です。お気軽にご相談ください。