残業代(割増賃金)は、その従業員の基礎賃金と残業時間、残業の状況に合った割増率をもとに計算されます。
この基礎賃金というのは、所定労働時間における1時間あたりの賃金のこと。基本給に各種手当を足した金額を、所定労働時間で除して算出します。
基礎賃金には各種手当が含まれますが、一部手当については除外が認められています。
では、この計算において、住宅手当はどのように扱われるのでしょうか。
今回は、残業代の計算における住宅手当の扱いについて、具体例を挙げながらわかりやすく解説します。
目次
基本的に住宅手当は基礎賃金の計算に含まない
基礎賃金とは、「(基本給+各種手当)÷所定労働時間」で算出される、労働1時間あたりの賃金のことを指します。この賃金は残業単価として、残業代の計算に用いられるものです。
基礎賃金の計算には、上記のとおり「各種手当」が含まれます。しかし、住宅手当が基礎賃金の計算に含まれることは、基本的にはありません。(後ほど例外を紹介します)
厚生労働省では、「割増賃金の基礎となる賃金」から除外できるものとして、以下の種類の手当を挙げています。
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金
(参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金とは?」)
上記の手当については、割増賃金の単価計算に含む必要は原則ありません。一方、上記に記載のない役職手当や資格手当などその他手当については、すべて計算に含む必要があります。
ただし、上記に規定された手当については、名称ではなくその実態で判断される点に注意が必要です。
例えば、通勤手当が通勤でかかった実費をもとに各従業員に支給されている場合、その実態は通勤手当として認められ、基礎賃金からの除外が認められます。しかし、通勤の実費に関わらず、全員に一律で支給されているような手当の場合、その実態は通勤手当とは認められず、基礎賃金の計算からの除外も認められません。
実は住宅手当を基礎賃金に含むべきケースもある
住宅手当は原則として基礎賃金の計算に含まれません。しかし「住宅手当という名称であれば、どんな実態であろうと基礎賃金の計算から除外される」というわけではありません。
厚生労働省では、割増賃金の計算から除外できる住宅手当の条件として、以下の4つを挙げています。
基礎賃金の計算から除外される住宅手当は、住宅に要する費用に応じて算定される手当を指す。
1の「住宅に要する費用」とは、賃貸住宅の場合は居住に必要な住宅・設備の賃貸のために必要な費用を、持家の場合は居住に必要な住宅の購入や管理等に必要な費用を指す。
1の「費用に応じた算定」とは、費用に定率を乗じた額とすることや、費用を段階的に区分し費用が増えるにしたがって額を多くすることを指す。
住宅に必要なもの以外の費用に応じて算定される手当や、住宅に必要な費用に関わらず一律定額で支給される手当は、基礎賃金の計算から除外される住宅手当にはあたらない
(参考:厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金について」)
上記(1〜4)の条件に照らし、実態として適切に住宅手当制度が運用されているとは言えない場合、基礎賃金から除外される住宅手当と認めることはできません。
どのような住宅手当が基礎賃金の計算に含まれるか
この章では、基礎賃金から除外される住宅手当として「認められる場合」と、「そうでない場合」に分け、それぞれの具体例を挙げていきます。
住宅手当が計算に含まれない例
住宅手当は、前章でご紹介した条件の③のとおり、住宅に必要な費用の金額に応じて支給されるべきものだとされています。
したがって、以下のようなケースで支払われる手当は住宅手当として認められ、基礎賃金の計算から除外できると考えられます。
・賃貸住宅に住む各従業員に、家賃月額の一定割合の金額を支給する
・持ち家に住む各従業員に、ローン月額の一定割合の金額を支給する
・家賃月額が10万円未満の従業員には2万円、家賃月額が10万円以上の従業員には3万円と段階的区分に応じた金額を支給する など
上記のようなパターンで住宅手当が支給されている場合、「基礎賃金の計算から除外できる住宅手当」として認められる可能性が高いです。
住宅手当が計算に含まれる例 ※違法の可能性あり
「個々の居住に必要な費用」に応じて支給されていない住宅手当は、たとえ住宅手当という名称であっても、「基礎賃金の計算から除外できる住宅手当」とは認められません。
具体的には、以下のようなケースが考えられます。
・賃貸住宅に住む従業員に一律3万円を、持ち家に住む従業員に一律2万円を支給する
・従業員全員に一律で3万円を支給する など
上記のような手当は、基礎賃金から除外できる住宅手当の条件を満たしません。
もしあなたが上記のような「一律の住宅手当」を会社から支給されており、かつ住宅手当が基礎賃金の計算から除外されて残業代が計算されている場合、支払われる残業代は本来よりも少なくなってしまうでしょう。
違法の場合は残業代を再計算して請求できる可能性も
住宅手当が本来基礎賃金に含まれるべきであるにもかかわらず、会社がそれを含めていない場合、労働者は未払いとなっている残業代を再計算して請求できる可能性があります。
住宅手当が全従業員に対して一律の金額で支給されていたり、実際の住居費に関係なく支給されたりしている場合、それは手当ではなく労働者の給与の一部と判断され、割増賃金の算定基礎に含めるべきと解釈される可能性が高いです。
しかし、会社がこれを基礎賃金に算入していない場合、時間外労働や休日労働に対して本来支払われるべき割増賃金が過少計算され、結果的に労働者が適正な賃金を受け取れない状況が発生します。このような場合、労働者は過去にさかのぼって、本来支払われるべき割増賃金を請求することが可能です。
住宅手当によって残業代はここまで変わる
「住宅手当が基礎賃金の計算に含まれるかどうか」は、残業代の計算において非常に重要です。特に、給与の大部分を住宅手当が占めている場合は、住宅手当が基礎賃金の計算に含まれるかどうかによって、支払われる残業代は大きく変動します。
ここでは「住宅手当が計算から除外される場合」と「住宅手当が計算から除外されない場合」に分け、それぞれのケースで支払われる3年分の残業代を計算してみましょう。
【条件】
基本給:月額25万円
住宅手当:月額5万円(その他手当なし)
所定労働時間:月160時間
時間外労働:月40時間
深夜労働や休日出勤はなし(割増率は時間外労働に対する✕1.25のみ)
【住宅手当が計算から除外される場合】
25万円÷160時間×40時間×1.25=78,125円※1カ月の残業代
78,125円×36ヶ月=2,812,500円※3年分の残業代
【住宅手当が計算から除外されない場合】
(25万円+5万円)÷160時間×40時間×1.25=93,750円※1カ月の残業代
93,750円×36カ月=3,375,000円※3年分の残業代
【3年間の残業代の差額】
3,375,000円 – 2,812,500円 = 562,500円
上記条件の場合、住宅手当を計算に含むかどうかによって、支払われる残業代に3年間で562,500円もの差が生まれることがわかります。
住宅手当が不当に除外されてしまっている場合、労働者は多額の残業代不払いを被ることもあるのです。
残業代に関する相談先
残業代が適切に支払われていない場合には、然るべき機関に相談し、今後の対応についてアドバイスを受ける必要があります。具体的な相談先としては、「労働基準監督署」または「弁護士」が考えられます。
1. 労働基準監督署
労働基準監督署とは、各種労働関連法令にもとづき事業所を監視・監督する機関です。労働問題も取り扱っており、残業代の未払いについても窓口で相談することが可能です。
労基署は必要に応じて調査を行い、会社に対して是正勧告などを行います。
ただし労基署は、個別の相談者のために未払い残業代を代わりに回収してくれるわけではありません。
2. 弁護士
残業代の不適切な支払いについては、労働問題を扱う弁護士に相談するのもひとつの方法です。
弁護士は労働基準監督署と異なり、労働者の未払い残業代を回収するために動くことが可能です。未払い残業代請求には証拠収集や残業代の計算、会社との交渉などが必要ですが、弁護士はこれらの煩雑な手続きを代行します。
未払い残業代の相談先については、「残業代が出ない場合、どこに相談すればいいのか?具体的な相談先等を解説」で詳しく解説しています。
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監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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