残業代を支払わずに長時間労働を求める悪質な会社が存在します。そうした場合、泣き寝入りしている方は少なくありません。

では、支払われていない残業代を請求するなら、どんなことを知っておくべきでしょうか。

今回の記事では「残業代請求のよくある失敗例」をテーマに、残業代請求の成功に向けて、失敗のリスクや対策方法を紹介します。
現在未払い残業代に悩んでいる方、残業代について専門家への相談を検討している方は、ぜひご一読ください。

残業代請求のよくある失敗例

残業代が支払われていない場合、会社側に未払い残業代の支払いを求めることができます。しかし、残業代請求は必ずしも成功するとは限りません。

そこで、この章ではよくある失敗例について5つの例を紹介します。残業代請求を成功させるためにも、まずは失敗例について知っておきましょう。

失敗例1 未払いの残業代が発生していない

1つ目の例は、「未払いの残業代が発生していない」ケースです。例えば、労働者側が残業していたと主張していても、雇用契約を確認すると残業代が発生しない場合などがあります。
未払い残業代が発生しない6つのケースをご紹介します。

ケース1 残業時間とみなされない

会社側の指示なく始業前に仕事の準備をしていたり、残業承認制が運用されているのに承認がなされないまま終業後に残業していた場合、残業時間とはみなされない場合があります。これは、会社の指揮命令下で働いていた時間が、労働時間となるためです(終業後の残業については直接的な指示がない場合でも、労働時間とみなされる場合が大半です。)。

労働時間の定義については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「労働時間とは?具体例で解説|勤務時間との違い、休憩時間の決まりも」

ケース2 労働者に該当しない

雇用契約が業務委託や請負契約の場合、労働者に該当しないため残業代請求が認められない可能性があります(業務内容によっては認められる場合があります。)。

ケース3 事業場外みなし労働時間制で雇用されている

事業場外みなし労働時間制とは、外回りの営業職など業務の一部や全てをオフィスの外で行う職種に認められる雇用形態です。事業場外みなし労働時間制は、何時間働いてもあらかじめ定めた時間を労働時間とみなす制度であるため、残業代の支払いは原則ありません。

しかし、事業場外みなし労働時間制を適用できるケースは限られていますので、事業場外みなし労働時間制で働いているからと言って、残業代の請求を諦める必要はありません。

事業場外みなし労働時間制については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「事業場外みなし労働時間制」は要注意。外回り営業だから残業代ゼロ!?」

ケース4 裁量労働制で雇用されている

裁量労働制で雇用されている場合、残業代は発生しません。しかし、みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた部分は残業代が発生します。また、深夜労働や休日労働も残業代が発生します。

なお、裁量労働制が適用できる職種や手続きは厳格に決められています。残業代を支払いたくない会社側が不正に適用しているケースもありますので、注意が必要です。

ケース5 管理監督者に該当する

労働基準法上の「管理監督者」である場合、残業代は発生しません。しかし、「管理監督者」は役職名で判断できるものではなく、一般的な「管理職」とは全く異なるものです。
「管理監督者」に当てはまらない場合は、残業代請求が可能となります。

管理職の残業代については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「管理職の残業代、出る?出ない?その判断のポイントは?」

ケース6 固定残業代制で雇用されている

会社によってはあらかじめ残業があることを想定して、「固定残業代制」を導入している場合があります。この制度ではすでに残業代が給与に加算されているため、支給されている固定残業代を超過していない場合は、未払い残業代は発生しません。

もっとも、会社が固定残業代制を導入していても、有効な制度とは認められないケースもたくさんあります。固定残業代制については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「固定残業代(みなし残業代)を超えた残業代は請求できます。」

失敗例2 残業代が時効で消滅している

残業代の請求を思い立っても、給料日から3年を経過してしまうと時効が成立するため請求ができません。
長年の残業代をまとめて請求しようとしても、過去3年より昔のものは請求ができないのです。

残業代の時効については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業代の時効は2年から3年に 時効3年の考え方と時効を止める方法も解説」

失敗例3 残業の証拠がない

残業の証拠がない、もしくは乏しい場合には会社側が残業を認めない可能性があります。証拠が少ないと交渉や訴訟時にも、労働者側の主張が認められない可能性が高くなるでしょう。

証拠のつもりで残していたタイムカードやメモなども、内容によっては残業代の立証に乏しいと判断されることもあります。

残業代の証拠については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業の証拠を残すにはどうすればいいのか」

失敗例4 労働基準監督署にだけ相談した

残業代の請求や労働環境の改善に関しては、労働基準監督署も相談に応じています。しかし、相談員によるアドバイスに留まり、会社への指導には至らないケースも多いのです。告発のつもりで相談をしても、進展しない場合があります。

失敗例5 弁護士に頼らず自分で請求した

会社側に対して未払い残業代の請求を行う際に、自分の力だけで進めようとすると失敗に終わる可能性が高くなります。
ただ直談判をしても、会社側が不当な意見を主張し続ければ、交渉は決裂します。また、会社側は弁護士を付けるケースも多く、その場合法的根拠を弁護士と対等に話すことは難しいでしょう。

たとえ会社側が残業代の未払いを認めたとしても、正しい残業代の計算できていなかったり、少額での示談をせざるを得なくなったりする場合もあります。また、本来請求できる額がもっと多いのに、それに気付かずに和解してしまい、失敗したこと自体に気付けないケースも考えられます。

残業代請求が失敗した場合のリスク

ご紹介してきたように残業代請求は失敗してしまう可能性もあります。しかし、失敗したとしても、心配するような大きなリスクはありません。この章では、みなさんが想定するであろう弁護士費用のリスクについて解説します。

残業代請求には、複雑な残業代の計算や証拠の収集などが必要であり、弁護士に依頼することが理想的です。しかし、残業代が回収できなかったら、弁護士費用だけ支払う羽目にならないか心配の方もいるでしょう。

近年では完全成功報酬を採用している法律事務所も増加しています。そのため、残業代が回収できなかった場合は費用がかからないという事務所も存在します。その場合、弁護士費用だけ支払いが必要になるということにはなりませんのでご安心ください。

弁護士費用については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「「残業代請求」弁護士費用の相場とは?他事務所と比較して見て下さい」

残業代請求を失敗しないためにできること

残業代を会社側に請求する際は、成功率を上げるために準備が必要です。以下の3点を押さえておきましょう。

1.可能な限り証拠を集めておく

残業代請求は根拠となる証拠が必要です。可能な限り証拠集めを進めていきましょう。
退職してしまうと集めにくい証拠もあるため、在職中にコツコツと収集することが重要です。証拠として使用できるものは以下のとおりです。

・雇用契約書
・就業規則
・給与明細
・タイムカードなどの勤怠データ
・日報やメール
・パソコンのログイン・ログオフ記録
・グーグルマップのタイムライン等のGPS記録 など

在職中にできるだけたくさんの証拠を入手しておきましょう。

残業代の証拠については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業の証拠を残すにはどうすればいいのか」

2.弁護士に依頼する

残業代の請求は立証責任が労働者側にあります。証拠を集めたり、交渉を行ったりと大変な労力がかかるため、残業代の回収を成功させるためには弁護士に依頼することがおすすめです。

会社側も弁護士を付けることが多く、労働者側も弁護士に依頼をしなければ不利な状況に陥りやすくなります。

3.団体交渉を検討する

不当な労働環境で多くの労働者が働いている場合、団体交渉を行うことも有効な手段の1つです。
労働組合は会社側と団体交渉をし、未払い残業代の支払いや労働環境の改善を要求できます。団体交渉は法律上、会社側が拒むことはできません。

勤務先の会社に労働組合が無い場合は、「〇〇一般労働組合」などの名称で一人から加入できる組合(合同労組)を活用しましょう。ただし、労働審判や訴訟に転じる場合は弁護士への依頼が必要になるでしょう。

まとめ

今回の記事では「残業代請求のよくある失敗例」をテーマに、失敗した際に考えられるリスクや、対策方法を詳しく解説しました。未払い残業代の請求は、会社との交渉や過去の判例を踏まえて適切に行う必要があります。

一人で悩むのではなく労働問題に精通した専門家に依頼し、負けないように準備を進めていくことがおすすめです。まずはお気軽に弁護士へご相談ください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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