「未払い残業代を請求したいけど、証拠が手元にない」
「残業代を会社に請求するためには証拠が必要らしいけど、どんなものが使える?」

未払い残業代を会社側に請求する場合、「残業をしていた」という事実を証明するために証拠が必要です。残業代を不当に支払わない会社は、証拠の提出を求めても応じてくれる可能性は高いとは言いきれません。そのため、労働者側は自分で証拠を集める必要があります。

では、残業代を請求したいけど、証拠がない場合はどうすれば良いでしょうか。

結論から言うと、証拠がない場合でも「対処法」はあります。この記事では残業代請求時に証拠がない場合の対処法について、詳しく解説します。証拠として使えるものも解説しますので、ぜひご一読ください。

残業代請求に必要な証拠

残業代請求を行う場合、残業の事実を証明する証拠が必要です。残業があった事実を証明する「立証責任」は労働者側にあるのです。

しかし、労働者がいきなり会社側に証拠を求めても、確実に提出してくれるわけではありません。まずは自身でしっかりと証拠を集めておく必要があります。
では、一体どんな証拠が有効なのでしょうか。

労働契約の証拠

未払い残業代を請求する場合、「労働契約の証拠」となるものを用意しておくことがおすすめです。労働契約の証拠となるものは以下のとおりです。

1 就業規則

就業規則には、労働時間や賃金に関することなど労働条件が記載されており、ご自身がどのような雇用契約となっているのかを確認することができます。

労働基準法第89条では、「常時10人以上の労働者を使用する使用者」に該当する場合、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。雇用されている労働者なら誰でも確認できるように保管されているはずです。

2 雇用契約書

会社と労働者が労働条件を双方に確認し、労使契約を交わす書面を「雇用契約書」と言います。勤務開始前に交わす書面ですが、法的な作成義務はないため、手元に無い場合もあります。

3 労働条件通知書

労働条件通知書は企業側が「労働条件を労働者へ通知する」書面で、雇用契約書とは異なります。また、労働条件通知書は法的な作成義務があるため、必ず作成されなければならないものです(しかし、実際は作成されていないケースも散見されます)。

雇用契約書や労働条件通知書については、こちらで詳しく解説しています。
「雇用契約書がないのは違法?労働条件通知書との違いも解説」

支払われた金額の証拠

「残業代が支払われていない」ことを証明するためには、会社から支払われていた給与金額がわかるものが必要です。
給与明細や源泉徴収票が確認できれば、残業代が未払いとなっていることを証明できます。

労働時間の証拠

実際に残業があった事実を証明するための証拠も必要です。実際に働いた勤務時間がわかるものを準備してください。

タイムカードや勤怠システムの記録、業務日誌・日報などは集めやすいでしょう。また、運送業の場合はタコグラフも有効です。

勤怠の記録がない場合は、Googleマップのタイムライン、家族や友人への連絡、交通系ICカードの記録(出退勤の記録)、タクシーの領収書、自分で記録したメモや日記なども残業の事実を証明するために活用できます。
他にも会社のPCから送ったメールの記録、会社のPCのログイン記録なども有効です。

残業の証拠については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「残業の証拠を残すにはどうすればいいのか」

タイムカードがない方は、こちらの記事をご覧ください。
「タイムカードがない会社で残業代を請求する方法|違法性、代わりになる証拠を解説」

未払い残業代の証拠が手元にない場合の対処法

立証責任が労働者側にある以上、タイムカードや雇用契約書など、手に入れやすい証拠はご自身で確保しておくことが理想です。

しかし、すでに退職後である場合や社内の管理体制によっては、手に入れるのが難しいこともあるでしょう。

この章では、未払い残業代の証拠が手元にない場合の対処法を紹介します。

自分の手元にはないが、会社には証拠がある場合

残業の証拠が自分の手元にはなく、会社側に残されている場合、どうすれば手に入れることができるでしょうか。主な方法は以下の3つです。

1 会社に開示請求する

1つ目の方法は、会社に直接開示請求をする方法です。ただし、会社側が拒む可能性があります。また、開示請求をしてもすぐに応じてくれない可能性も高く、証拠を破棄されるリスクもあります。

2 証拠保全手続き

証拠集めに苦戦している場合、「証拠保全」を使うことも有効な方法です。訴訟で未払い残業代について争う場合、裁判所に「証拠を残す様に求める」ことができます。破棄や改ざんの恐れがある場合、裁判所に証拠保全の申立てを行いましょう。

この手続きに強制力は無いですが、裁判所からの命令のため、応じるケースがほとんどでしょう。

3 文書提出命令

3つ目の文書提出命令は、裁判を起こした上で、裁判所を介して行うこととなります。残業代請求の場合、タイムカードなどの提出を裁判所が命じたら、例外事由に該当しない限り会社側は文書提出を拒めません。タイムカードなどには保管義務(※1)があるため、提出が可能なはずです。

もしも、労働者側が不利になるように、意図的に証拠を破棄してしまったら、裁判所は「その事実に関する相手方の主張」を認めます。つまり、会社側が裁判所の命令に従わないでいると、労働者側の主張が認められます。

(※1)タイムカードなどの保管義務とは
使用者は出勤簿やタイムカードなどの労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づいて保管する義務があります。2020年4月の労働基準法の改正により、タイムカードなどの記録の保管期間は、3年から5年に変更されました。

自分の手元に証拠がなく、会社からも証拠が提出されない場合

タイムカードなどの証拠が手元に全くなく、会社からも証拠が提出されない場合でも、残業代の請求が可能な場合もあります。

証拠が用意できない理由が、会社の管理体制に問題がある場合など会社側に起因するものであれば、労働者側で用意できる証拠を元に労働時間が推計され、残業が認められる可能性があるのです。

証拠として使えるものを、もう1度思い出してみましょう。
業務日報や社内メールなどには、必ず日時が記載されているはずです。出張が多く、パソコンのログイン履歴だけでは労働時間が判断できない場合、個人のスマホに帰宅を連絡するメールや業務の報告は残っていませんか。
証拠として有効なものはさまざまです。自分で判断せず、弁護士などの専門家に判断を仰ぐ方がいいでしょう。

なお、現在在職中でサービス残業に悩んでいる場合は、帰宅時間や残業内容などを継続して記録に残しておきましょう(グーグルタイムラインの記録が残るようにスマホを設定しておくのをお勧めします)。

証拠が一部の期間抜けてしまっている場合

証拠として準備したタイムカードなどの記録が、一部の期間だけ無いこともあるでしょう。
その場合、他の期間の証拠が揃っていれば証拠がない一部の期間についても残業代請求が認められるケースがあります。
証拠がない期間は、証拠がある期間から残業時間が推計することができるためです。

未払い残業代の時効は3年

未払い残業代を請求するためには、「時効の壁」があることを知っておきましょう。未払い残業代の請求期限は過去3年分となっています。「もっと長い期間我慢してきたのに」と思っても、それ以上さかのぼって請求することはできません。

証拠がなくて請求をためらっていると時効が過ぎてしまい、そもそも未払い残業代の請求ができなくなってしまうのです。未払い残業代の請求には証拠があった方が有利ですが、手元に有効と思える証拠がなくても、まずは残業代請求の専門家に相談し、早期に対策を行うことが重要です。

まとめ

この記事では、残業代請求の証拠がない場合の対処法に焦点を当てて、詳しく解説を行いました。タイムカードなどの証拠を確保した上で、未払い残業代の請求に臨むことが理想ですが、証拠が見つからなくてもあきらめる必要はありません。時効を迎えてしまう前に、まずは弁護士にご相談ください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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