会社で働く従業員が残業をする場合、その従業員は会社から残業代を受け取らなければなりません。賃金の発生しない残業であるサービス残業は、労働基準法で禁止されています。
万が一サービス残業を余儀なくされていた場合、従業員は後からでも、会社に未払い残業代の請求を行うことができます。
では、この請求を行うためには、どのような証拠を残しておけば良いのでしょうか。
今回は、サービス残業の証拠の残し方についてわかりやすく解説します。
労働時間を証明する証拠
タイムカード
タイムカードとは、従業員の勤務時間を管理するための打刻システムのことです。出勤時や退勤時に押すことで、分単位で時刻を記録できるタイムカードは、労働時間の証拠として有効です。
勤怠管理システムの勤怠データ
従業員の労働時間を、勤怠管理システムで管理している会社は多いでしょう。始業と終業の時間がわかるこの勤怠データも、労働時間の証拠になります。
業務日誌・日報
1日の業務について記された業務日誌や日報も、証拠と認められる場合があります。日誌の中に始業時間や退勤時間が記されていなかったとしても、他の証拠と合わせれば、サービス残業の信憑性を高めることが可能です。
タコグラフ(トラック運転手の方)
タコグラフとは、自動車に設置する計測器のことです。会社や車両により、アナログチャート(丸チャート)の場合もデジタルタコグラフ(デジタコ)の場合もあります。走行距離や走行時間等を記録できるこの計測器は、車両総重量7トン以上または最大積載量4トン以上の事業用トラックに搭載が義務付けられています。
トラック運転手の方であれば、このタコグラフのデータも残業時間の証拠として活用できます。
建物の入退出記録
建物や事務所への従業員の入退室をICカード等で管理している会社は多いでしょう。会社が契約している警備会社に記録が残っている場合もあります。この時記録される入退出の記録も、残業時間の把握に役立ちます。
パソコンのログイン・ログアウトの記録
パソコンを使って業務を行う場合には、パソコンへのログインやログアウトの時間が、始業時間・終業時間の目安になります。残業時間を証明する際には、パソコンのログも重要な証拠となります。
残業中に送信したメール(送信日時)
メールには、送信日時が記載されています。残業中に会社のパソコンから送ったメールがあれば、その記載時間から残業の事実を証明し、「少なくともメールを送った時間まで残業していた」ということを推定することができます。
Googleマップのタイムライン
Googleマップのタイムライン機能では、GPSにより、移動ルートに加え、訪れた場所や滞在時間を記録することができます。タイムラインは遡ることも可能なので、この機能により、過去の残業の事実やその時間を証明することが可能です。
将来、残業代請求をお考えの方は、ご自身のスマホのGoogleマップを確認し、タイムラインを記録する設定になっているかをご確認ください。
家族や友人に連絡したメールやSNSの記録
毎日の退勤時に、家族や友人に退勤の旨をメールやLINE等で連絡している場合、その記録もサービス残業の証拠と認められることがあります。継続的な記録があるほど、証拠としては有効でしょう。
自分で出退勤時間を記録したメモや日記
従業員自身によるメモや日記も、サービス残業の証拠となる可能性があります。
ただし、これを証拠とするには、客観的かつ具体的に時間や事象を記録しておかなければなりません。分単位で、事実を詳しく、継続的に記入しておくと良いでしょう。
通勤時に使用した交通系ICカードの記録
通勤に使う交通系ICカードには、その利用時間が記録として残ります。この記録から、会社や自宅の最寄り駅を出た時間が把握できれば、それは残業時間の把握にも繋がります。但し、交通系ICカードの記録な長期間保存されないので、ご注意ください。
タクシーの領収書
終電がなくなる時間まで仕事をしていて、タクシーに乗って帰宅することもあるでしょう。タクシーの乗車時間が記載された領収書も残業の証拠となる可能性があります。
タイムカードがない場合やタイムカードを押してから残業した場合の証拠
サービス残業をしている方の中には、会社にタイムカード自体が設置されていなかったり、タイムカードを押してからの残業を求められたりしているケースもあるでしょう。
そのような場合でも、未払い残業代の請求を諦める必要はありません。前章でご紹介した通り、タイムカード以外にも、残業の証拠になり得るものはたくさんあるためです。
例えば、業務日誌や勤怠データ、メール、メモなど。日付や時間が記された客観的なデータや書類は、有力な残業代の証拠となる可能性があります。
タイムカードがなくても、証拠になり得るものはなるべく多く残しておくことが大切です。
残業の証拠が一部無い期間がある場合
サービス残業が複数回また長期にわたっている場合、全期間の証拠が用意できないこともあるでしょう。
このような場合でも、証拠が用意できない部分の残業代請求を諦める必要はありません。
一部の証拠がなくても、残業代を請求できる可能性は十分にあります。過去の裁判でも、証拠が欠けている中で、総合的観点から未払い残業代の請求が認められた例は存在します。
残業の証拠が一部欠けていても、他の部分で信憑性の高い証拠を出せれば、期間全体において未払い残業があったと認められる可能性があることを覚えておきましょう。
残業の証拠が手元に全くない場合
残業の証拠が従業員の手元に全くない場合には、会社が所持している証拠(勤怠データ等)を提出させる必要があります。
そのためには、会社に開示請求を行うことになりますが、これを会社が受け入れない場合には、裁判所に文書提出命令を出してもらうことになるでしょう。
また、会社からも証拠が提出されず、その理由として会社側の管理責任不足が挙げられる場合には、従業員側が用意した証拠だけで未払い残業代の支払いが認められることもあります。
自身の手元に証拠がないと思っていても、実際には残業の証拠となるものがあるかもしれません。証拠の判断は自分で行うのではなく、弁護士等の専門家に依頼するようにしてください。
残業の証拠として資料を持ち出す場合の違法性と証拠の有効性
未払い残業代の請求では、残業の証拠とするために、会社の資料を持ち出す必要が生じることもあります。この時、「会社の資料を持ち出すのは違法では?」と心配になる方もいるでしょう。
しかし、その心配は不要です。なぜなら、労働契約関連書類やタイムカード、勤怠データ等といった資料が、守秘義務の対象となることは考えにくいためです。
この時持ち出した労働契約関連書類やタイムカード等の資料は、残業代の証拠となります。よほど常識から逸脱した行為による持ち出しでない限り、その証拠能力が認められる可能性は高いでしょう。
残業代請求の期限
未払い残業代の請求で気をつけておきたいのが、「過去3年まで」という請求期限があることです。3年を経過してしまった期間の未払い残業代は、請求することができません。
残業の証拠は、一部の期間分が欠けていても構いません。まずは時効までにできるだけ多くの証拠を集め、請求手続きを行うようにしましょう。
残業代を請求するには
未払い残業代の請求は、次の3つの手順で進めていきます。
1, サービス残業の証拠を集める
2, 未払い残業代を計算する
3, 会社への残業代請求手続きを行う
最初に行うのは、サービス残業の証拠集めです。可能であれば退職前になるべく多くの証拠を確保しましょう。
次に、証拠からサービス残業時間を割り出し、法律と会社の規定をもとに、請求する残業代を算出します。
ここまでの作業が終わったら、会社に残業代の請求を行いましょう。この段階で、もし会社が支払いに応じない場合には、労働審判または訴訟を提起し、裁判で争うことになります。
しかし裁判では、労働者にも会社にも大きな負担がかかります。これを避けるためにも、未払い残業代の請求は、なるべく交渉での和解を目指すべきでしょう。
まとめ
サービス残業による未払い残業代を請求するには、残業の事実を示す証拠が非常に重要です。よって、残業代が未払いとなっている方は、常日頃から証拠を残すことを意識しておいた方が良いでしょう。
残業の証拠としては、タイムカードやメール、メモ等あらゆるものが有効なので、未払い残業代の請求を検討する場合、これらをなるべく多く確保しておくようにしてください。
しかし、会社に対する未払い残業代の請求では、使用者である会社に対して交渉を行うことに躊躇する方もいるでしょう。
そのような場合には、弁護士に代理交渉をご依頼ください。法律の知識や交渉技術に長けた弁護士に依頼することで、交渉がスムーズに進む可能性は高くなります。また、弁護士が付くことで、会社の態度が軟化することもあるでしょう。
会社への交渉を有利に進めるためにも、未払い残業代の請求は弁護士への相談をご検討ください。
監修弁護士
監修者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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