「営業職に残業代が出ないのは当たり前」と考えている方はいませんか?

実は、この考え方は正しいものではありません。営業職であっても、基本的に残業代は支払われるべきです。

では、なぜ「営業職に残業代が出ないのは当たり前」と考える人が多いのでしょうか。

今回は、その理由を中心に、未払い残業代の請求方法や計算方法について、わかりやすく解説していきます。

営業職にも残業代が出て当然である

労働基準法は、使用者が労働者を働かせることのできる時間の上限を、原則として「1日8時間・週40時間」と定めています。
この法定労働時間を超えて労働をさせるには、使用者と労働者は36協定を結び、なおかつ使用者は労働者に残業代(割増賃金)を支払わなければなりません。
これは法律で定められていることであり、営業職の残業についても、当然残業代は支払われるべきです。

ただし、営業職に多い一部の雇用形態においては、残業代が出ないケースはあります。また、残業代が出ないと勘違いされているケースも存在します。
この具体的なケースについては、次章で詳しくみていきましょう。

「営業職に残業代が出ないのは当たり前」と言われている理由

前述のとおり、営業職であっても基本的に残業代は支払われるべきです。にも関わらず、「営業職に残業代が出ないのは当たり前」と言われることがあるのは、営業職に多い次の雇用形態において、残業代が支給されないこと、またそのように勘違いされていることがあるためです。

営業手当が支給されている

会社によっては、営業職に対し、基本給とは別に営業手当を支払っていることがあります。この営業手当を、会社が「固定残業代・みなし残業代」として支給している場合には、それとは別に残業代の支払いが行われない可能性があります。

ただし、営業手当が固定残業代・みなし残業代と認められるのは、その旨が就業規則や雇用契約書に明記されているとともに、営業手当と基本給が明確に区別されている場合のみに限られます。この条件を満たさない場合、また別の名目(スーツ代、飲食店代など)で営業手当が支払われている場合、それは残業代とは認められません。

また、労働者が営業手当に含まれる固定残業代・みなし残業代に相当する残業時間を超えて労働した場合には、会社は超過分の残業代を別に支払う必要があります。

歩合給が採用されている

歩合給とは、仕事の成果に応じて支払われる給与のこと。営業職に対し、この歩合制を導入している会社は少なくありませんが、その中には、「歩合制なら残業代を支払わなくていい」と勘違いしている会社もあるようです。

歩合制に基づく歩合給と残業代は全くの別物です。歩合給は成果に対する報酬であり、そこに残業代が含まれることはありません。

よって、歩合制を取っている場合であっても、法定時間外の労働や休日出勤などがあった場合には、会社は労働者に対し、歩合給とは別に残業代を支払う必要があります。

事業場外みなし労働時間制が採用されている

事業場外みなし労働時間制とは、「実際の労働時間に関係なく、あらかじめ決められた時間働いたものとみなして、賃金を支払う制度」のことを指します。みなし労働時間が8時間であれば、実際の労働時間が7時間であっても9時間であっても、8時間分の賃金が支払われます。つまりこの制度下においては、残業したとしても残業代が出ないのです。

これは、外回り営業など、実際の労働時間を把握しにくい職種において、適用されることが多い制度です。
ただしその導入は、「会社が労働者の実際の労働時間を正確に把握することが困難である」ことが客観的に明らかである場合にしか認められません。それ以外のケースにおいては、会社には労働者の労働時間をきちんと把握し、然るべき金額の残業代を支払う義務があります。残業代を支払いたくないからと、この制度を悪用することは認められません。

営業職の外回りであっても、今はスマホなどの通信機器により労働時間の把握が可能となりますので、多くのケースでは、事業場外みなし労働時間制は認められず、残業代の請求が可能となります。

残業の申請ができない

そもそも残業の申請ができない・しにくいことで、残業代が支払われていないケースも考えられます。会社によっては、いまだに上司が残業代の申請を制限したり、残業代は申請しないという暗黙の了解があったり、サービス残業が当たり前になっていたりすることがあるようです。

このような理由による残業代の未払いは、もちろん法律違反です。働いた対価としての賃金は、法律に則って、適切に支払わなければなりません。

残業代が支払われないことに対する違法性の判断については「残業をしても残業代が出ない…これって違法?それとも適法?」もご一読ください。

未払い残業代を請求するために必要な証拠

残業したにも関わらず支払われなかった「未払い残業代」は、退職後でも請求することができます。
未払い残業代の請求にあたって必要になるのが、残業の証拠です。例えば、次のようなものは、残業の実態と残業代が支払われていない事実を示す有力な証拠になり得ます。

・タイムカード
・勤怠管理システムデータ
・業務用メールの送受信記録
・業務用パソコンのログイン記録
・グーグルタイムラインなどのGPS記録
・労働契約書・雇用通知書
・就業規則
・給与明細 など

場合によっては、必要なデータが労働者自身の手元にないということもあるでしょう。
未払い残業代請求の証拠集めについては「残業代を請求したいけど証拠がない場合の対処法|証拠になるものを詳しく解説でも詳しくご説明しています。

 

未払い残業代を遡って請求できるのは過去3年分のみ

未払い残業代は、退職後でも請求することができます。
ただし、気をつけておきたいのが「未払い残業代の請求には3年の時効がある」という点です。未払い残業代の発生から3年を経過してしまった場合、その請求権は無効となってしまいます。

この時効については、会社へ未払い残業代を請求する旨の内容証明を送付することで、一時的にその進行を止めることも可能です。時効が迫っている場合には、ひとまずこの手続きを検討すると良いでしょう。

時効の停止については「残業代の時効は2年から3年に 時効3年の考え方と時効を止める方法も解説で詳しくご紹介しています。

 

未払い残業代の計算方法

未払い残業代の請求にあたっては、いくらの請求を行うか明確にするため、実際の未払い残業代の金額を計算しなければなりません。
残業代は、次の計算式で算出できます。

1時間あたりの賃金×割増率×残業時間

この「1時間あたりの賃金」は、「(基本給+一部の手当)÷月の所定労働時間」で算出します。
計算の具体例をみてみましょう。

 

【残業代の計算例】
月の平均所定労働時間:160時間
時間外労働時間:20時間
基本給+営業手当:30万円

(30万円÷160時間)×1.25×20時間=46,875円

上記の条件では、46,875円の残業代が発生していることになります。

 

加えて、歩合給の場合も残業代の計算対象です。歩合給の残業代は、以下の式で計算されます。
1時間あたりの歩合給×0.25×時間外労働の時間数=歩合給の残業代

(歩合給部分の計算における割増率は1.25ではなく、0.25になる点に注意が必要です。)

 

会社に未払い残業代を請求する方法

会社に未払い残業代を請求する場合には、次の方法を検討しましょう。

会社に残業代の未払いを申告する

まず考えられるのが、会社に直接未払い残業代の支払いを求める方法です。この方法で会社が残業代の支払いを認めれば和解となり、請求手続きは比較的スムーズに進むでしょう。

ただし、従業員による直接の請求に対して、すんなりと残業代の支払いを認める会社は多くはないと予想されます。その場合には、以下の方法を検討してください。

労働基準監督署に相談する

労働基準監督署は、労働環境の管理を担う機関です。残業代が支払われていない場合には、労基署に会社の対応を相談することも視野に入れましょう

とはいえ、労基署は会社の問題ある対応に是正指導を行うことはあっても、未払い残業代の請求を代わりに行なってくれるようなことはありません。
また、是正指導にあたっても、残業の明確な証拠を求められるでしょう。

労働審判を行う

労働審判とは、訴訟手続きの一種のこと。裁判に比べ、短時間で決着をつけられる点が特徴です。

未払い残業代請求においては、労働審判を提起し、会社と労働委員会のもとで話し合うのもひとつの方法でしょう。この手続きでは、当事者の答弁のうえで、調停の提案または委員会による審判が行われます。

また、労働審判の結果に不服がある場合には、異議申し立てを行い、訴訟に移行することも検討しましょう。

弁護士に相談する

ご紹介したように、未払い残業代の請求には「会社との直接交渉」や「労働審判・訴訟の提起」などの方法があります。
とはいえ、これらの交渉や手続きには専門知識や技術が必要です。これを労働者自らが担うのは、現実的に困難でしょう。

そこで検討したいのが、弁護士への依頼です。
弁護士は、法律の知識と過去の経験から、高い交渉スキルを持ち、未払い残業代請求にあたって必要な手続きやそのコツも把握しています。弁護士の手を借りれば、交渉も訴訟もより有利に進められるでしょう。
また、残業代の計算や証拠集めにおいても、有力なサポートを受けられます。

自身の負担を軽減するためにも、未払い残業代の請求は労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。

 

残業代請求の詳しい流れについては「残業代を請求する方法とその流れ|請求タイミングも解説」をご一読ください。

 

まとめ

営業職であっても、所定・法定時間を超えて労働した場合には、残業代は支払わなければなりません。一部の雇用形態において残業代が支払われないことはあるものの、基本的には「残業代の支払いは会社の負う法的義務である」ことを押さえておきましょう。

また、支払われなかった残業代については、退職後でも会社に請求を行うことが可能です。
この手続きについては、労働問題を取り扱う弁護士に相談し、適切なアドバイスとサポートを受けるようにしましょう。

勝浦総合法律事務所では、未払いの残業代請求を弁護士が代行させて頂きます。もし「残業代の証拠集めが難しい」「会社との交渉が気まずい」という場合には、ぜひ当事務所へご相談ください。

 

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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