所定・法定労働時間を超えた労働者の労働に対し、残業代を支払うのは、法律で定められた会社の義務です。もし支払われなかった残業代がある場合、労働者はたとえ退職後でも、未払い残業代の請求を行うことができます。

また、この手続きにあたっては、遅延損害金と呼ばれる「利息」や付加金を付けて請求を行うことが可能です。
では、この遅延損害金や付加金とは、どのようなものなのでしょうか。

今回は、未払い残業代の遅延損害金と付加金の概要、請求方法について、わかりやすく解説します。

「利息」つきで未払い残業代を請求できる

残業をしたのに支払われなかった残業代のことを、「未払い残業代」と呼びます。
未払い残業代は、3年の時効内であれば、後からでも会社に請求することができます。そしてこの時の請求する残業代には、民法第404条の法定利率をもとにした「利息」を付けることが可能です。

未払い残業代の「利息」とは、「遅延損害金」のことを指します。その利率は、次のとおりです。

労働者が在職中の場合:年利3%
労働者が退職している場合:退職日以降について年利14.6%

2024年8月現在の利率は、在職中で3%、退職後で14.6%。退職後期間についての利率が極めて高いのが特徴です。

民法第404条の法定利率は、3年ごとに利率が見直される決まりになっており、次の見直しは2026年に行われる予定です。

未払い残業代を倍にする「付加金」とは

未払い残業代の請求では、「付加金」を併せて請求することで、請求金額を上げることが可能です。

この付加金とは、残業代を支払わなかった会社に対するペナルティの意味を持つ金銭のことです。会社に付加金を支払わせるかどうかは、労働者の請求を受け、裁判所が判決時に決定します。従って、付加金を請求する場合には、訴訟を提起し、判決で残業代が認められる必要があります。

また、付加金として請求できるのは、未払い残業代と同じ金額の金銭です。つまり、未払い残業代と付加金の請求が認められれば、労働者は最大で未払い残業代の2倍の金額を受け取れる可能性があることになります。

ただし、付加金の請求は必ずしも認められるとは限りません。

遅延損害金・付加金の注意点

既にご紹介したとおり、未払い残業代の請求にあたっては、追加で遅延損害金や付加金の支払いを会社に求めることができます。
しかし、実際の請求手続きにおいて、必ずしも遅延損害金や付加金が支払われるわけではありません。
例えば、労働者と会社との間での和解や労働審判では、「遅延損害金を受け取らない」という内容で和解するケースも存在するようです。
また、付加金の支払いについても、裁判所が支払いを命じるのは、訴訟が提起され裁判所が命令を下し、かつ会社に大きな悪質性が認められた場合のみに限られます。労働者と会社が交渉で合意したり、労働審判・訴訟で和解したりした場合に、付加金の支払いが命じられることはありません。また、高裁の審理が終了するまで(事実審の口頭弁論終結時まで)に残業代が支払われると付加金は請求できないこととなりますので、実際に付加金が支払われるケースはあまりありません。

未払い残業代を請求しても、必ずしも遅延損害金・付加金が受け取れるとは限らないことを理解しておきましょう。

遅延損害金・付加金の存在意義

前章では、「未払い残業代の請求手続きでは、必ず遅延損害金や付加金が支払われるわけではない」旨をご紹介しました。
では、支払われないケースも多い遅延損害金や付加金は、何のために法律で定められているのでしょうか。これらに存在意義はあるのでしょうか。

実は、遅延損害金や付加金には、「会社への圧力を強めることができる」という点で大きな存在意義があります。労働者が遅延損害金や付加金を請求することで、会社は「未払い残業代の支払いに応じなければ、最終的な裁判所の判断で、実際の未払い残業代の倍以上の金額を支払わなければならなくなる可能性がある」というプレッシャーを負うことになるのです。
多額の支払いを恐れ、遅延損害金や付加金なしという条件のもと合意・和解し、未払い残業代の支払いに応じる会社は少なくないでしょう。

また、訴訟は判決までに2,3年かかるケースもよくあります。その場合、14.6%の遅延損害金だけでも、請求額は1.5倍以上になります。解決が長引けば長引くほど、どんどん請求額が上がっていくことは会社側に早期解決のプレッシャーとなります。

未払い残業代を請求する方法

最後に、会社に対し、未払い残業代を請求する方法についてご説明します。
未払い残業代の請求は、大きく次の3つの手順に分けられます。

①会社に直接請求する
②労働審判を行う
③裁判を起こす

各手順について詳しくみていきましょう。

①会社に直接請求する

未払い残業代の請求では、まずは会社に対し直接請求を行います。

支払われていない残業代がいくらあるかを計算し、その証拠を揃えた上で、会社に未払い残業代請求の内容証明郵便を送付しましょう。残業代の請求には時効がありますが、内容証明郵便を送ることで、時効の進行は一時的にストップさせることができます。

また、会社に対しては、残業に関する情報の開示を求めることも可能です。証拠が手元にないからといって、請求手続きを諦める必要はありません。

会社に内容証明郵便を送付した後には、労働者・会社間で交渉を行うことになります。より有利に交渉を進めるためには、弁護士による代理交渉も検討しましょう。

もし交渉で合意できなかった場合には、次の手順へとコマを進めることになります。

②労働審判を行う

交渉が決裂した場合には、ケースによっては、労働審判による審理で解決を目指します(労働審判を経ずに裁判を起こすケースもよくあります)。
労働審判とは、労働者と会社の間の問題を扱う審判制度のことを指します。裁判官と労働審判員から成る労働審判委員会が審理を進めます。

労働審判は、3回以内の審理で決着が付くことがメリットです。訴訟に比べ、問題を早期解決できる可能性があります。

この手続きの中では、まず調停を目指します。しかし、双方の意見が決裂した場合には、労働審判委員会による審判が下されることになります。
この審判は法的効力を持つものですが、納得できない場合、当事者は2週間以内に異議申し立てをすることで、審判を失効させることが可能です。この場合、手続きは裁判(訴訟)へと移ります。

③裁判を起こす

裁判(訴訟)では、原告である労働者と被告である会社側がそれぞれ主張を行い、それを踏まえて裁判所が判決を下すことになります。付加金を請求する場合は、裁判を通して行います。

裁判では最終的に法的拘束力のある判決が出されますが、それまでには長い時間を要します。中には、判決までに数年を要することもあるようです。
長期間の裁判となると不安を覚える方もいるかと思います。また、弁護士によっては、時間のかかる裁判よりも、早く終わる労働審判を勧める人もいるかと思います。しかし、私は、事案によっては訴訟で徹底的に残業代を請求し、遅延損害金も含めた金額を獲得すべきと考えています。裁判には依頼者ご本人はほぼ出席する必要はありませんので、あまりご負担もありません。

未払いの残業代請求は弁護士に相談を

未払い残業代の請求手続きには、法律に関連する専門知識が必要です。この手続きを、労働者自らが全て行うのは困難でしょう。

この問題を解決するには、弁護士への相談が効果的です。
労働問題を扱う弁護士は、残業代請求の知識や経験に長けています。ノウハウを持つ弁護士が手続きを進めたり交渉を代理で担ったりすることで、請求が成功する可能性はぐっと高くなります。
手続きが労働審判や訴訟へ進んだ場合でも、手厚いサポートを受けられるでしょう。

また、弁護士が各手続きを代理で行えば、労働者自身が会社と直接やり取りする必要はなくなります。労働者にとっての負担を軽減するためにも、弁護士への依頼は有効なのです。

勝浦総合法律事務所では、未払い残業代の請求手続きをお引き受けしています。
当事務所の特徴は、豊富な実績と費用面の安心。相談料無料・初期費用0円で、請求が成功した場合のみ、報酬をいただきます。

未払い残業代請求を検討される方は、ぜひお気軽にご相談ください。