年俸制は、成果主義を強く反映できる給与体系です。また1年間の給与の見通しが立つためローン等が組みやすいという意味でも、非常に有用でしょう。
ただ、多様な働き方を届けるメディア「キャリアクラフト」によると、残業代が出ないイメージから年俸制を敬遠する人もいるようです。
おそらく年俸制は高い給与のイメージもあり、残業代は出ないと誤認している方もいるでしょう。
本記事では、年俸制でも残業代は出ることや、残業代が出ないケースについても解説します。
年俸制でも残業代は出る
結論から言うと、「年俸制だから残業代は出ない」というのは誤りです。
労働者が残業した場合、使用者は残業代を支払う義務があります。これは、給与体系や勤務形態によって左右されることはありません。そのため、「年俸制だから」という理由で残業代が発生しないということは無いのです。
年俸制とは
年俸制とはどのような制度なのか、ここで一度整理しておきましょう。
年俸制とは、年間で支給される給与をあらかじめ定めておく給与体系です。1年間の仕事の成果を翌年度の年俸額に反映させるシステムとなっています。
毎月支払われる給与は、下記のどちらかの方式で支給するケースが多いです。
・年俸額を12か月で割って、1か月ごとの給与とする
・年俸額を16か月で割って、12か月分は1か月ごとの給与として支給し、4か月分は賞与とする
残業代込みの年俸制の場合は、どうなる?
年俸制の方の中には、残業代込みの年俸制の方もいらっしゃると思います。固定残業代制やみなし残業代制と言われるもので、あらかじめ給与に一定の残業代を含めて支給されます。
残業代込みの年俸制の方の中には、「もう残業代はもらっているから、これ以上残業代は発生しない」と考えている方もいるかもしれませんが、そうではありません。
固定残業代制(みなし残業代制)の年俸制であっても、あらかじめ定めた残業時間を超えて残業した場合は、追加で残業代が発生します。
例えば、固定残業代が月20時間に設定されている方が30時間残業した場合、20時間を超えた10時間分は固定残業代とは別に残業代が発生するのです。
また、違法に固定残業代制が導入されている場合は、固定残業代制そのものが認められないため、固定残業代制が導入されていないものとして残業代を計算することになり、未払いの残業代が発生する可能性があります。
違法となるケースを4つご紹介します。
ケース1 月間80~100時間相当の残業代以上の固定残業代が払われている
厚生労働省労働基準局長通達「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日基発1063号)では、
「発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること を踏まえて判断すること。」
と定めています。
つまり、月間80時間を超える残業は、いわゆる過労死レベルのものと言えるのです。
とすると、恒常的に月間80時間-~100時間もの残業を恒常的に行わせることは、使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法の精神を完全に無意味なものとするものであり、原告を含む労働者に過労による疾患を引き起こしかねない過剰な業務を課すものといえます。
月間80~100時間相当の残業代以上の固定残業代が払われているような場合、かかる合意は公序良俗に反し無効であると判断される可能性が高いです。
ケース2 就業規則などに規定されていない
固定残業代制を導入するには、就業規則や労働契約、労働条件通知書などの文書で従業員に周知する必要があります。
労働基準法第15条により労働条件は必ず明示しなくてはいけないため、固定残業代制であるにも関わらず、就業規則などに固定残業代制の規定がないことは違法となります。
ケース3 固定残業代が明確に提示されていない
固定残業代がいくらで、それが何時間分なのかが明確に提示されていない場合は、違法となります。
具体的には、下記のような記載方法は適切ではありません。
・年俸額800万円(固定残業代含む)
この場合、有効な固定残業代とは認められないため、月給の全額が基礎賃金として残業代計算に含まれます。
ケース4 最低賃金を下回っている
どのような給与体系であっても、都道府県で定められている最低賃金を下回ってはいけません。
年俸制の場合の1時間あたりの賃金は、月給から固定残業代を差し引いて計算します。
例えば、月給30万円に固定残業代が5万円含まれている場合は、25万円をもとにして、1ヶ月の平均所定労働時間で割って算出します。
この金額が最低賃金を下回っている場合は固定残業代の定め自体を無効と主張できる可能性があります。
(参考:厚生労働省|地域別最低賃金の全国一覧)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
年俸制で残業代が出ないケース
「年俸制であっても残業代は出る」という説明をしてきましたが、残業代が出ないケースも存在します。
ここでは、次の3つのケースについて、解説していきます。
・固定残業代制
・管理監督者
・裁量労働制
固定残業代制
固定残業代制であっても、定められた時間以上に残業した場合は残業代が発生することを説明してきましたが、逆に言うと、定められた時間の範囲内の残業時間であった場合には、固定残業代以上の残業代は支給されないということです。
また、適切に固定残業代制が導入されているのであれば、未払いの残業代も発生していません。
固定残業代制だから残業は出る・出ないと一概には判断できませんので、自分の労働条件や残業時間をもとに判断することが必要です。
管理監督者
「管理監督者」(労働基準法第41条2号)に該当する場合、労働基準法の法定労働時間の規制が適用されません。つまり、深夜労働の割増賃金を除いて、残業代が発生しません。
しかし、課長や部長のような管理職であっても「管理監督者」に該当するとは限りません。「管理監督者」とは、職位や役職名とは関係なく、下記の条件に該当する者のことを言います。
「管理監督者」の条件に当てはまらないにも関わらず、「あなたは管理職だから残業代が出ない」と説明されている場合は、不当に残業代が支払われていない可能性があります。
(管理職の残業代については、こちらで詳しく解説しています。「管理職の残業代、出る?出ない?その判断のポイントは?」)
裁量労働制
裁量労働制とは、仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量に委ねる勤務形態で、何時間労働しても、あらかじめ定めた労働時間分(みなし労働時間)を働いたものとみなす制度です。例えば、みなし労働時間が1日8時間の場合、1日10時間働いても6時間働いても、8時間働いたものとみなされます。そのため、残業代は発生しません。
ただし、みなし労働時間が1日10時間など、法定労働時間である1日8時間を超える時間で設定されている場合は、8時間を超える時間分は残業代が発生します。
こういうケースでは、8時間を超える時間分はあらかじめ賃金に含まれていることも多いですが、本当に含まれているかどうかは実際に確認した方がいいでしょう。
また、裁量労働制であっても、深夜手当や休日手当は支給の対象となります。
なお、会社側が裁量労働制を導入していると主張している場合でも、適法な内容や手続となっていないため、裁量労働制を否定できる場合も多くあります。
年俸制の残業代計算のポイント
年俸制の残業代の計算方法に特別な計算方法はなく、一般的な残業代の計算方法と同様に、以下の計算式で求めることができます。
残業代 = 1時間あたりの基礎賃金×割増率×残業時間
年俸制の残業代計算のポイントは、年俸にあらかじめ含まれている賞与を基礎賃金の算定基礎とする点です。
年俸制の場合、1時間あたりの基礎賃金は「年俸額÷年間所定労働時間」で求められます。通常、ここから通勤手当などの諸手当は差し引くことになります。賞与についても「臨時に支給された賃金」として諸手当に該当し、基礎賃金の計算からは除外されます。
しかし、年俸制において、あらかじめ支給することが確定している賞与は「臨時に支給された賃金」に該当せず、基礎賃金の算定に含めることになっています。
つまり、通常は除外される「賞与」を、年俸制の場合は残業代計算に含めることができるのです。この点が、年俸制の場合の残業代計算のポイントです。
(残業代の計算方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。「残業代の計算方法を分かりやすく解説(具体例付き)」)
まとめ
「年俸制だから残業代は出ない」というのは誤りです。ただし、管理監督者や裁量労働制など残業代が出ないケースもあります。
もし使用者の方がこのような労働問題を未然に防ぎたい場合、
ご自身ケースについて、残業代が出るのかどうかよく分からないという方は、一度弁護士に相談することをおすすめします。
ご相談いただければ、未払いの残業代があるかどうかの判断をすることができ、必要な証拠などについてもアドバイスすることが可能です。
まずはお気軽にご相談ください。
監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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