裁量労働制で働く場合は、絶対に残業代が出ないと思っていませんか。
裁量労働制を理由に「残業代は出ない」と会社から説明を受けている方は、注意が必要です。
裁量労働制でも残業代が出るケースはあります。
この記事では、裁量労働制について、残業代が出るケースと違法の可能性があるケースを解説します。
裁量労働制で働いている方は、制度を正しく理解するために、ぜひご覧ください。
裁量労働制とは
裁量労働制の残業について説明する前に、まず裁量労働制について説明します。
裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、事前に定めた一定時間を働いたとみなす制度です。労働時間ではなく、働いた実績や成果にもとづいて評価される制度です。
裁量労働制において、事前に定め、働いたとみなす一定時間を「みなし労働時間」と呼びます。
1日に何時間働いても、「みなし労働時間」が8時間であれば、その日の労働時間は8時間とみなされて、給料が計算されるということです。
裁量労働制の対象業務
裁量労働制は、どの業種や職種にでも適用できるわけではありません。
労働基準法で適用できる業務が厳密に決められています。
裁量労働制は、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類に分けられており、それぞれで対象業務が指定されています。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制は、業務を遂行する方法や時間配分の多くを労働者の裁量に委ねた方が効率が良いと考えられる職種が指定されています。
専門業務型裁量労働制は、次の19種類の業務に限定されています。
- 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
- 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(中略)の制作のための取材若しくは編集の業務
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
- 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
- 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
- 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
- 大学の教授研究の業務(主として研究に従事するもの)
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制は、「事業の企画・立案・調査・分析の業務であって、使用者が仕事の進め方・時間配分に具体的指示をしないこととする業務」を対象に導入できる制度です。
具体的には以下の4項目が要件です。
- 業務が所属する事業場の事業の運営に関するものであること(例えば対象事業場の属する企業当にかかる事業の運営に影響を及ぼすもの、事業場独自の事業戦略に関するものなど)
- 企画、立案、調査及び分析の業務であること
- 業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があると、「業務の性質に照らして客観的に判断される 」業務であること
- 企画、立案、調査、分析という相互に関連し合う作業を、いつ、どのように行うのか等について広範な裁量が労働者に認められている業務であること
裁量労働制で残業代が出るケース
裁量労働制は、何時間働いたとしても労使協定(労働者と使用者の間で取り交わされる約束事を書面化し契約した協定のこと)によって定めた時間を労働したものとみなします。
だからと言って、残業代が発生しないというわけではありません。
裁量労働制でも以下の3つのケースは、残業代が発生します。
みなし労働時間が8時間を超える場合
労働基準法で定められている法定労働時間は、1日8時間、1週間40時間です。
この時間を超えた労働は残業となるので、通常の賃金より1.25倍以上の割増賃金を支払う必要があります。
裁量労働制であっても、この規則は適用されます。
例えば、みなし労働時間が9時間に設定されている場合、法定労働時間は1日8時間なので1時間分の残業代を支払わなければならないということになります。
深夜労働した場合
裁量労働制の場合でも、深夜労働は手当の対象です。
労働者が22:00~5:00の間に働いた場合は、通常の賃金より1.25倍以上の割増賃金が支払われます。
休日労働した場合
法定休日に労働した場合は、通常の賃金より1.35倍以上の割増賃金が支払われます。
休日には、法定休日(労働基準法で定める使用者が労働者に必ず与える休日)と、所定休日(法定休日以外に使用者が労働者に与える休日)があります。
毎週土日が休みの会社でも、会社によって法定休日が土曜日なのか、日曜日なのかで、残業代の割増率は異なりますので、確認するようにしましょう。
裁量労働制の残業代の計算方法
裁量労働制における残業代の、具体的な計算方法について説明していきます。
みなし労働時間が8時間を超える場合
裁量労働制に限らず、残業代の計算方法は以下のとおりです。
1時間あたりの基礎賃金 × 割増率 × 時間外労働時間
例をあげて残業代を計算してみます。
・週5日勤務、1か月を4週間とし20日間勤務した
・みなし労働時間9時間
・深夜労働、休日労働なし
・時間外労働の割増率は25%
・1時間あたりの基礎賃金1,500円
(1時間あたりの基礎賃金は、基礎賃金÷1か月の平均所定労働時間で求めます。詳しい計算方法は、こちらの記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。
「残業代の計算方法を分かりやすく解説(具体例付き)」)
残業時間は、みなし労働時間が9時間に設定されていることから、1日あたり1時間です。
1か月で20日勤務したため、残業時間の合計は20時間です。
1,500円 × 1.25 × 20時間 = 37,500円
となり、残業代は37,500円です。
深夜労働した場合
・週5日勤務、1か月を4週間とし20日間勤務した
・みなし労働時間8時間
・20日間のうち1日だけ深夜1時まで残業した
・休日労働なし
・深夜労働の割増率は25%
・1時間あたりの基礎賃金1,500円
深夜労働に該当するのは、22:00~5:00の間の労働なので、深夜労働時間は3時間です。
1,500円 × 1.25 × 3時間 = 5,625円
となり、残業代は5,625円です。
休日労働した場合
・週5日勤務、1か月を4週間とし20日間勤務した
・みなし労働時間8時間
・深夜労働なし
・1か月のうち1日だけ法定休日に5時間労働した
・休日労働の割増率は35%
・1時間あたりの基礎賃金1,500円
1,500円 × 1.35 × 5時間 =10,125円
となり、残業代は10,125円です。
裁量労働制で違法になるケース
次のようなケースは違法になります。
適法な労使協定が結ばれていない
裁量労働制を導入するためには、労働者の過半数代表と会社との間で労使協定を結ぶ必要があります。
しかし、多くの会社では、労働者代表を選挙等の民主的手続きで選任せず、会社からの指名等で選任しており、そのような場合、裁量労働制自体が無効となります。
裁量労働制の対象業務ではない
こちらも前述していますが、裁量労働制の対象業務は厳密に定められています。
対象業務ではないにもかかわらず、裁量労働制が導入されている場合は、それ自体が有効とは認められず違法です。
裁量がない
裁量労働制であれば、始業終業時間、仕事の進め方や時間配分などは労働者に自由に任されているものです。
裁量労働制を適用しているのに、始業時間が決められていたり、タスクやノルマが厳しく実質的に裁量がなかったりするなどの場合は違法性があります。
みなし労働時間が実労働時間とかけ離れている
裁量労働制は、実際に働いた時間とみなし労働時間が異なっていても、みなし労働時間分働いたとみなす制度です。
しかし、みなし労働時間が実際の労働時間とあまりにもかけ離れている場合は違法の可能性があります。特に長時間労働が常態化している場合は注意が必要です。
まとめ
裁量労働制は、自分のペースで自由に働くことができる制度ですが、残業代を支払いたくないがために、会社側が不当に導入していることもあります。
裁量労働制で働いている方で全く残業代が出ていない方は、ご紹介してきた残業代が出るケースや違法となるケースに自分が該当しないか確認するようにしてください。
未払いの残業代があるかもしれないけどよく分からない、残業代の計算方法が分からないなど、残業代に関しまして疑問がある場合は当事務所にご相談ください。
監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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