近年、運送業をはじめとする、ドライバーなど自動車の運転を伴う職種における長時間労働が問題となっています。2024年には残業時間の上限が規定されますが、長時間労働と残業代の未払いは切り離せない問題です。

また、ドライバーの労働基準は一般の労働者と異なることもあり、その点でも労働時間に関する誤解が生じやすいと考えられます。

本記事では、残業時間において誤解が多い勤務形態を解説し、本来法的に定められている正しい扱いについてご紹介します。
自身の賃金に未払いが発生していないかの確認も含め、ぜひ最後までご覧ください。

運送業によくある残業時間の誤解

運送業において誤解されやすい勤務形態や労働時間について確認していきましょう。

歩合制

「歩合制だから残業代は出ない」と思っている方もいるかもしれませんが、それは誤解です。歩合制であっても、時間外労働に対する残業代はもらえるのです。

歩合制は成果に応じて給料をもらうイメージが強いため、労働時間をもとに計算される残業代は出ないと思い込んでいる方が多いのかもしれません。また、それを会社側が悪用して、違法に残業代を支払わないこととしている場合もあります。

また「歩合給に残業代が含まれている」/「歩合給自体が残業代である」などと会社側が主張することもあります。このような制度(みなし残業代制/固定残業代制)が違法に導入されているケースも考えられます。詳細は後述しています。

固定残業代制(みなし残業代制)

固定残業代制も、運送会社においてよく採用されている給与形態の一つです。

「固定残業代制」という言葉には、
もともとある程度の残業時間が見込まれることから、実際の残業の有無によらず、一定時間分の残業代を固定で支払う勤務形態です。

ただし、残業代が固定だからといって、いくら残業しても残業代が変わらないわけではありません。みなし残業時間を超えて働いた場合は、その時間分の賃金は、もちろん固定残業代に追加して支払われなければなりません。

そもそも、固定残業代制が適法に導入されていない場合は、通常の賃金と同様に残業代が請求できることとなります。

荷待ち時間

荷待ち時間も、ドライバーの労働時間にならないと誤解されているものの一つです。結論から言うと、荷待ち時間も、その時間に完全に仕事から離脱した行動が取れなければ、労働時間としてカウントされます。

仕事から離脱しているとは、使用者の管理下にない状況を指します。積み地や卸し地での受付後に、待機場やバース前で呼出しを待つような時間は、労働から解放されているとは言えないため、労働時間に当たると考えるべきです。

荷待ち時間を労働時間として評価しないことにより、ドライバーの残業代に未払いが発生する現状が指摘されています。

固定残業代制で違法になるケース

運送会社のトラック運転手に適用されることが多い固定残業代制ですが、違法になるケースがあり、注意が必要です。

会社で導入されている固定残業代制が違法と判明すれば、固定残業代制は無効となります。無効となった場合には、すでに固定残業代として支払われている残業代は残業代の支払いとはならないことになり、請求できる未払い残業代の額が多くなるなど残業代計算に大きく影響します。

ここでは、4つのケースをご紹介しますので、ご自身の場合はどうか確認してください。

  1. 基本給と固定残業代の区別ができない
  2. 雇用契約書や就業規則に固定残業代についての定めがない
  3. 固定残業代が月間80~100時間程度を超えている
  4. 基礎賃金部分が最低賃金を下回っている

ケース1 基本給と固定残業代の区別ができない

基本給と固定残業代の区別ができない場合、および、その残業代が何時間分の残業なのかが明記されていない場合、違法になります。

例えば、「基本給40万円(固定残業代を含む)」と記載されていた場合、いくらが基本給で、いくらが固定残業代なのかが分かりません。さらに、何時間分の残業時間なのかも不明なため、違法となります。
「基本給40万円(固定残業代8万円を含む)」などと、内訳が明記されていなくてはいけません。

ケース2 雇用契約書や就業規則に固定残業代についての定めがない

雇用契約書や就業規則に、固定残業代についての定めがないまま、会社が勝手に給料の一部を固定残業として支払ったとしても、そのような手当は割増賃金とは認められないこととなります。

ケース3 固定残業代が月間80~100時間程度を超えている

固定残業代が想定している残業時間数がいわゆる過労死基準である80時間~100時間を超えるような長時間である場合、そのような固定残業代の定めは公序良俗違反として無効であるといえる可能性があります。

ケース4 基礎賃金部分が最低賃金を下回っている

例えば「基本給30万円(固定残業代15万円を含む)」というケースを考えてみましょう。

固定残業代以外の基礎賃金部分の1時間あたりの賃金を計算すると、15万円 ÷ 174時間 = 862円 となり、
1時間あたりの賃金は862円となります(月間所定労働時間が174時間の場合)。

この1時間あたりの賃金が、お住まいの都道府県の最低賃金と比較して下回っているのであれば、固定残業代の定め自体が無効であると言える可能性があります。

残業代の計算方法

残業代は、「1時間あたりの基礎賃金 × 残業時間 × 割増率」で計算することができます。
固定残業代が支払われている場合でも、基本的な計算方法は同じです。

以下のケースをもとに計算してみます。
・基本給28万円(固定残業代5万円)※他の手当は一切なし
・1カ月の所定労働時間:160時間
・残業時間:40時間
・割増率:1.25

1時間あたりの基礎賃金:28万円-5万円 ÷ 160時間 =1,438円(50銭以上切り上げ)
固定残業代に追加してもらえる残業代 1,438円 × 40時間 × 1.25 - 5万円 = 21,900円

 

残業代の計算方法について、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
「固定残業代とは?違法か判断する4つのポイントと残業代計算方法」

未払いの残業代を請求するために必要な証拠

残業代に未払いが生じていることが分かった場合、正しい賃金を得るためには次のような証拠が必要となります。

これは、未払いであるという事実について、労働者本人が使用者に証明する必要があるためです。

  • 雇用契約書
  • タイムカード
  • 出勤簿
  • 給与明細
  • タコグラフ

ドライバーの証拠として重要なのが、タコグラフです。
機械によって、移動距離や移動時間、移動速度などが常に記録されているため、渋滞に巻き込まれた時間や荷待ち時間なども割り出すことができ、労働時間の強力な証拠になります。

残業代請求に関する相談先

未払いの残業代を請求する手続きを進めるにあたって不明な点がある場合、以下の機関に連絡することで、相談にのってもらうことができます。

・労働基準監督署
・総合労働相談コーナー
・法律事務所(弁護士)

労働基準監督署とは、厚生労働省の機関で、企業が労働基準関係法令を遵守しているかを監督する機関です。長時間労働や給料の未払いなどの労働問題の相談をすることが可能です。

総合労働相談コーナーは、労働基準監督署や各都道府県にある労働局に設定されている相談所で、労働問題に関する相談を受け付けてくれます。

総合労働相談コーナーでは、相談に対するアドバイスをすることは可能ですが、企業に対する是正勧告などの行政指導は労働基準監督署で無ければできません。
まず話を聞いてほしいということであれば、労働基準監督署や総合労働相談コーナーでも良いと思います。

しかし、労働基準監督署に相談したからと言って、必ずしも労働問題が解決できるとは限らない点に注意が必要です。

労働基準監督署は企業に対して是正勧告を出すことは出来ますが、その勧告に法的な強制力は無いため、企業側が勧告を無視することも考えられます。また、労働基準監督署は法令違反については対応してくれますが、会社と労働者間の問題を解決するために介入してはくれません。

よりスピーディーにかつ現実的にご自身の残業代未払いなどの労働問題を解決したいのであれば、弁護士に相談することもご検討ください。
弁護士であれば、証拠集めや未払いの残業代計算についてもアドバイス可能で、会社と労働者間の問題を解決するためのサポートが可能です。

まとめ

運送業などでドライバーとして働く労働者の残業代について、解説しました。制度の悪用や労働時間として適切に評価しないなどの理由で、残業代が未払いになっている可能性があります。
ご自身の労働時間と残業代を確認して、違法性はないか、残業代は正しく支払われているか確認してください。

正確な残業代計算や証拠の提出をし、内容証明郵便で請求を行っても、未払いの残業代の支払いに応じてもらえないこともあります。その場合、労働審判という法的な話し合いや訴訟にまで進むことがあります。

専門家である弁護士にご相談いただければ、どのようなケースでも迅速な問題解決につながります。未払いの残業代があるか確認してほしい、残業代の計算方法が分からないなどのご相談も可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。

 

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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