サービス残業について

残業をしたにもかかわらず残業代が支払われない、いわゆる「サービス残業」という言葉は日本ではよく耳にします。
「トラブルが発生したから今日は遅くなってしまう」、「明日までに仕上げてくれと言われてももう終業時間間際だよ」、「会議が終わらなくて終業時間はとっくにすぎている」など様々な理由からサービス残業が当たり前になっているケースが多々あるかと思います。
みなさんは、サービスで残業をしたのであるから残業代が支払われなくても当然だと思っていませんか。
今回は、サービス残業と労働基準法の関係についてご紹介します。

サービス残業は違法ではないか

労働基準法第37条によって、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて残業させた場合には、会社は割増賃金を支払わなければならないと定められています。(時間外労働とは「1日8時間、週40時間を超えて労働させた部分」のことを指します。)
サービス残業であったとしても残業は残業ですから、会社が残業代を支払わないことは一部の例外を除き労働基準法違反になり、刑事罰に処される場合もあります。しかしながら、会社側の意識の低さやコストカット優先により、サービス残業が横行してしまっているのが現状です。

サービス残業の実態

過労死のニュース等で労働時間の会社の管理についてメディアでも大きく取り扱われる昨今において、サービス残業はそこまで多くないと思っている方もいるかと思います。
しかし、サービス残業をしている人は、6割を超えるという調査結果が報告されており(日経ビジネス2016年10月20日記事に基づく)、実際まだまだ日本の社会ではサービス残業は横行しているといえます。

サービス残業の平均時間

では、どれくらいの時間、サービス残業をしているのでしょうか。
日本労働組合総連合会(2014年)が3000人を対象に行ったアンケート調査によると、1か月の平均サービス残業時間は16.7時間とのことです。

一般社員の平均は18.6時間、係長クラスの平均は17.5時間、課長クラス以上の平均は28時間とのことです。

このように、日本ではいまだに多くの方々が長時間に及ぶサービス残業をしており、その時間分ただ働きさせてられているということです。

日本労働組合総連合会「労働時間に関する調査」(2015年)より抜粋

サービス残業の例

サービス残業は自らサービス残業と認識して行っている場合と、風土として当たり前のこととして認識せずに行われている場合があります。
では、どのような場合が残業として認められる可能性があるのでしょうか。
以下、例を挙げていきます。

一定の時間にタイムカードを切る

会社から、定時や、ある一定の時間になったらタイムカードを切るように言われており、それに従わざるを得ない場合があります。中には、ある一定の時間になったら上司が勝手に全員分のタイムカードを切っているといった場合もありました。
タイムカードは決められた時間に切って、その後も業務を続けるという、典型的なサービス残業が行われるケースです。

始業時間前に出勤して業務をする

始業時刻前に出勤して、業務を開始する方もいるかと思います。しかし、始業時刻からしか労働時間として換算されていないケースが多々あります。
このいわゆる早出の業務時間は、就業時間後の残業に比べて、業務の必要性の立証が困難な場合があります。早出の分の残業代を請求する場合には、上司からの指示があった等の早出をする必要があったということを証明することができる証拠が重要となってきます。

終業時間後の教育訓練

会社の指示に基づき、参加が強制されている場合は、労働時間になります。しかし、終業後のものとして残業代が支払われていないケースが多々あります。

休憩時間中の電話番や来客の対応

休憩時間とされている時間に、電話番をしなければならない場合や、来客の対応をしなければならない場合は、その時間は休憩時間ではなく労働時間と評価される場合があります。それにもかかわらず、労働時間として換算せず、残業代が支払われていない場合はサービス残業にあたります。

名ばかり管理職

上記の日本労働組合総連合会(2014年)の調査結果によると、役職が上がるにつれてサービス残業の平均時間が多くなっています。これは、会社が労働者に対して役職を形式的に与えて、権限は従前と変わらないもかかわらず責任と業務量だけ多くなるという名ばかり管理職が横行していることが1つの要因と考えられます。
会社から与えられた役職と、労働基準法上残業代が支払われない管理監督者とは必ずしも一致せず、“役職を与えられたから、残業代はつかない”、とは一概にはいえません。
本来は残業代が支払われるべきであるにもかかわらず、サービス残業として一切残業代が支払われていないこともあり、サービス残業の温床となっています。

有名なのは、ファストフード店の労働者が「店長」という名前をつけられているけれど実際は労働基準法が定める管理監督者には該当しないと判断された裁判です。
裁判で管理監督者に該当するかどうかのポイントとなったのは、
①職務内容、権限、責任など
②勤務態様、労働時間管理
③待遇
などが挙げられます。
ファストフード店店長の職務権限は企業全体の経営方針等への決定過程に関与するのものではなく、また勤務実態からして労働時間に関する自由裁量もなく、管理監督者にふさわしい待遇も与えられてないことから管理監督者に該当しないと判断され、会社側には付加金を含めて約750万円の支払いが命じられました。

みなし残業制

毎月「固定残業代」などとして一定の手当が支払われている場合があります。
これは、例えば「毎月20時間分の固定残業代として5万円支払うものとする」といったように毎月の給料に固定残業代が含まれている場合のことを指します。
固定残業代なので、20時間働かなくても5万円分の残業代が上乗せさる点で労働者側にメリットもありますが、この制度が悪用されるケースがあります。
よくあるのが、固定残業代を理由に20時間を超えた部分についての残業代を支払わないというケースです。
あくまで20時間分の固定残業代なので、20時間を超えた部分については残業代が支払わなければなりません。
このみなし残業制もサービス残業の温床の1つです。

サービス残業の残業代を請求するには

以上のように、様々なケースでサービス残業が発生しています。繰り返しになりますが、サービスであっても残業であることには変わりません。
したがって、サービス残業をした分については労働者は会社に対して残業代請求をすることができます。

しかしながら、タイムカードがある一定の時刻に切られている等、サービス残業をしていたことを示す証拠が残っていないことがほとんどかと思います。
サービス残業をした分について請求をして、会社がそれに応じて素直に支払ってくれれば問題ありませんが、そうではないケースがほとんどです。そのような場合に残業代を請求するには、サービス残業をしていたことを示す証拠や残業代の計算に必要となる証拠を保管しておかなければなりません。
そのため、たとえ一定の時刻にタイムカードを切られていたような場合に、サービス残業を請求するには、他の方法で労働時間を示す証拠を保管しておかなければなりません。

具体的にどういったものが証拠になるのかというと、
①雇用契約書や就業規則などの「労働契約の証拠」
②タイムカードや業務日報、業務中のメール、タクシーの領収書などの
「残業時間がわかる証拠」
③上司からの残業指示や取引先とのメールなどの「残業内容がわかる証拠」
④給与明細などの「残業代の支払額がわかる証拠」
などが挙げられます。

他にもパソコンのログイン履歴や家族に送ったメールやLINE(帰宅時間の証拠)、残業している時間帯に会社で時計を撮影した写真なども証拠になります。
様々な証拠を総合的に判断するため、証拠となりそうなものはたくさん保存しておくことが大切です。

自主的な残業には、残業代が出るか

ここまでは会社側がサービス残業をさせた場合について触れてきましたが、労働者側が自主的にサービス残業を行った場合はどうでしょうか?
例えば、個人的な調べ物など明らかに業務に必要ない場合は残業代の支払いは必要ないということになるでしょう。

自主的に行ったサービス残業だとしても、労働者が残業しているのを会社が黙認している場合や、明らかに終業時間までに終わらない業務を指示した場合には、残業代の対象となる可能性があります。

その他サービス残業を是正する方法

労働基準監督署に相談

労働基準監督署にサービス残業の実態を相談することができます。
労働基準監督署が「労働基準法違反がある」と判断すれば、会社に調査に入って指導や是正勧告をする場合があります。
その結果、会社側が労働環境を改善することがあります。

厚生労働省に情報提供

厚生労働省には労働基準関係情報メール窓口が設けられています。ここには匿名でサービス残業の実態を伝えることができます。
厚生労働省は提供を受けた情報をもとに、会社を管轄する労働基準監督署に報告をします。この報告を受けた労働基準監督署が会社に指導や是正勧告をすることがあります。

まとめ

以上のとおり、まだまだサービス残業が横行しているのが実態です。
説明してきましたとおり、サービス残業だからといって残業代を支給しないことは違法です。また、労働者側もサービス残業を強いられて体調を崩してしまっては元も子もありません。
実際の残業時間に対して支給されている残業代が少なすぎるのでは?など、疑問に感じることがある場合は専門家にご相談されることをおすすめします。