残業代の計算方法を正しく理解しましょう
給与明細を見ると残業代がついているけど、「実際のところどのように計算されているか分からない」という方も多いのではないでしょうか。
残業代がどのように計算して支払われているのかを知って、残業代がきちんと支払われているか確認できるようにしてみましょう。
残業代の求め方
まず残業代の計算方法についてみていきましょう。
通常の勤務形態の場合、残業代は次の計算式によって算定されます。
計算式の中に含まれる「基礎賃金」、「1か月の所定労働時間」、「割増率」については以下の通りです。
基礎賃金
基礎賃金とは、基本給のような1か月あたりの労働の対価に該当するものをいいます。
ただし、以下の手当は基礎賃金から除かれます。
・家族手当
・扶養手当
・子女教育手当
・通勤手当
・別居手当
・単身赴任手当
・住宅手当
・臨時手当(結婚手当、出産手当など)
・一か月を超える期間ごとに支払われる手当(賞与など)
1か月の所定労働時間
雇用契約や就業規則によって1日あたりの勤務時間や休日が定められています。これを所定労働時間といいます。
月によって日数や土日の数が異なるため、1か月間の所定労働時間は毎月異なります。よって、1か月間の所定労働時間は1年間の平均から求めることになります。
例えば、勤務時間が平日9時から18時(休憩1時間)、土日祝日が休日、夏季休暇8月13日~8月16日、年末年始休暇12月29日~1月3日の場合は以下の通りとなります。
2020年を例にとると、1年間の所定労働日数は241日ですので、1年間の所定労働時間は1,928時間(8時間×241日)となります。
したがって、2020年の1か月あたりの所定労働時間は、1,928時間÷12か月=約160時間となります。
割増率
法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えて労働をしたり、深夜労働をした場合には、基礎賃金を割り増しした「割増賃金」が支払われます。割増賃金の計算をする際に使用するのが労働基準法第37条によって定められた「割増率」です。
*雇用契約や就業規則で上記より高い割増率が定められていた場合は、雇用契約や就業規則で定められている割増率になります。
時間外労働が月60時間を超える場合
法定休日以外の労働時間が、法定労働時間を1か月あたり60時間を超えた場合、その60時間を超えた部分の残業についての割増率は50%になります。
以下のような中小企業については猶予措置がとられており、月の残業時間が60時間を超えても割増率は25%のままでしたが、この猶予措置は2023年3月末日で廃止されます。
休日労働とは
労働基準法は、労働者に1週間に1日(または4週間に4日)の休日を与えなければならないと定めています。
この休日を法定休日といい、法定休日に労働した場合は前述した通り35%の割増賃金が支払われます。
土日休みが採用されている会社が多いかと思いますが、土日のうちどちらか1日が法定休日になり、残り1日の休日は通常の勤務日における労働と同様に扱われ、35%割増されません。
例えば、日曜日が法定休日の場合に土曜日に出勤したとしても35%割増にはならないというわけです。もちろん、時間外労働に当たる労働時間があれば時間外手当は支払われます。
残業時間
労働基準法は、所定労働時間の上限を定めており、1日8時間以内、1週間40時間以内と定めています。そのため、会社によっては1日8時間以内であれば自由に所定労働時間を設定することができます。かかる所定労働時間を超える労働時間を残業時間といいます。
もっとも、労働基準法は、法定労働時間を超えて労働した場合についてのみ、上記割増賃金を支払うことを義務付けているため、例えば所定労働時間が1日7時間で2時間残業をした場合は、法定労働時間の範囲内の1時間分については、就業規則等に個別の規定がない限り、割増されない通常の単価が支払われ、残りの1時間分については、通常の単価に25%割増した賃金が支払われることになります。
具体例で計算をしてみましょう
ここまでの内容を元に具体例で計算してみましょう。
勤務時間が平日9時から18時(休憩1時間)、休日は土日祝日で、基本給23万円、住宅手当3万円の契約で働く労働者が、ひと月のうち特定の1週間に、平日毎日9時から22時まで勤務(4時間残業)した場合、残業代はどのように計算すればよいのでしょうか。
・基礎賃金
住宅手当は基礎賃金から除外されるため、基礎賃金は基本給23万円です。
・1か月の所定労働時間
2020年の場合160時間です。
・割増率
25%割増となります。
・残業代
1時間あたりの割増賃金は、23万円÷160時間×1.25=約1796円となります。
この労働者のひと月の残業代は、1796円×4時間×5日=35,920円ということになります。
変形労働時間制の残業代計算方法
繁忙日や繁忙期に合わせて1日の労働時間を変動させるなどして、労働時間を月や年単位で計算する企業もあります。この制度を「変形労働時間制」といいます。
1日の労働時間が8時間と決まっていれば計算は簡単ですが、変形労働時間制の場合の残業代はどうやって計算すれば良いのか悩むこともあるのではないでしょうか。
変形労働時間制の代表的な種類としては以下の3つが挙げられます。
・1か月単位の変形労働時間制
・1年単位の変形労働時間制
・1週間単位の変形労働時間制
・フレックスタイム制
それぞれの残業代の計算方法について確認していきましょう。
1か月単位の変形労働時間制
1か月単位の変形労働時間制とは、1か月の労働時間を平均して週の労働時間が40時間以内(医療機関など特例が適用される場合は44時間)になるように所定労働時間を設定できる制度で、特定の日に法定労働時間を超える所定労働時間を設定できます。
例えば所定労働時間が8時間勤務で毎月月末が繁忙期だった場合、「1日から24日までの就業時間は午前9時から午後5時まで(7時間)、25日から月末までの就業時間は午前8時から午後7時まで(10時間)とする」などといった契約で働く場合がこの制度に当てはまります。
1か月単位の変形労働時間制の残業代は以下のように計算されます。
①1日ごとの残業時間を算出⇨所定労働時間を超えて働いた部分
(ただし所定労働時間が8時間以内の場合は8時間を超えた部分)
②1週ごとの残業時間の算出⇨週の労働時間が40時間(44時間)を超えた部分
(ただし①で残業となった時間を除く)
③変形労働時間ごとの残業時間の算出⇨法定労働時間の上限枠(※)を超えた部分
(ただし①②で残業となった時間を除く)
(※法定労働時間の上限枠は、1週間の法定労働時間(40時間または44時間)×変形期間の暦日数÷7と定められています。)
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の一定期間を、平均して1週間の労働時間が40時間以内の範囲内において、特定の日または週において、1日8時間または1週40時間を超えて所定労働時間を定めることができる制度です。
例えば、盆正月などが繁忙期の会社が、その期間の所定労働時間を増やして閑散期の所定労働時間を減らしたい場合などに採用されています。
1年単位の変形労働時間制の残業代の計算は、1か月単位の変形労働時間制と同様です。
1週間単位の変形労働時間制
1週間単位の変形労働時間制は、週単位で所定労働時間を調整する制度です。
規模30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店の事業において、1週間の所定労働時間を40時間以内とするよう定めれば、1日について最長10時間まで所定労働時間を設定することができます。
週全体で残業代を計算しますので、1日ごと、1週ごとの基準を超えた場合に残業代が発生します。
フレックスタイム制
まずフレックスタイム制とは、1か月などの単位期間の中で総所定労働時間を定め、その範囲内で労働者が始業や就業の時間を決めることができる制度を指します。例えば予定があるから月曜日は3時間だけ、まとめて仕事をしたいから火曜日は10時間…というような働き方ができるというわけです。
自らが働き方を決めることから残業代が出ないと思っている方も多いようですが、フレックスタイム制を採用している場合でも残業代は発生します。
労働者の裁量で働くことができるのがフレックスタイム制ですので、法定労働時間にこだわらず1日8時間、週40時間を超えて働くことができるのは確かです。
ただしフレックスタイム制は「清算期間」というものがあります。清算期間は1か月以内の期間で総労働時間は1週間の平均が40時間(44時間)を超えない範囲で設定しなければなりません。例えば「総所定労働時間は160時間」といった内容で契約されているはずです。
実労働時間が総所定労働時間を超えて働いた場合は、残業代が発生するということになります。
仮に時給1,200円で8月に200時間働いたとしたら、
・8月の法定労働時間=(31日の場合)177.1時間
・8月の実労働時間=200時間
・8月の残業時間=22.9時間
・法定内残業⇨177.1時間-160時間=17.1時間
・法定外残業⇨22.9時間-17.1時間=5.8時間(時間外手当に該当)
・8月の残業代
(1,200×17.1)+(1,200×5.8×1.25)
=29,220円
という計算になります。
逆に実労働時間が総所定労働時間を超えなかった場合はどうなるのかというと、余った労働時間分を翌月に繰り越すことができます。(実労働時間が総所定労働時間を超えたとしても繰り越すことはできません。)
例えば7月の総所定労働時間が160時間で実労働時間が155時間だったという場合は余った5時間分を8月に繰り越し、残業して相殺することができるということになります。
まとめ
以上、残業代の計算方法を紹介しました。
変形労働時間制であれば残業代は発生しないと思っている方もいらっしゃいますが、このように、変形労働時間制であっても残業代は発生します。
また、変形労働時間制は厳格に定められた要件を全て満たさなければ違法となります。会社が変形労働時間制を採用していたとしても実際には無効であるケースが多くあり、その場合割増賃金を請求できる場合もあります。
残業代がきちんと支払われているのかについて疑問に思った際は、専門家にご相談されることをお勧めします。