50代ご夫婦の残業代請求の事案です。ご夫婦が工場に勤務しており,ご主人が工場長,奥様も管理職として昼夜を問わず働き,月の残業時間はご夫婦とも100時間ほどになっていました,
ご夫婦とも心身ともに疲弊して退職せざるを得なくなり,勤務期間は8か月ほどでした。
出退勤データの一部はご本人が保管しておりましたが,不足分があったため,まずは会社に対し開示請求をしました。しかしながら,会社側の弁護士より,開示には応じない旨の回答があったため,やむなく手持ちの書類から残業代を推定し,訴訟を提起しました。
訴訟において資料の開示を求めたところ,会社側はこれに応じて資料を開示したため(裁判で資料を請求した場合は任意で応じる場合が大半です。),計算しなおした金額へと訴えを変更しました。
訴訟での主な論点は,ご夫婦が管理監督者性に該当するか否かという点でした。
そこで,当方としては,「残業代が支給されないとするとパート従業員よりも時給が安いことになってしまうこと」,「人事考課に関する権限がなかったこと」,「採用・解雇などの権限がなかったこと」,「原告らの仕事の内容は工場での作業といった現業が中心であったこと」,「昼夜を問わず業務を行う必要があり出退勤の自由がなかったこと」等を詳細に論じたところ,管理監督者ではないという裁判官の見解が示されるにいたりました。
結局,裁判上の和解が成立し,ご主人が260万円,奥様が220万円の支払を受けることができました。
1 管理監督者であると裁判所が認める事例はごくわずかです
会社側から管理監督者であるから残業代は生じないとの主張がなされることは頻繁にあります。しかしながら,管理監督者であると裁判所が認める事例はごくわずかです。人事に関する権限があったか,管理監督者として相応の報酬を得ていたか(時間給が平社員やバイトに逆転されていないか),経営に関与していたか,一般社員と変わらない業務ばかりをしていないか,出退勤時間についての裁量があったかなどの要素を細かく主張していけば,排斥できるケースがほとんどです。例えば,課長とか副店長などという役職であれば,まず管理監督者とは言われないと思います。部長,店長であっても(具体的な状況によりますが)あまり心配はないでしょう。本部長,エリアマネージャなどになってくると,具体的な状況によっては微妙な場合もあるかも知れません。いずれにせよ,この点も具体的に弁護士にご相談いただけば見込みはお伝えできるかと思います。
2 早急な訴訟提起が早期解決につながりました
残業代請求をご依頼いただいた場合,まずは交渉での解決を目指します。しかし,本件のように当初から会社側に譲歩の見込みがない場合は,交渉に時間をかけるよりは,早急に訴訟を提起したほうが結果として解決が早いこととなります。このあたりの判断も労働弁護士としての経験の見せ所かと思います。
3 同僚の方・複数からのご依頼のメリット
本件はご夫婦で同じ会社に勤務しているという珍しいケースでした。このように,同僚の方複数から同時にご依頼いただくこともよくあります。複数の方から同時にご依頼を受けたとしても,弁護士の作業量は2倍,3倍になるわけではありませんので,そのような場合には,おひとりあたりの弁護士報酬を減額することが可能な場合もあります。お客様にとっても,一人で会社と戦うより,同僚と一緒に戦った方が気が楽という面があるかと思います。