次の担当に患者さんの状況を伝えるのに申し送りが必要だったり、終業時間直前に緊急対応が生じたりと、看護師の業務は残業が多くなりがちです。看護師の中には、残業代が出ないと不満に思っている方も多いのではないでしょうか。

しかし、看護師も労働基準法が適用される労働者であり、残業が発生すれば病院は残業代を支払わなければなりません。本記事では、残業代の計算法や未払い残業代の請求の流れについて解説します。

残業に該当する看護師の業務

看護師は残業が多い職種と言われています。では、どのような業務が看護師の残業となるのでしょうか。

勤務時間外の申し送り

看護師の勤務形態は、勤務する病院によって異なりますが、入院施設がある場合には、夜勤が必要なため2交代制か3交代制の交代勤務となります。交代勤務では、次の担当看護師に患者の状態や状況などを伝える「申し送り」が行われます。

本来、申し送りは勤務時間内に行われなければなりませんが、状況によっては、申し送りに時間がかかる場合があり、残業となることがあります。

勤務時間後の看護記録の作成

「看護記録」は、看護師が行った看護内容を記載したものです。健康保険法や医療法に規定されている公式な文書で2年間の保存が義務づけられています。

看護師は、基本的に受け持った患者全員について、看護記録をつける必要があります。しかし、業務時間中は忙しく、看護記録を作成する時間が取れないことが少なくありません。そのため、勤務時間後に作成することになります。

終業時間直前の突発的な対応

終業時間直前であっても、緊急入院や患者さんの状態が急変した場合には、対応することが求められます。終業時間直前に、予測していない事態が発生すると、その対応のため残業となります。

勤務時間外の研修や勉強会への参加

医療や医療技術は常に進歩しているので、看護師は研修会や勉強会に参加して新しい知識を身につけることが必要です。

研修や勉強会への参加は本来は業務であり、勤務時間内に実施するのが基本です。しかし、人手不足の場合など日々の業務がある中で研修を実施するのが難しく、勤務時間外での実施となってしまうケースも多いでしょう。

看護師の残業代・残業時間の平均

厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査 令和5年2月分結果確報」によると、「医療・福祉分野」で働く一般労働者の現金給与総額の平均は333,790円でした。

その内、所定労働時間を超えた労働に対して支給される残業代や休日労働、深夜労働に対して支給される「所定外給与」は20,890円でした。また、所定外労働時間は平均で6.8時間となっています。

なお、「医療・福祉分野」と幅広い範囲の調査であり、看護師だけのデータではないため、実際の残業代や残業時間とは異なる可能性があります。

より実態に近い残業時間のデータでは、看護師向け人材紹介サービスの「マイナビ看護師」に登録している方を対象にしたアンケート結果をまとめた「看護師白書2021年度版」があります。

この結果によると、申告していないサービス残業時間を含む1ヶ月の時間外労働時間は「5時間未満(26.4%)」が一番多く、次いで「10~20時間未満(19.2%)」、「5~10時間未満(18.5%)」となっていました。また、50時間以上が3%もあり、時間外労働の上限である原則45時間を超えているケースも見られます。

また、残業時間のより詳細なデータとしては、日本医療労働組合連合会(日本医労連)が、2017年に調査・公表した「看護職員の労働実態調査結果報告」があります。これによると日勤の看護師の残業(時間外労働)の状況は、以下のようになっていました。

■日勤の時間外労働

始業時間前 終業時間後
①なし 20.2% 12.1%
②約15分 26.7% 14.0%
③約30分 33.9% 21.8%
④約45分 10.4% 8.1%
⑤約60分 7.2% 21.3%
⑥約90分 1.2% 13.2%
⑦約120分 0.5% 9.5%

日勤の看護師で始業前に30分以上の時間外労働をしてる割合は53.2%、終業後に30分以上の時間外労働をしている割合は73.9%といずれも半数を超えています。

同調査では、日勤だけでなく準夜勤務、深夜勤務、2交代夜勤の時間外労働についても調査していますが、いずれも始業時間前・終業時間後共に半数以上の方が30分以上の時間外労働をしているという結果でした。

残業代の計算方法

看護師の残業代の計算は、変形労働時間制を採用しているか、一般的な労働時間制かによって異なります。

一般的な労働時間制の場合

労働基準法では「原則として、1日8時間、週40時間を超えて労働させてはいけない」と定めていて、この基準の時間を法定労働時間と言います。法定労働時間を超えて働いた分は「残業」となります。

残業に対する賃金の計算は、「1時間当たりの賃金(時給)×1.25(割増率)×残業時間」で計算できます。
なお、時間外労働(残業)の割増率は1.25(月間60時間以上の残業については1.5)ですが、休日労働は1.35です。また残業が午後10時から翌日の午前5時の時間帯になった場合には、深夜労働となって割増率は1.5となります。

■計算例
月給20万円(手当等は無し)、1カ月の所定労働時間8時間、1カ月の所定労働日数20日の人の1時間の残業代
(1カ月あたりの平均所定労働時間は160時間とする)

1時間当たりの賃金 = 20万円 ÷ 160時間 = 1,250円
1時間分の残業代 = 1,250円 × 1.25※ = 1,563円(50銭以上切り上げ)

※休日労働であれば1.35、時間外労働かつ深夜労働であれば1.5を乗じてください

(詳しい残業代の計算方法は、こちらで詳しく解説しています。「残業代の計算方法を分かりやすく解説(具体例付き」

変形労働時間制の場合

「変形労働時間制」とは、労働時間を1日単位ではなく、月単位や年単位、週単位で計算する仕組みです。

一般的には、1日8時間または週40時間を超えて働いた時間は、時間外労働となり、残業代が発生します。しかし、変形労働時間制だと、1日10時間働いても残業代が発生しない可能性があります。
夜勤や休日出勤の多いシフト制の病院では、変形労働時間制を採用しているケースが多いので、残業時間を計算する前に確認が必要です。

(変形労働時間制については、こちらで詳しく解説しています。「変形労働時間制とは?残業時間の考え方を解説」

未払いの残業代を請求する方法

支払われていない未払いの残業代があれば病院に請求することができます。
請求までの流れを解説します。

1 残業した証拠を集める

実際に残業していたことを証明するための証拠が必要となります。残業の証拠となるのは、タイムカードやシフト表、詳細な勤務時間を記録したメモ、パソコンのログイン記録、電子カルテの記録などです。

2 病院側と交渉する

証拠を集めて未払い分の残業代があることを証明できる準備が整ったら、病院側と交渉しましょう。大きな病院で労働組合がある場合には、1人で交渉せずに、労働組合に相談する方法もあります。

3 労働基準監督署に相談する

病院側と交渉しても未払いの残業代を支払ってくれない時には、労働基準監督署に相談してみるのも1つの方法です。労働基準監督署とは、厚生労働省の出先機関で、企業が労働関係の法律を守っているかどうか監督する役割を持っています。

残業の事実が証明でき、残業代の未払いが確認できれば、労働基準監督署が病院に対し指導や是正勧告を行ってくれます。ただし、労働基準監督署の指導や勧告には強制力はありません。

4 弁護士に相談する

病院側が未払いの残業代の支払いに応じない場合は、労働審判や訴訟という方法があります。これらには法律の知識が必要なため、弁護士に依頼する必要があるでしょう。

また、弁護士は、残業時間の正確な計算や病院側との交渉についてもサポートすることが可能です。無料相談を行っている法律事務所もあるので、まずは相談してみることがおすすめです。

まとめ

看護師の残業代について解説いたしました。本記事でご紹介した残業になる業務や残業代の計算方法を参考に、まずはご自身の残業代に未払いがないか確認してみましょう。

残業代の未払いについては、病院側と交渉してみるのが良いですが、未払いを認めてもらえないケースも想定しておきましょう。
その場合は、法律の専門家である弁護士があなたの強い味方となります。お気軽にご相談ください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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