トラック運転手には、正社員、アルバイトやパートなどの非正規社員、請負契約を結んで働く人など、さまざまな雇用形態があります。
また給与形態にも、固定給制、歩合制、固定給+歩合制などの種類があります。

このような雇用形態や給与形態は、収入や勤務時間はもちろん、残業代の取り扱いにも関わるものです。不当な残業代未払いを防ぐためにも、トラック運転手として勤務する際には、雇用形態や給与形態を含めた雇用契約と、法律的な残業代の扱いをよく把握しておくことが大切です。

そこで今回は、トラック運転手が特に注意しておきたい残業に関する雇用契約や勤務時間のポイントとともに、残業代の請求に必要な手続きを詳しく解説していきます。

トラック運転手が注意するべき雇用契約・勤務時間

まずは、トラック運転手が特に注意しておきたい残業に関する雇用形態と勤務時間について見ていきましょう。
今回ご紹介するポイントは4つです。トラック運転手として勤務する際にはこれらのポイントを把握し、適切に残業代を請求するようにしてください。

①歩合制でも残業代は受け取れる

歩合制とは、本人の仕事の実績に応じた額の給料(歩合給)が支払われる給与制度のことです。トラック運転手の給与制度に歩合制を取り入れている会社は少なくありません。

「歩合制の場合、残業代は受け取れない」と考えている人は多いですが、これは間違いです。歩合給は実績に対する給与であって、残業に対する対価である残業代とは別物です。

そのため、歩合制であっても、法定労働時間である1日8時間または週40時間を超えた分の労働時間については、残業代が発生します。歩合制だからと、残業代の未払いを受け入れないよう注意してください。
ただし、歩合給の場合、通常の賃金に比べると、残業代が発生しにくい計算方法となってしまうため、残業代の額は限られてしまう場合もあります。

②みなし残業制(固定残業制)は違法性がないかチェック

みなし残業制(固定残業制)とは、みなしの残業時間を定め、そのみなし残業時間分の残業代を支給するという給与制度のことです。みなし残業制の場合、実際の残業時間は残業代に反映されません。例え全く残業しなくても、毎月定額のみなし残業代が支給されることになります。

運送業界では、みなし残業制を採用する会社が多く見られます。
なぜなら、運送業は長時間労働が多く、また会社がドライバーひとりひとりの勤務時間と休憩時間を明確に把握することも難しいためです。

このみなし残業制自体は違法ではありませんが、下記のような場合には未払いとなっている残業代を会社に請求できる可能性があります。

ケース1:みなし残業制について契約や就業規則の定めがない場合

みなし残業制を導入するのであれば、契約書や就業規則にそのことを明記し、従業員が納得している必要があります。入社時には「手取り35万円は稼げる」といった程度の説明だけ行い、契約書も作成しないまま、給与明細上にだけ「基本給30万円、固定残業代15万円」などと書いたとしても、そのようなみなし残業制は、雇用契約の内容となっておらず、無効といえます。

ケース2:基本給とみなし残業代が明確に区別されていない場合

みなし残業制の場合、基本給とみなし残業時間、みなし残業代(固定残業代)はそれぞれが明確に把握できるようにしておかなければなりません。どこまでが基本給かわからないような場合は、違法となる可能性があります。

ケース3:給与および残業代の賃金単価が最低賃金を下回る場合

給与や残業代の労働時間に対する1時間あたりの賃金単価が最低賃金を下回っていた場合、その給与制度は違法であり、未払い分の残業代を請求できる可能性があります。
給与や残業代は、総額だけでなく、労働時間1時間あたりの金額も確認しておくことが重要です。

ケース4:みなし残業の時間を超過して残業した場合

みなし残業制が採用されていても、みなし残業時間を超えて労働した場合には、超過分の残業代を請求することが可能です。

ケース5:月間80~100時間を超えるようなみなし残業時間が設定されている場合

月間80~100時間を超えるようなみなし残業時間が設定されている場合、そのみなし残業制は公序良俗違反となって無効となり、労働者は未払いにあたる残業代を請求できる可能性があります。

③請負契約・業務委託でも実質労働者なら残業代を受け取れる可能性有り

請負契約のもと、業務委託という形でトラック運転手として働いている場合、残業代は請求できないことが多いです。
請負契約・業務委託で働く場合、そのドライバーは「労働者」として扱われず、労働基準法の適用外となるためです。

ただし、請負契約・業務委託で働いているドライバーの中には、「使用従属性」や「労働者性」の観点から、実質的には雇用された労働者として働いている人もいます。
契約上は請負契約・業務委託とされていても、実質的には労働者として働いているような場合には、そのドライバーは労働者と判断され、労働基準法のもと、未払いの残業代を請求できる可能性があります。

④業務に付随する時間も残業代の対象になるかも

トラック運転手の業務では、荷物を配送している時間以外にも、以下のような多くの拘束時間が発生します。

・車両整備の時間
・日報など報告書作成時間
・荷待ち時間

これらの時間は「労働時間に含まれないのでは?」と考える方もいますが、車両整備や報告書の作成は業務の一部であり、その時間は当然労働時間になります。
また、荷待ち時間については、荷物の管理や移動の関係などでトラックから離れられず、労働から完全に解放されないような状況の場合は、労働時間になります。

業務に付随する時間も労働時間となり、残業代の対象となる可能性があることを覚えておいてください。

(荷待ち時間については、こちらの記事でも詳しく解説しています。「トラックドライバー必見!荷待ち時間は休憩時間?労働時間?」

残業代を計算する方法

残業代を請求するためには、未払いの残業代がいくらあるか把握しておく必要があります。ここでは、残業代の計算方法を確認しておきましょう。
(なお、歩合給の場合は以下とは異なる計算方法となります)

法定時間外の残業代は、1時間あたりの賃金の25%割増で計算します。
よって、残業代を計算するための計算式は、以下のようになります。

●通常の残業代計算式
1時間あたりの基礎賃金×残業時間×1.25(割増率)

●歩合制の残業代計算式
1時間あたりの基礎賃金×残業時間×0.25(割増率)

月給制など通常の残業代は基礎賃金の125%ですが、歩合制の場合は25%となるので注意してください。歩合制の場合は、100%にあたる部分が歩合給に含まれていると考えるためです。

残業代の計算方法については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。「残業代の計算方法は?」

残業代を請求する方法(流れ)

会社への未払い残業代の請求は、大きく以下のような流れで行います。

1.内容証明の送付
2.和解交渉
3.労働審判の申し立て
4.訴訟提起(裁判)

詳しく見ていきましょう。

1.内容証明の送付

会社へ未払い残業代を請求する際には、まず請求書を書面で送ることとなります。
この時、会社に「書面を受け取っていない」と言われてしまうことのないよう、「配達証明付きの内容証明郵便」を利用するようにしましょう。内容証明郵便を利用すれば、会社に書面を送ったという証拠を残すことができます。

2.和解交渉

内容証明を受け取った会社は、和解交渉を提案してくることも多いです。裁判には労力も時間もかかるため、話し合いによる解決を目指すのもひとつの方法でしょう。
ただし、会社との交渉は知識がないと難しい場合もあるので、弁護士などに交渉を依頼することをおすすめします。

3.労働審判の申し立て

和解交渉がうまくいかなかった場合には、まず労働審判制度を利用し、労働審判の申し立てを行います。労働審判は通常の裁判に比べ、スピーディーに問題を解決できる労働問題解決のための制度です。

申し立ては地方裁判所で行い、後日労働審判員を交えた審理(原則3回まで)が行われます。審理での話し合いで和解できない場合には、労働審判によって解決策が提示されます。

4.訴訟提起(裁判)

裁判所に訴訟を申し立て、口頭弁論や証拠調べを行い、最後に裁判所による判決を受けます

裁判所の判決に不服がある場合には、さらに控訴審を申し立てることになります。

残業代を請求するのに必要な証拠

会社に未払いの残業代を請求するには、残業の有無や残業時間を証明するための証拠が必要になります。
トラック運転手が残業代を請求するための証拠としては、下記のようなものが有効です。

・デジタコ、チャート紙
・タイムカード、シフト表
・運転日報、日誌
・出勤簿、アルコールチェック記録
・メール履歴
・メモ、日記 など

ドライバーの労働時間の資料としては、なにより、デジタコやタコチャートなどが有用です。少なくとも1年分のデジタコやタコチャートについては保管義務があります(本来であれば3年保管すべきものです)ので、会社からこれらを取り寄せることで時間の立証は可能となります。

タイムカードは労働時間を明確に把握できるものですが、運送業においてはあまり採用されていません。
デジタコ、タコチャート以外では、運転日報やアルコールチェック記録などの客観的なデータが証拠として有効だと考えられます。
これらのデータを会社が持っている場合には、開示請求を行うことでデータの開示を求めることが可能です。

また、残業代の計算の証拠としては、給与明細や雇用契約書、就業規則なども必要です。これらも手元にない場合は会社から取得することとなります。

(残業代の証拠については、こちらの記事で詳しく解説しています。「残業の証拠を残すにはどうすればいいのか」

未払い残業代に関する相談先

未払いの残業代について、働く人が自身で直接会社に請求手続きを行うことは困難です。未払い残業代についての問題は、一人で抱え込まず、以下のような組織・サービスに相談するようにしてください。

総合労働相談コーナー

総合労働相談コーナーは、各都道府県の労働局や全国の労働基準監督署内などに設置されています。相談者は、職場のトラブルに関して、専門の相談員による面談や電話対応を受けることができます。
総合労働相談コーナーはあらゆる労働問題に対応しており、予約不要・無料なので、残業代について疑問を持ったら、まず気軽に利用してみると良いでしょう。

労働基準監督署

未払い残業代については、労働に関する監督指導や手続きを行う労働基準監督署に相談することも可能です。労働基準監督署では、直接面談だけでなく、電話やメールでも相談を受け付けています。
ただし、労働基準監督署が積極的に動くのは、法令違反が生じている場合です。法令に直接違反していないような場合には、総合労働相談コーナーを利用するようにしてください。

全労連 労働相談ホットライン

労働相談ホットラインは、全国労働組合総連合が運営する労働相談窓口です。電話やメールで労働相談センターとのやり取りができ、労働条件や労働環境などに関するトラブルの相談をすることができます。

法律事務所(弁護士)

未払い残業代などの労働トラブル解決においては、法律事務所に連絡し、弁護士の手を借りるという方法もあります。
弁護士は、ただアドバイスするだけでなく、証拠集めや会社との交渉、訴訟への対応など、ひとりひとりの相談者に寄り添いながら具体的な行動を取ることができます。
弁護士への依頼はハードルが高いという方は、まずは法律事務所の無料相談などを利用すると良いでしょう。

また、未払い残業代について相談するなら、労働問題の実績豊富な弁護士を選ぶようにしてください。

当事務所のトラック運転手の残業代請求事例

当事務所にご相談いただき、残業代を獲得できた事例をご紹介します。

トラック運転手をされている元同僚のお二人からのご相談で、合計約1,000万円の残業代を獲得できました。
詳細はこちらの記事をご覧ください。「解決事例のご紹介【トラックドライバー同僚2名】裁判の結果,2名で約1000万円の残業代を獲得」

また、こちらでも解決事例をご紹介していますので、ぜひご覧ください。
「トラックドライバー(運転手)の残業代請求」

まとめ

トラック運転手の雇用契約や勤務時間の管理は複雑になりやすく、その結果残業代の扱いについても正しく把握できていないケースが多く見られます。歩合制やみなし残業制、業務委託の場合であっても、残業代を請求できる可能性はあるので、今一度契約内容や残業の実態について確認してみるようにしてください。

また、残業代を請求するには、証拠を揃えた上で、しかるべき手順を踏む必要があります。
これには専門知識も必要になるため、まずは相談窓口や弁護士に相談し、アドバイスを受けるようにしましょう。