固定残業代が支払われていると絶対に残業しないといけないの?!
“固定残業代が毎月支払われているけど、これってこの分は残業をしなければならないってこと?“といった疑問を持っている方もいらっしゃるかもしれません。また、定時に帰ったら”固定残業代を支払っているんだから、その分は残業しないと“と注意された経験はありませんか。固定残業代が支払われている場合は、その分、絶対に残業をしなければならず、定時で帰ると契約違反になるのでしょうか。今回は、このような疑問について説明をしていきます。
固定残業代とは
固定残業代、いわゆる「みなし残業」の制度は、あらかじめ毎月の給与や手当の中に「想定される一定の残業時間分の残業代を固定して支払う」制度です。定額残業代とも言われています。
具体的には、例えば雇用契約書に「月20時間までの時間外労働については固定残業代として4万円を支給する」と定められている場合です。実際に残業した時間が10時間でも18時間でも、4万円支給されることになります。
会社側は、実際の残業が定められたみなし時間内であれば残業代の精算の必要がないため、固定残業代の制度を導入している会社が多くあります。
毎月想定された残業時間分残業しなければならないのか
では20時間分の固定残業代が設定されている場合に20時間以内におさめたり、定時で退社したりしてもよいのでしょうか?
固定残業代は、上記のとおり毎月想定される残業時間分の残業代を毎月の給与として支払われるものであるため、固定残業代として定められた金額について会社側は全額支払わなければなりません。
そのため会社側は、実際の残業時間が固定残業代分の残業時間より少ない月があったからと言って、固定残業代を減らしたりすることはできません。
つまりこの制度は、実際の残業時間以上の残業代を受け取ることができる可能性がある点で、労働者側にもメリットがある制度ともいえます。
逆に固定残業代分の残業時間より多く残業をしたという場合、会社側は追加で残業代を支払う必要があります。
仮に雇用契約書などに「固定残業代で定めた残業時間を超過した場合について、超過部分の残業代は支給しないとする」といった規定があったとしたら、その規定が労働基準法に違反していることになりますので無効となります。
まとめると、固定残業代の制度を設けていた場合でもその想定時間分きっちりと働く必要はなく、超過した残業時間分については残業代を支給してもらうことができるということになります。
労働者からみた固定残業代制度のメリット・デメリット
ここまでの間に固定残業代制のメリットについていくつか出てきましたのでその詳細と、一緒にデメリットについてもみていきましょう。
メリット:効率良く仕事をすれば本来より多くの残業代を受け取ることができる
前述したとおり、固定残業代分の残業時間より実際の残業時間が少なかった場合にも、固定残業代は全額支払われます。
そのため効率よく仕事をすれば、固定残業代制を採用しない場合(通常の残業代計算)よりも多くの残業代を受け取ることができます。残業が少ない月にも一定額の固定残業代がもらえるため、給料が安定するという面もあります。無理に残業する必要はなく、定時に帰宅しても問題ないのです。
ただし、固定残業代分の残業時間を下回っている場合に、未実施分の時間について、会社側は翌月以降に繰り越して残業をさせることができるとした裁判例もあります。
繰越については労働契約書などに記載していない場合は違法となる可能性があります。
これらを含めて、就職するときにはあらかじめしっかりと労働契約書を読んで確認しておくことが大切です。
デメリット①残業を強制・強要されるという誤解
一つ目は残業をしなければならないという会社側の誤解です。
ここまで見てきたように、固定残業代の制度は絶対に残業をしなければならないという制度ではありません。本来は一定の残業代を支払うことによって給与を安定させるという労働者側へのメリットが多い制度のはずです。
しかし、それにも関わらず「固定残業代を支払っている分は働け」と言われたり、定時で帰宅したことを注意されたりするというケースが後を絶ちません。
ひどい場合は「固定残業代の時間分働かない場合は固定残業代の支給はしない」という会社もあるそうです。
具体的な指示もなく残業させられる場合は従う必要はなく、むしろパワーハラスメントに該当する可能性もありますので注意しておきましょう。
デメリット②みなし分を超過しても超過分が払われにくい
固定残業代の制度を設けている会社では、「固定残業代を支払っているのだから別途残業代は出ない」という制度の誤解によって、いくら残業をしても固定残業代以上の残業代が支払われず、いわゆるサービス残業を強いられているケースが少なくありません。
もうおわかりだと思いますが、これは違法となります。
会社側は労働者の実労働時間を把握する義務があり、これは固定残業代の制度があったとしても同じです。会社側は実労働時間を把握し、固定残業代分の時間を超えて残業している場合、割増賃金を支払う必要があるのです、後に訴訟を起こす可能性もあります。
労働者としては、固定残業代の制度があることによって、そもそも労働時間が把握されなかったり、把握されたとしても超過時間分を見逃されてしまうという点がデメリットとなるでしょう。
実際の残業時間があらかじめ想定されている残業時間を超えた場合
上記のように、実際にした残業時間が想定されていた残業時間未満の場合は、固定残業制は、労働者にとってメリットがある制度といえます。しかしながら、固定残業代制を悪用し、みなし残業時間以上の残業をしても残業代を払わない会社が後を立ちません。そのため、固定残業代は、労働者の定額使いたい放題制度だとも指摘されています。
固定残業代制は、固定残業代を毎月支払っていればいくらでも労働者を残業させられるという制度ではありません。想定されている残業時間を実際の残業時間が超えた場合は、会社側は追加で残業代を支払う必要があります。
具体的には、例えば、「残業手当:4万円(20時間分)」と定められている場合に月に30時間働いた場合は、別途追加で10時間分の残業代が支払われなければなりません。
しつこいようですが、「固定残業代を払っているから残業代は出ない」等の説明をされた場合は、労働基準法違反となります。
固定残業代制は、会社側に労働者の労働時間の管理の放棄を認める制度ではありません。きちんと何時間労働をしたか管理されていない場合は、未払いの残業代があるかもしれませんので確認しておきましょう。
想定されている残業時間が100時間?!
「残業90時間分」や「残業100時間分」として固定残業代が支払われているケースがあります。このような場合、実際の残業時間が想定されている残業時間を超えることはほとんどない場合があります。その場合は、固定残業代に追加して残業代は一切支払われないのでしょうか。
これについては、現在判断が分かれているところであり、このような固定残業代の合意が、残業を例外とする労働基準法の趣旨、36協定に反し、公序良俗に反し無効であるといった判断が出ているケースもあります。
そのため、固定残業代として月残業90時間分や100時間分出ているからといって、必ずしも残業代請求ができないというわけではなく、就業規則の記載内容、36協定の内容、残業代の支給実態等により請求できるケースもあるので、このような固定残業代の合意がなされている場合も、残業代請求をあきらめるのではなく、一度専門家にご相談されることをお勧めします。
実際の労働時間が固定残業時間未満の場合の取扱い
先ほども少し触れましたが、実際の労働時間が想定された残業時間未満の場合は、残った固定残業時間分が次月に繰り越される可能性があります。
具体的には、20時間分の残業が想定されている場合において、10時間しか残業をしなかった場合、翌月以降に10時間分の残業の対価が固定残業代として扱われる可能性があるということです。
実際にあった裁判例では、“実際の稼働時間に応じた金額と固定残業代に差額が生じた場合に、固定残業代が実際の稼働時間に応じた金額に不足する場合は、不足分についてはこれを支給し、固定残業代が実際の稼働時間に応じた金額を超過する場合は、超過分について会社はこれを次月以降に繰り越すことができるものとする”という会社の取扱いに基づいた時間外手当の支払について有効としているものがあります(東京地裁平成3月28日判決)。
しかし、この事案では、繰り越しの適否それ自体が争われた事案ではなく、裁判例の1つであるため、必ずしも普遍化できるものではありません。
このような繰り越しの規定が雇用契約ないし就業規則にあって、このような取扱いがされている場合で、残業代が支払われていない場合でも実際は支払われなければならない可能性もあるので、少しでも疑問に感じる点があれば、一度専門家にご相談されることをお勧めします。
まとめ
今回は固定残業代が支払われている場合に必ずしも残業をしなければならないのかという疑問について説明をさせていただきました。多くの企業で固定残業制が採用されている中、正しい知識をもとに運用されていないケースも多々あります。今回の解説をもとに、疑問に感じる点があれば、残業代の取扱いについて、雇用契約書、及び就業規則にどのように記載されているか今一度ご確認ください。