残業代がきちんと支払われていない場合、法律に基づいて計算した上で、会社に対し残業代請求をすることになります。
しかし、今働いている職場に「残業代を出してください」とは、なかなか言いづらいものですよね。また、請求した後に降格させられるなど、何か不利益がないのかも心配になります。
そこで、今回は、在職中に残業代請求をしてもわたしたちに不利益がないのか、どのようなメリットがあるのかについてお伝えします。
1. 在職中に残業代請求しても労働者に不利益がないように守られている
結論から言うと、残業代請求をしたからといって会社はその従業員を不利益に扱ってはなりません。
残業代請求した直後に懲戒や配置転換などがなされた場合、残業代請求に対する報復であると判断できる可能性が高く、そのような場合は不利益な取り扱いは無効となります。
2. 在職中に残業代を請求するメリットとデメリット
しかし、在職中に残業代請求をするとなると、「職場の居心地が悪くなるのではないか」「急な異動や配置転換がされるのではないか」など、デメリットばかりが浮かんできてしまいます。
しかし、反対に在職中に残業代を請求するメリットもあります。
在職中に残業代を請求するメリット
ではまず在職中に残業代をするメリットからチェックしていきましょう。
①消滅時効の前に請求することができる
残業代の請求権は、2年(2020年4月以降に発生したものについては3年)で、時効により消滅してしまいます。
そのため、請求時点で2年以上前に発生している残業代については請求できないということになります。そのまま放っておけば、毎月残業代が時効消滅していきます。
退職後に残業代を請求しても良いのですが、在職中に請求した方がもらえる残業代が多くなる可能性が高くなるということになります。
②証拠を集めやすい
残業代の請求には証拠が必要不可欠です。
証拠がなければ、裁判を行っても負けてしまう可能性があります。
退職後に残業代の請求をする場合、会社側が勤怠状況のわかるものを改ざんするなどして残業代が発生していないように見せるケースもあるのが実情です。
在職中であれば、自分で証拠を保管しておくことやコピーをとっておくことなどが可能ですので、証拠を集めやすくなります。
なお、証拠となるものとしては
・タイムカード、労働時間管理ソフト
・入退館記録
・パソコンのログイン・ログアウト時間
・上司や取引先との間のメール送信時刻
・業務日報
・雇用契約書、就業規則
・給与明細 などが挙げられます。
③状況改善が期待できる
可能性は低いかもしれませんが、会社に残業代を支払わなければならないという意識が低いだけであった場合などは、請求をすることによって、きちんと残業代がもらえるようになる可能性があります。
悪質な会社ばかりではないため、請求を機に労働条件などを良い方向に変えていくことができる会社もあるでしょう。この場合は気持ちよく働き続けることができる可能性もあります。
在職中に残業代を請求するデメリット
さて、やはり気になるのはデメリットですよね。
どういったデメリットがあるのか把握し、在職中に残業代を請求するのか、それとも退職後に請求するのかを検討しましょう。
①不利益な扱いを受ける
残業代請求した直後に懲戒や降格、配置転換などがなされた場合、残業代請求に対する報復であると判断できる可能性が高く、そのような場合は不利益な取り扱いは無効となります。
ただし、不利益な取り扱いが無効と認められ、残業代も受け取ることができたとしても、結果として会社に居づらくなって辞めてしまう人もいるのが現状です。
②逆に損害賠償請求をされる
これは退職後に残業代請求をした場合にも該当しますが、残業代請求をしたことに対する報復として、過去に起こした事故やミスなどを持ち出して損害賠償請求をされることがあります。
損害賠償請求をすることによって残業代請求を取り下げさせることが目的なのです。
しかし、仮に事故やミスを起こしていたとしても、必ずしも会社の請求が認められるとは限りませんので、一度専門家に相談することをお勧めします。
3. 退職後に残業代を請求するメリットとデメリット
次は退職後に残業代を請求するメリットとデメリットです。
退職後に残業代を請求するメリット
退職した後ですので、社内の人間関係や立場、嫌がらせなどを気にすることなく残業代請求をすることができます。
また、残業代の遅延損害金が在職中より高い利率でもらえるようになります。
在職中は、2020年4月よりも前に発生した残業代については年6%(営利を目的としない団体の場合は年5%)、2020年4月以降に発生した残業代については年3%の利率ですが、退職後は年14.6%となります。
退職後に残業代を請求するデメリット
前述したとおり、証拠の収集が困難になります。また、証拠を改ざんされてしまう危険性があります。
そして、時間が経てば経つほど未払い残業代が消滅時効にかかっていってしまいますので、請求することができる残業代が少なくなっていってしまいます。
このように、在職中、退職後どちらを選択しても一長一短あるのです。
それぞれのメリット、デメリットをふまえて、請求時期を慎重に選択して下さい。
4. 労働基準監督署に違反を申告するとどうなる?
残業代が支払われない場合、直接請求するのではなく、労働基準監督署(労基署)に申告するという方法があります。
タイムカードや労働契約書、就業規則などの証拠を持って、所定の形式で申告を行います。労基署が労働基準法に反していると認定すれば、労基署が使用者を調査し、残業代を支払うよう勧告してくれます。
労基署に申告するメリット
(1) 社員全員分の残業代が支払われる
違反していると認められれば、会社内の全員に残業代が支払われることでしょう。
労基署は、会社として労働基準法に違反していないかを調査するため、指導が入る場合には「全員分の残業代を払いなさい」となるからです。
(2) 会社の環境が見直される
会社自体に指導が入ることから、会社の環境がホワイトになる可能性もあります。
とはいえ、ブラックな会社がある日突然ホワイトに変わるとはあまり期待できません。
労基署に申告するデメリット
(1) 強制力がない
この方法の最も大きなデメリットは、強制力がないことでしょう。監督官は会社に対し指導という形をとることはできても、強制的に残業代を支払わせる権限はないのです。
(2) 残業代を計算してくれるわけではない
労基署の役割は、会社が労基法違反に違反していないかを調査し、違法状態があれば改善するよう指導することであり、個人の未払残業代の計算まではしてくれません。
ご自身で計算するか、難しければ専門家に相談することになります。
(3) すぐに指導してくれるかわからない
労基署が迅速に動いてくれるかは事案によります。時間が経つうちに古い残業代がどんどん時効になってしまう可能性もあります。
残業代の請求は弁護士に依頼するのがおすすめ
自分の残業代をきちんと回収することを考えるのであれば、行える業務の範囲も含めて最初から弁護士に依頼してしまった方がよいと思います。
先に労基署に相談してみるというやり方もありますが、個人的にはあまりお勧めしません。労基署が入る前であれば、会社としては、「一部の従業員にだけでも満額払って解決してしまう方が全従業員から請求されるよりも得だ」と考え、和解で満額に近い金額を支払ってくる可能性があります。
他方で、労基署がすでに動いている事案であれば、「どうせ他の従業員にも知られるのであれば徹底的に争おう」ということになりかねません。
弁護士に依頼するのは敷居が高そうと思われるかもしれませんが、初回相談が無料のケースもありますので、まずは気軽に相談してみてはいかがでしょうか。
5. まとめ
頑張って働いた分の残業代が支払われない状況が続いているという方は残業代の請求を検討してみましょう。
辞める前提で在職中に請求をするのか、辞める選択はせずに残業代をきちんと支払ってもらえる状況を作りたいのか、不利益を受けないようにあらかじめ辞めてから請求するのかなど、ご自身が思う状況に持って行けるように残業代請求ができるように考えていきましょう。
確実に請求したいのであれば弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
「解決したはいいけど、費用の方が高くついた!」ということのないように、残業代請求については初期費用無料かつ完全成功報酬制となっております。成果がなければ弁護士報酬は0円です。お気軽にご相談ください。