未払いの残業代には請求できる期限があります。時効を迎えれば、残業代は請求できなくなり、消滅してしまうのです。
ここでは、残業代請求の時効について、そして残業代が時効による消滅をしないようにするには、どのような手段を取ればよいのかを確認しましょう。

残業代請求の時効とは?

2022年現在、残業代の時効は3年間となっています。残業代を受け取るはずだった日(給料日)から3年後に、その残業代は消滅してしまうのです。
まず、関係する法令を確認しておきましょう。賃金の請求権は労働基準法第115条によって次のように定められています。

この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。(労働基準法第115条)

「あれ?3年では?」と思われたかもしれませんが、労働基準法が改正されたので2020年4月以降に発生する残業代の時効は「5年」に変わったのです。しかし、2年から5年に延長することに対して企業からの反発があり、経過措置として「3年」が賃金請求権の消滅時効となっています。残業代も賃金請求権に含まれるため、3年が消滅時効になります。

消滅時効とは

消滅時効とは、債権者(残業代請求の場合、労働者)が債務者(残業代請求の場合、会社)に対して何も請求を行わないまま、法律で定められた期間を経過してしまった場合に、債権者の権利が消滅する制度のことです。
会社に対して法律で定められた期間(3年)何も請求を行わなかったら、3年経過後に残業代を請求することができなくなるということです。

時効の中断(更新)とは

時効の中断とは、消滅時効を止める方法です。民法改正が行われたことにより、現在は「時効の中断」ではなく「時効の更新」に名称が変更になっていますが、内容は変わりません。

時効の中断(更新)をすると、これまで進んでいた消滅時効の期間がストップし、またゼロから時効がスタートします。
例えば、2020年4月25日が給料日だった場合、2023年4月26日には消滅時効を迎えて請求ができなくなります(初日不算入の原則があるため、起算日は支払日の翌日からとなります)。
仮に2023年2月15日に時効の中断(更新)を行えば、この中断の翌日からまた消滅時効の期間がスタートしますので、2026年2月16日に消滅時効を迎えるというわけです。

時効の中断(更新)事由とは?

では、どのようにして時効の中断(更新)をすることができるのか確認していきましょう。

(1)裁判上の請求等による更新

まず1つ目の方法は、裁判上の請求等による更新です。
民法第147条には次のように規定されています。

次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十
六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
(民法第147条)

時効を中断させる「裁判上の請求」とは、単なる請求ではなく、裁判上の請求まで行う必要があります。
残業代請求の場合、裁判上の請求には主に2種類あり、①民事訴訟による方法と➁労働審判による方法が挙げられます(その他に、調停の申し立ての場合にも、時効は中断します)。

①民事訴訟による方法とは

裁判所に残業代請求の申立てをすることです。
訴状を提出した時点で、時効が中断します。

➁労働審判とは

裁判所において労働審判委員会を間に挟み、当事者で話し合いをすることです。
労働審判の場合も、裁判所に労働審判の申立てをしたときに時効が中断します。

(2)強制執行等による更新

次は強制執行等による更新です。
こちらは民法第148条に定めがあります。

次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続
(民法第148条)

時効を中断させる方法として、差し押さえなどの強制執行をすることが挙げられます。
これらは、民事執行と呼ばれる手続きで、訴訟で勝訴した場合に相手が任意で支払いをしないときに取る手段になります。
具体的には、会社の財産を差し押さえて競売にかけ、強制的に残業代を回収するのです。

ただ、強制執行をするためには事前に裁判で判決を獲得する必要がありますので、すでに時効は中断(更新)されているはずです。強制執行が時効の中断(更新)として意味を持つ場合は例外的な場合といえます。
また、残業代請求をする場合に、民事執行まで行くことはあまりありません。会社の外聞などもあるので、裁判で負ければきちんと支払ってくれるでしょう。
しかし、万が一判決が出たにもかかわらず支払われない場合には、差し押さえができるということを覚えておくと良いですね。

なお、以前は仮差押えや仮処分も時効の中断(更新)の対象となっていましたが、民法改正によって時効の中断(更新)事由ではなくなっています。
ただし、手続きを行っている間は時効の完成の猶予の対象となりますので、6ヶ月間猶予されます。

(3)承認による更新

承認による更新は民法第152条に定めがあります。

時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
(民法第152条)

承認とは、会社側が未払いの残業代の存在を認めることです。
例えば、

  • 使用者が「きちんと残業代は払うから、もう少し支払いを待ってくれ」と言った
  • 使用者が少額でも追加で残業代を支払った
  • 労働組合との話し合いの場で、残業代未払いを認めた

などの事情があると、債務の承認があったとみなされます。
ここで注意してほしいのは、きちんと時効を停止させるためには証拠を取っておく必要があるということです。
特に承認は、「いった」「いわない」の水掛け論になってしまいますので、必ず書面か音声データを残しておきましょう。

時効の完成の猶予とは

「時効の中断」と同じく、民法が改正されたことによって名前が「時効の停止」から「時効の完成の猶予」に変わりました。こちらも内容は変わります。
「時効の完成の猶予」は、時効の中断(更新)とは異なり、消滅時効の期間をゼロからまたスタートさせることではありません。時効の完成の猶予は、時効を停止させる事由がある場合に、所定の期間は時効期間が進まないというものです。
猶予期間中に時効の中断(更新)の手続きを取るなどして消滅時効の期間を延ばしておかなければ、猶予期間完了後に時効はまた進むことになります。

催告

しかし、いざ残業代請求をしようと思っても、タイムカードが手元になかったり、会社の就業規則がなかったりして、未払い額の算定すら容易ではありません。
時効の中断(更新)をしようと未払い額を調べているうちに、どんどん残業代が時効になってしまいます。

そこで、「催告」という制度があります。「催告」は、時効の完成を猶予することができる事由の1つで、裁判所を使わずに自分で「きちんと残業代を支払ってください」と請求することです。
催告をしたことを証拠として残す必要があるので、内容証明郵便で行うことが多いです。

(内容証明郵便については、こちらで詳しく解説しています。「残業代請求に必要な内容証明郵便とは?書き方を解説(記載例付き)」

この「催告」を行っておけば、6か月間は時効がストップします。その間に、証拠収集や計算等を行い、残業代の交渉を行っておき、交渉が成立しなければ6か月以内に訴訟を起こしておけば、時効を最小限に抑えることができます。

残業代を請求する方法

残業代を請求するためには、まずは労働時間を証明することができる証拠を集めます。
次に、証拠を基に未払い残業代を計算します。未払い残業代の計算ができたら、いよいよ会社に請求を行います。
この請求で会社が未払い残業代を支払ってくれれば、完了となります。

未払いの残業代が支払われなかった場合は、労働基準監督署に申し立てを行い会社に対して是正勧告を行ってもらうという方法があります。ただし、必ずしも是正勧告を行ってくれるとは限りませんし、是正勧告を受けても会社側が残業代を支払わないケースもあります。
その場合は、裁判所で労働審判や裁判を行う事になります。

まとめ

残業代請求をするための証拠集めや労働審判、裁判は、いずれも決して簡単ではありません。会社がタイムカードなどの証拠を開示しないこともありますので、証拠集めの段階から思うように進まないことがあるのです。
スムーズに未払い残業代を請求するためには、弁護士に依頼することがおすすめです。
まずは一度お気軽にご相談ください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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