現物支給とは

まず、現物支給とは何か確認しておきましょう。
現物支給とは、給与を金銭以外で支払うことを言います。
例えば、食事や住宅(社宅や寮)の貸与、金券・証券、自社製品、通勤手当などを給与として支給することを言います。

給与や残業代を現物支給することはできるのか?

では、給与や残業代を現物支給することは認められているのでしょうか。
結論から述べると、給与や残業代は原則として現物支給することはできません。
ここでは、関係法令と併せて、その詳細と例外として現物支給が認められる場合を確認しておきましょう。
まず、賃金の支払いについて、労働基準法第24条を確認しておきましょう。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。(労働基準法第24条)

通貨で支払わなければならないとされていますので、賃金は原則として現物支給ができないことが分かります。

賃金とは

賃金については、労働基準法第11条において以下のとおり定義されています。

この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。(労働基準法第11条)

(対償とは対価と同じ意味です)
給与も残業代も賃金であることが確認できました。賃金は原則として現物支給できませんので、給与や残業代も同じく原則として現物支給してはならないということになります。

賃金の支払いに関する例外

労働基準法第24条のただし書きによって、賃金の支払いには例外が認められています。
具体的には、①労働組合のある会社が、労働組合との労働協約において現物支給について定めた場合、②労働者の同意を得た上で口座振込等とする場合(労働基準法施行規則第7条の2)に、賃金を通貨以外の方法で支給することが認められています。

多くの会社が賃金を口座振込による方法で支給していますが、これは通貨による支給の例外として労働基準法施行規則第7条の2で認められているものということになります。

また2023年4月から口座振込に加え、例外としてデジタル払いも認められるようになります。デジタル払いとは、〇〇Payなどのスマホ決済アプリで賃金を支給することです。
口座振込で支給する場合と同様、使用者が一方的にデジタル払いを強制することがないよう、デジタル払いとする場合は「労働者の同意」を得る必要があります。

ボーナスを現物支給することは許されるの?!

では、ボーナスを現物支給することは認められるのでしょうか。

ボーナスすなわち、賞与は、賃金と区別して考える必要があります。賞与は、毎月の給与とは別に支払われる特別な報酬です。賞与に関する法的な定めはなく、賞与は法律上当然に支払ってもらえるものではなく、会社が恩恵的に支払うものです。
したがって、会社がボーナスを現物支給することは原則として認められます。

もっとも、賞与の支給基準が雇用契約や就業規則に定められている場合は、かかる賞与はその定めのとおり支給されなければなりません。その定めに反する支給方法は、合意違反になります。

現物支給に所得税は課税されるのか

通貨による賃金の場合は所得税が課税されますが、現物支給の場合はどうでしょうか。
現物支給であっても賃金となりますので、通貨で支給される場合と同じく所得税の課税対象となるのですが、現物支給の場合は一部非課税となっています。

<非課税となる現物支給の一例>
・通勤定期代(1ヶ月あたり100,000円まで)
・制服
・永年勤続者の記念品
・創業記念品
・商品、製品等の値引販売
・レクリエーション費用
・食事代(給与所得者がその食事の価額の1/2以上を負担し、かつ、使用者の負担額が月額3,500円以下のもの)

詳しくは、国税庁のホームページでご確認ください。
参考 国税庁「No.2508 給与所得となるもの」「〔給与等に係る経済的利益〕」「給与所得の範囲」

まとめ

今回は賃金の性質と共に残業代の現物支給が認められるかについて説明をしてきました。残業代が現物支給されている場合は、雇用契約書及び就業規則にどのように記載されているか、労使協定が締結されているか、今一度ご確認ください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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