残業代請求するには、まず内容証明郵便
近年、残業代未払いのニュースを目にする機会が増えており、残業代請求について高い関心が寄せられてきていることがよくわかります。
そこで、自分も残業代請求をしてみようと色々調べてみたり、労基署に相談してみたりしたところ、残業代請求するにあたっては「まず内容証明郵便を会社に送って請求をする」という検索結果だったりアドバイスを受けたりしたのではないかと思います。
では、「なぜ内容証明郵便で送らなければならない」のでしょうか?
今回は内容証明郵便と残業代請求の関係について、説明をしていきたいと思います。
残業代請求ができる期間について
残業代請求をするにあたって「内容証明郵便を会社に送ること」が必要となる理由として、残業代請求ができる期間、つまり時効が関係してきます。
残業代請求権は、給料支払日の翌日から3年(2020年3月以前であれば2年)で時効を迎えます。
例えば、毎月25日が給料日の方が2020年5月の未払い残業代を請求したい場合は、2023年5月26日に時効を迎えてしまうため、それ以降は残業代請求はできないということになります。
つまり、残業代請求できる期間には期限があるため、いつまでも遡って請求できるというわけではないということです。
残業代請求の時効を止めるには
しかし、未払い残業代の時効が目前に迫っているからといって諦めるしかないというわけではありません。
会社に対して未払い残業代を支払うように「催告(相手方に、ある一定の行為をするよう促すこと)」をすることで時効を止めることができます。
催告をすることによって、残業代請求の時効が6か月間止まります。
先ほどの例でいいますと、時効前に催告が会社側に届くと6か月間は残業代請求の時効は止まるため、2023年11月26日まで請求をすることができるようになるのです。
そして、「催告をした」とするためには、相手方に催告の内容が届く必要があります。
しかし、中には未払い残業代を支払わずに済ませるために『催告などされていない』と主張する会社がある可能性があります。
そうなると、最終的には『催告がされておらず時効を迎えている。残業代を支払う義務はない。』ということになってしまいます。
そこで、催告をした証拠を残すために「内容証明郵便」を利用するのです。
内容証明郵便の重要性
内容証明郵便とは
内容証明郵便とは、郵便局が「一般書留郵便物の内容文書について証明するサービス」です。
・いつ
・どんな内容の文書を
・誰から誰あてに
送ったのかを、差出人が作成した謄本によって郵便局が証明してくれます。
つまり、会社が『催告などされていない』という言い逃れをすることを防ぐことができるのです。
内容証明郵便を利用すべき理由
では改めて、内容証明郵便を利用するべき理由について整理しておきましょう。
- 時効を止める
内容証明郵便を送ることによって催告をしたことになりますので、時効を止めることができます。 - 内容を残せる
内容証明郵便にすることによって、きちんと催告をした文書が郵便局に残ります。
送付日や宛先も控えてあるので会社は言い逃れができなくなります。
本来、催告は文書でなく口頭でも有効なのですが、口頭では「言った言わない」の問題が出てくるなど事実があやふやになってしまいます。
内容証明郵便を利用すれば第三者である郵便局が証明してくれますので事実が変わりません。 - 証明になる
会社との話し合いだけでは終わらず、裁判所で労働審判(労使間の紛争の解決を図る手続)や裁判を行うことになった場合にも、重要な証拠となります。
明らかに話し合いでは終わらないような会社に請求をする場合は絶対に内容証明郵便にしたほうが良いということになります。
内容証明郵便の書き方と記載例
内容証明郵便の差出方法
内容証明郵便を利用する際には細かい差出方法が設定されていますので、まずは準備が必要なものを確認していきましょう。
- 内容文書
記載例は後述しますが、会社へ送付する文書を用意します。未払い残業代の内容や金額、振込先などを記載します。
なお、文書以外の物(返信用封筒等)は同封不可となっています。 - 謄本
内容文書の写し(コピー)を用意します。差出人と郵便局がそれぞれ1通ずつ保存するため、2通必要です。
内容文書と異なり、謄本は字数と行数が指定されています。
縦書きの場合…1行20字以内、1枚26行以内
横書きの場合…1行20字以内、1枚26行以内
1行13字以内、1枚40行以内
1行26字以内、1枚20行以内
また、括弧や特殊文字などは字数が異なりますので、郵便局の内容証明郵便のページでしっかりと確認しておいたほうがいいでしょう。
謄本が2枚以上にわたるときは、そのつづり目に差出人の押印が必要です。
謄本と違い、内容文書には文字数や行数の制約はありませんが、内容文書と謄本は同じ内容のものになります。そのため、謄本の書き方に則って内容文書を作成し、それをコピーすることで謄本することも可能です。 - 封筒
差出人と受取人の住所と氏名を記載した封筒を用意します。 - 郵便料金
内容証明の加算料金は440円で、内容文書が2枚以上ある場合、2枚目以降は一通あたり+260円となっています。
一般書留とする必要がありますので、合計すると「基本料金+一般書留料金+内容証明郵便料金」を支払うことになります。
内容文書の記載例
内容文書には「必ずこのように記載する」という決まりはありません。
残業時間や残業代の計算が完了しているのであれば、以下のような記載をしておくのがよいと思います。
しかし、タイムカードなどが手元になく、まだ金額計算ができない場合でも、「私が貴社に就労していた期間中に生じた、時間外、休日及び深夜の割増賃金その他の未払い賃金について、お支払いいただくよう催告します。」という文章だけでも結構です。
○○○○年○○月○○日
株式会社○○
○○県○○市○○町○○番地
○○ ○○様
請求書(催告書・通知書などでも可)
私は、○○○○年○○月○○日に入社し、○○○○年○○月○○日まで貴社で勤務していた者です。
○○○○年○○月○○日から○○○○年○○月○○日に行った○○時間の時間外労働に対する割増賃金のお支払いを受けておりません。
つきましては、未払いの割増賃金○○円ならびに、退職日の翌日である○○○○年○○月○○日から支払済みまで年14.6%の割合による遅延損害金を、○○○○年○○月○○日までに下記口座まで、振込みによりお支払いください。
期日までにお支払いいただけない場合には法的手段をとることになりますので、あらかじめご了承ください。
○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○○ 口座名義人○○○○
○○県○○市○○町○○番地
○○ ○○(自分の名前)
遅延損害金とは
残業代未払いは、民法第415条の「債務不履行(さいむふりこう:債務を履行しないこと)」に該当します。
債務不履行があった場合、債権者は債務者に対して損害賠償を請求できると定められています。
遅延損害金の利率は、年利3%となっています。
なお、退職後に請求する場合は、「賃金の支払の確保等に関する法律」によって年利14.6%となります。
6か月が経過したらどうなるのか
催告から6か月以内に、会社側と話し合いをして、残業代請求に会社が応じてくれれば、何の問題もありません。
しかし、催告から6か月以内に会社側が残業代請求に応じなかったら時効を迎えてしまいますが、その場合は残業代請求ができなくなってしまうのでしょうか。
結論から申し上げますと、そうではありません。
催告は一旦時効を中断する手段であり、実際に時効を止めるには、裁判をする必要があります(会社側が消滅時効を援用することを放棄してくれれば裁判をする必要はありません)。
催告から6か月以内に裁判や労働審判を提起することによって、時効は止まります。
そして、裁判上では、時効が経過していると主張される可能性があります。その場合に、時効が経過していないことを証明するために、内容証明郵便は重要な証拠となります。
以上のように、残業代請求は時効との関係で2段階になる可能性があることを認識していただければと思います。
残業代請求を弁護士に依頼するメリット
残業代請求は自分で行うことも可能です。
しかし、内容証明郵便ひとつ作るのもかなり大変な作業です。
また、会社側がすんなりと支払いをしてくれれば問題はありませんが、支払わないケースや何かの確認のための連絡がくるケースなど、引き続き会社とやりとりをしなければならないのが現状です。
弁護士などの専門家に依頼しておけば、残業代の計算や証拠集め、内容証明郵便の作成、最終的には裁判の代理人にもなってくれます。
直接会社とやりとりをする必要もありませんので、心理的な負担も軽減されます。
この場合、裁判まで持ち込まなくても「内容証明郵便に弁護士の名前がある」というだけで会社がすぐに支払いに応じる可能性が高くなるのも大きなメリットとなります。
残業代請求をしようと考えている方は、まずは1度気軽に弁護士に相談してみてはいかがでしょうか?
まとめ
今回は、残業代請求をするにあたっての時効についての問題と、時効を中断させるための手段について、説明をさせて頂きました。
残業代請求には上記で説明をしましたとおり、3年間(2年間)の時効があるため、時効を中断させることはとても重要なことです。
残業代請求を考えている方は、時効については細心の注意を払っていただきたいと思います。