一生懸命働いても、正当な賃金を得られなければ、働く意欲を失ってしまいます。
そこで、政府では、会社が最低限払わなくてはいけない1時間当たりの賃金を定めています。
それが「最低賃金です。

最低賃金とは何なのか、自分がもらっている賃金は正当な金額なのかを確認していきましょう。

最低賃金とは

最低賃金とは、厚生労働省のサイト「必ずチェック 最低賃金」によると使用者が労働者に支払わなければならない、賃金の最低額を定めた制度であるとしています。

最低賃金は「最低賃金法」に基づいて国が定めた1時間あたりの最低賃金額のことで、使用者は最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければなりません。
最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。
それぞれの詳細について解説していきます。

地域別最低賃金

地域別最低賃金とは、産業や職種に関わりなく、各都道府県で働くすべての労働者とその使用者に適用される最低賃金のことです(最低賃金法第2節)。
域別最低賃金は都道府県ごとに設定される最低賃金のことで、毎年、地域の実情に応じた最低賃金額に改正されます。改正発表時期の目安は毎年7月末頃となっており、効力発効日はその年の10月上旬となっています。
最低賃金額は一般的に、都市部が高く、地方が低くなっています。2021年の全国平均額は930円で、最高額は東京都の1,041円、最低額は高知県・沖縄県の820円となっています。
2021年の都道府県ごとの最低賃金と効力発効日については、厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧をチェックしてみてください。

特定(産業別)最低賃金

特定(産業別)最低賃金とは特定の産業ごとに設定される最低賃金のことです(最低賃金法第3節)。
産業の労使からの申出に基づいて、最低賃金審議会が「地域別最低賃金よりも高い最低賃金を定めることが必要である」と認めた場合に設定されます。そのため、効力発効日はそれぞれの産業ごとに異なります。
日本労働組合総連合会によると、2021年1月末現在で特定(産業別)最低賃金は全国で227件設定されています。
なお、特定(産業別)最低賃金が地域別最低賃金を下回る場合はその効力を失い、地域別最低賃金が適用されます。
例えば、岩手県の「各種商品小売業」の特定(産業別)最低賃金は767円となっていますが、2021年の地域別最低賃金は821円となっているため、後者が適用されることになります。

ここからは、すべての労働者に適用される「地域別最低賃金」を中心に確認していきましょう。

最低賃金の計算方法

ではまず、自分がもらっている賃金が最低賃金額以上となっているかどうかを確認する方法をチェックしていきましょう。

時間給制

時間給(時給)は1時間単位で支給される賃金となっていますので、時間給が最低賃金額を上回っていれば良いということになります。

日給制

日給は1日単位で支給される賃金です。
日給は次の計算式で算出することができます。

日給 ÷ 1日の所定労働時間

所定労働時間とは、就職する際に労使間で契約した労働時間のことです。
具体的には「9:00~18:00を労働時間とする」といった内容で、就業規則や雇用契約書に記載されています。
日給が8,000円、所定労働時間が8時間だった場合の最低賃金額は1,000円ということになります。

月給制

月給の場合は、次の計算式で計算します。

月給 ÷ 1ヶ月の平均所定労働時間

「月給」は基本給+諸手当で計算します。
諸手当のうち、次のものは対象外となるため除外します。

(1) 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
(2) 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
(3) 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
(4) 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
(5) 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
(6) 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当

ここには記載されていない職務手当や役職手当、資格手当などの毎月支払われるべき手当が諸手当に該当するということになります。

また、1ヶ月の平均所定労働時間は次のように計算します。

{(1年間の所定労働日数(※)-年間休日日数)×1日の所定労働時間}÷12ヶ月
※365日(うるう年の場合は366日)

具体例として、次の条件で働く方の1時間あたりの賃金を計算してみましょう。
・給与20万円(基本給15万円、職務手当3万円、残業手当2万円)
・年間休日116日
・所定労働時間9:00~18:00
月給:基本給15万円 + 職務手当3万円 = 18万円
1ヶ月の平均所定労働時間:{(365日-116日)×8時間}÷12=166時間
1時間あたりの賃金:18万円 ÷ 166時間 = 1,084円(※小数点以下は四捨五入)

先述したとおり、2021年の東京都の最低賃金は1,041円となりますので、最低賃金よりも高い賃金をもらっているということになります。

歩合制

歩合制は、仕事の成果に応じた賃金が支払われる制度です。
歩合制には「完全歩合制」と「固定給+歩合制」の2種類があり、営業職やドライバーなどの職業に採用されることが多いようです。

完全歩合制

完全歩合制は、成果に応じた賃金のみが支払われる方法です。
固定給がないため、成果がなければどれだけ働いても賃金は支払われないということになります。
しかし、労働基準法第27条によって

「出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない(出来高払制の保障給)」

とされているため、完全歩合制を採用していたとしても、労働時間に応じた賃金は支払わなければなりません。
この事から一般企業に就職している方に対して完全歩合制を採用することはできないということになります。完全歩合制は個人事業主との業務委託という形式であることが多いでしょう。
完全歩合制の場合、歩合給を時給に換算して最低賃金を計算します。
計算式は次の通りです。

歩合給の支給額÷総労働時間

「総労働時間」には残業時間も含まれます。所定労働時間とは違うので注意が必要です。
例えば、歩合給15万円、所定労働時間8時間、労働日数20日、残業時間10時間だった場合、時給は882円となりますので、2021年に東京都でこの条件で働いている場合は最低賃金額を下回っているということになります。

固定給+歩合制

「固定給」は「毎月定額で支払われるべき賃金」ですので、前述した「月給」と考えて良いでしょう。固定給にプラスして、成果に応じて支払われる歩合給が発生するのがこのパターンです。歩合給を採用している会社はこちらのパターンであることが多いようです。
固定給+歩合制の場合の最低賃金額は次の計算式で算出することができます。

固定給の金額÷所定労働時間

完全歩合制と異なり、固定給の部分だけを所定労働時間で割って計算することで時給を求めて、その額が最低賃金額を下回っていなければ良いということです。

最低賃金の適用外になる場合

このように法律で保護されている最低賃金ですが、「一般の労働者と労働能力が異なるなど最低賃金額を一律に適用することが適当ではない(雇用機会を減らしてしまう)」として、最低賃金が適用外となる方や適用を受けられない方もいます。
適用除外の対象となるのは「最低賃金の減額の特例(最低賃金法第7条・最低賃金法施行規則第3条)」に該当する方です。
ただし、会社が独自の判断で労働者を最低賃金適用外にすることはできないため、所轄の都道府県労働局長に申請書を提出し、許可をもらうことが必要です。
また、減額率については最低賃金法施行規則第5条によって定められているため、無制限に減額をすることはできません。

では、特例の詳細を確認しておきましょう。

最低賃金の減額の特例(最低賃金法第7条・最低賃金法施行規則第3条)

・精神または身体の障害により著しく労働力の低い者
・試用期間中の者
・基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けていて、厚生労働省で定める者
・簡易な業務に従事する者
・断続的労働に従事する者

これらの条件に該当する方は、都道府県別の最低賃金の適用外になることもありますが、申請が認められないで、会社の独自判断で決めた場合は、労働基準法の違反となります。

特定(産業別)最低賃金の最低賃金の減額の特例

厚生労働省によると、次の条件に該当する方は特定(産業別)最低賃金の適用除外となります。
・18歳未満、65歳以上の者
・雇い入れ後一定期間未満の技能取得中の者
・当該産業特有の軽易な業務に従事する者
都道府県別最低賃金と同様、所轄の都道府県労働局長の許可が必要です。

月給の金額で最低賃金を下回っていないか確認する方法

1時間あたりの賃金を計算して、最低賃金を下回っていないか確認する方法は前述しましたが、ここでは最低賃金での月給の金額を計算し、自身の月給の金額と比較することで、最低賃金を下回っていないか確認する方法を紹介します。
1ヶ月の最低金額を知りたい場合や、変形労働時間制を採用していて時給の計算が難しい場合などはこちらの計算式を使うことで簡単に知ることができます。
労働時間については、労働基準法第32条によって「1日8時間・週40時間を超えて労働させてはならない」と定められています。この「1日8時間・週40時間」を利用して、1ヶ月の最低金額を算出し、月給と比較します。

まず『その月の日数(休日も含む)×40時間÷7(※)』という計算式で、その月1ヶ月あたりの法定労働時間の上限を算出します。
その金額に都道府県別の最低賃金をかけることによって1ヶ月あたりの最低賃金を算出することができるというわけです。
例えば2021年4月に東京都で働く方の場合、
(30日×40時間÷7)×1041円≒178,457円
となり、178,457円が1ヶ月の最低金額となりますので、それを上回っていれば良いということになります。

最低賃金を下回っていた場合の対応方法

最低賃金額を下回る賃金の支払いは違法行為ですので、自身で会社に話ができるのであれば会社に相談してみましょう。ただし、会社が必ずしも対応してくれるとは限りませんし、会社に相談をすること自体が困難な場合もあるでしょう。

そのような場合は、労働基準監督署に相談することもできます。しかし、労働基準監督署はまず会社に対する調査や勧告から始まるため、すぐに賃金が改定されるとは限りません。

会社に対して早急に最低賃金を下回る賃金を改めさせたい場合は、弁護士へのご相談がおすすめです。費用がかかる場合もありますが、法律に則って正確に最低賃金額を計算した上で、会社に対して賃金の改定や未払い賃金の請求をしてくれます。
無料相談を行っている事務所もありますので、まずは1度気軽に相談してみてください。