会社に未払い残業代を請求するには、証拠が必要です。
その証拠としてよく用いられるのは、タイムカードです。勤怠時間が記録されるタイムカードは、残業の事実や残業時間の証明に有効です。
とはいえ、中には当時のタイムカードを用意できなかったり、タイムカードの内容が実際の残業時間と異なったりする場合もあるでしょう。そのような場合でも、未払い残業代の請求は可能なのでしょうか?
今回は、タイムカードがない場合の残業代請求とその他の証拠についてわかりやすく解説します。
タイムカードは残業の有力な証拠になる
タイムカードとは、従業員の出退勤時間を管理するための打刻システムのことです。従業員は出勤・退勤・休憩等のタイミングでタイムカードをレコーダーに通し、その時刻を記録します。
タイムカードは、従業員の実際の労働時間を把握しそれに応じた給与を支払うために、多くの会社で導入されてきました。
タイムカードは、出勤・退勤・休憩の入り戻りのタイミングで打刻を行うものです。そのため、タイムカードに記録された時間は、基本的に労働時間であると判断することができます。もし残業があったのであれば、残業前に打刻させられた場合を除き、タイムカードの記録から具体的な残業時間を把握することができるでしょう。
例えば、甲府地方裁判所平成24年10月2日判決(日本赤十字社(山梨赤十字病院)事件 労判1064号52頁)は「特段の事情がない限り、労働者がタイムカードに記載された始業時間から終業時間まで業務に従事していたものと事実上推定すべき」と判断しています。
会社に未払い残業代を請求する場合には、まず該当期間のタイムカードを用意することを検討しましょう。
タイムカードの時間が全てではない
前述のとおり、タイムカードは残業の事実を証明する有力な証拠になり得ます。しかし、タイムカードの時間だけで、全てが判断されるわけではありません。
タイムカードを用意できない場合、またタイムカードと実際の労働時間が異なる場合でも、残業代を請求できる可能性はあります。
労働時間はタイムカードの記録で基本的には判断されますが、タイムカードと異なる労働時間を示す客観的な証拠を十分に用意できれば、その証拠にもとづいて残業代を請求することが可能なのです。
また、タイムカードを用意できない場合でも、十分な他の証拠を用意できれば、残業代を請求することができます。
タイムカード以外に残業の証拠になるもの
タイムカード以外にも、残業の証拠になるものは多数あります。その例を挙げていきましょう。
・パソコンの利用履歴
・勤怠管理システムの記録
・警備会社の入退室の記録
・メールの送信・受信履歴
・業務日報・メモ(正確な労働時間が継続的に記されているもの)
・Googleマップのタイムライン
・家族とのメール・LINE履歴(毎日の帰宅時のやり取り)
・交通系ICカードの利用履歴
・ETCカードの利用履歴(車を利用する場合)
・デジタルタコグラフ(ドライバーの場合) 等
パソコンを使う仕事の場合、その利用履歴・ログイン履歴、またメールの送受信時間から残業時間を推定することができます。
また、最近では勤怠管理自体をタイムカードでなく、システムで行っている会社も多いでしょう。このシステムから、過去の勤怠情報を取得できるはずです。
さらに、業務日報や手書きのメモ、帰宅時の家族とのメール等も残業代の証拠になる可能性があります。ただしそのためには、継続的に記録が行われていることが重要視されます。継続的でない記録は証拠と認められないこともあるので注意しましょう。
他には、交通系ICで改札を通過した際の履歴やETCカードの履歴、ドライバーであればタコグラフの記録も、実際の労働時間を推定する証拠として有効です。
タイムカードなどの証拠が会社にある場合
タイムカードをはじめとした労働時間を証明する証拠が会社に保管されており、入手することが困難な時には、開示請求を検討しましょう。
開示請求では、会社に対し勤怠記録の開示を求めることができます。
この開示請求の方法は、次の2種類に分かれます。
・内容証明郵便で開示請求を行う方法
・裁判の中で開示請求を行う方法
詳しくみていきましょう。
内容証明郵便で開示請求を行う方法
未払い残業代を請求する際には、まず会社に残業代請求の旨を記した内容証明郵便を送付します。この時、同時に勤怠記録の開示についても記し、請求を行うことが可能です。
ただし、この請求に会社が必ず応じるとは限りません。会社が開示を拒否した場合には、別の手段を取る必要があります。
また、勤怠記録が改ざんされているリスクもないとはいえません。記録が開示された場合にはその内容をしっかりチェックし、改ざんの有無を確認しましょう。
裁判の中で開示請求を行う方法
直接交渉を行っても会社が未払い残業代の支払いに応じない場合には、労働者は訴訟を提起し会社と戦うことになります。この裁判の手続きの中でも、勤怠記録の開示請求を行うことは可能です。なぜなら、民事訴訟では文書所持者に対する文書提出義務が定められているためです。
労働者が裁判所に文書提出命令を申し立てれば、タイムカードなどの勤怠記録を会社に提出させることができます。
万が一、会社がこの申立てを拒否した場合にも、裁判において労働者の有利性が高まったり労働者が主張する残業時間が認められたりする可能性があるため、労働者はこの制度をうまく活用すべきでしょう。
また、会社が労働時間の証拠を破棄してしまわないよう、訴訟を提起する前には証拠保全手続を取ることも忘れないようにしてください。
労働時間の把握義務
厚生労働省のガイドラインでは、次のことが定められています。
・使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」より一部抜粋)
つまり法律上、会社は客観的な記録をもとに、労働者の労働時間を管理しなければならないのです。
ただし、これはタイムカードの運用を必須とするものではありません。会社がタイムカードを設置していなくても、他の方法で労働者の労働時間をきちんと管理してさえいれば、それは違法にはならないためです。
また裏を返せば、これは「タイムカードがない会社でも、他の客観的な労働時間の証拠を保持しているはずである」ということになるでしょう。労働者はこれを開示請求することで、未払い残業時間を証明できる可能性があります。
証拠が全くなくても諦める必要はない
未払い残業代請求にあたり、労働者自身の手元に残業の証拠がない場合もあるでしょう。また会社からも「証拠を保持していない・用意できない」として証拠の開示が行われないこともあるでしょう。そのような場合でも、請求を諦める必要はありません。
なぜなら、会社が証拠を用意できない責任が会社自身にある場合(勤怠をきちんと管理していない・記録を破棄した等)には、労働者の主張が全面的に認められる可能性があるためです。
実際の裁判でも、証拠を意図的に破棄し提出しない会社の対応を踏まえ、労働者側のメモや主張をもとに、残業代の支払いが行われた事例が存在します。
残業代請求のためには、客観的証拠があるに越したことはありません。しかし、会社の責任や対応によっては、証拠がなくても、労働者の主張をもとにした請求が認められる可能性があります。
「証拠がないから」と残業代請求を諦めないようにしましょう。
まとめ
残業代の請求では、労働時間を証明する証拠が重要な役割を果たします。
その際、労働時間を示すと考えられるタイムカードはとても有力な証拠となります。
しかし、それはタイムカードに限りません。パソコンの使用履歴やメールの送受信履歴等、他の記録も残業の証拠になり得ます。
また、会社が証拠を保持している場合には、開示請求を行うことで、その証拠を手に入れることも可能です。
会社へ未払い残業代を請求する場合には、労働問題を扱う弁護士にご相談ください。弁護士が法的なサポートを行うことで、請求手続きはスムーズかつ有利に進めることができます。
さらに、代理交渉を依頼すれば、依頼者自身の負担を軽減することも可能でしょう。
勝浦総合法律事務所では、未払い残業代請求に豊富な実績があります。タイムカード等の重要な証拠が乏しい場合でも粘り強く取り組み、依頼者様の権利を勝ち取るべく努力します。初回のご相談は無料ですので、ぜひ当事務所にお気軽にお申し込み下さい。
監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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