近年問題になっているのが「ブラック企業」の存在です。
ブラック企業とは、長時間労働、使い捨て、パワハラなど違法な条件の下で労働者を働かせる企業のことを指します。
こちらの求人票の記事にも記載されている通り、「週休2日制」「アットホームな職場」などと謳っておきながら、実際にはそうではないケースも多く見られます。
中でもブラック企業にありがちなのが、本来支払うべき残業代を出さないという違法行為です。
法律をあまり知らないと「そういうものかな」と思ってしまいますが、実は残業代が支払われるべきだったということも十分にあり得ます。
ここで、ブラック企業と残業代の関係について確認していきましょう。

残業時間とは?

まず、就職する際には労使間で労働契約書を交わします。その中で本来働くべき労働時間である「所定労働時間」が設定されています。例えば「勤務時間 9:00~18:00(うち休憩1時間)」といった内容で記載されています。この所定労働時間を超える労働時間が時間外労働、いわゆる「残業」です。

また、原則として「1日8時間・週40時間(法定労働時間)」を超えて労働させてはならないとされています。

労使間で36協定を締結することで、法定労働時間を超えて残業をすることができるようになります。その上で残業をさせた場合、法定労働時間を超えない残業は「法定内残業」、超える残業は「法定外残業」と言います。残業代(割増賃金)が発生するのは法定外残業にあたる労働時間です。

先ほどの例の契約内容で働いている場合、1日の労働時間は8時間となりますので、残業をした場合は残業代が発生するということになります(法定内残業でも賃金は発生しますが、割増賃金はありません)。

平均の残業時間

日本経済団体連合会が調査した2020年労働時間等実態調査によると、「パートタイムを除く期間を定めずに雇用されている労働者」の時間外労働時間は2018年が年間196時間、2019年は年間184時間となっています。
2018年から2019年の1年間で10時間以上減少しているのは働き方改革関連法が施行されたことが関係していると考えられますが、それでも月平均15時間以上残業をしているということになります。

残業時間が何時間ならブラック企業?

『自分は残業時間の平均よりも長く働いているからブラック企業では?』と考える方もいらっしゃるかと思いますが、では一体何時間ぐらい時間外労働をすればブラック企業となるのでしょうか?

実は、「ブラック企業」という言葉は一般的ですが、正確な定義というものはありません。そのため、「○○時間以上残業をする企業はブラック企業だ」と言うことはできません。
しかし、指標とできる残業時間に労働基準法第36条で定められた残業時間の上限がありますので、確認しておきましょう。

労働基準法第36条による原則 1ヶ月 45時間
1年 360時間
特別条項付き36協定(※)による例外 1ヶ月 100時間以内
2~6ヶ月間の全ての月の平均 80時間以内
1年 720時間

※特別条項付き36協定とは、繁忙期が決まっているなど特別な事情がある場合に、労働基準法第36条によって定められた原則となる上限を超えて労働者に残業をさせることができる協定のこと。

よく「45時間以上働くとブラック」なとど言われるのは、この上限を超える残業時間であることが理由として挙げられているようです。
単純計算でも、月20日勤務で、45時間の残業をしたとなると1日平均2~3時間は残業をすることになります。先ほどの例の方が9時に始業すると終業時間は20時~21時ということになります。

これが特別条項付き36協定の残業月80時間になると、1日平均4時間残業をする事になりますので、終業は22時です。さらに残業時間が月100時間となると、家に帰ってご飯を食べて寝るだけといった生活になることは明らかです。

働く時間が長ければ長くなるほどプライベートの時間が無くなるだけでなく、月80時間を超える残業をさせると「過労死ライン」となる労働となることからも、そういった働き方をさせる企業はブラック企業であると考えられます。

残業時間ゼロや残業代が出ないのも注意が必要!

先述したように、働き方改革関連法の施行に伴って働き方の見直しが行われているため、中には『残業時間ゼロ』を掲げている企業や残業時間を少なくするよう努力している企業もあるでしょう。

もちろんその目標を達成するために企業全体が高い意識を持っている可能性は大いにあります。しかし、ブラック企業になると目標や法律を悪用し、残業代を支払わない方向に持って行くのです。
残業代を出さない企業はどのような言い分で残業代を支払わないのか、具体例をみていきましょう。

1. 雇用契約書で同意しているから残業代は出ない

残業代が支払われないため雇用契約書を見返してみたら『残業代は支払わない』の文字があったというケースがあります。

解釈次第で残業時間をゼロにするという内容とも取れますが、時間外労働に対して割増賃金を支払わなければならないと労働基準法によって定められている以上、そもそもこのような条項は無効です。
(労働基準法は「強行法規」ですので、労働基準法に反する労使間の契約は無効となります。)

つまり、契約書に何と書いてあろうが、残業代は支払わなければならないということになりますので、雇用契約書に「残業代は支払わない」と書かれていれば、それだけでブラック企業だと判定できます。
こちらで詳しく解説しています「入社時の雇用契約書に残業代が出ないことへ同意していた場合、残業代は出ないのか?」

2. 定時にタイムカードを押すよう強制される

給与や残業代は労働時間に合わせて支払われるため、始業・終業時刻にタイムカードを打刻することは非常に重要です。正確な労働時間がわからなければ、裁判によって残業代を請求することもできないからです。

定時になるとタイムカードを押すように強制される、定時を過ぎるとタイムカードが押させてもらえない、となると、正確な労働時間がわからなくなるため、残業代請求が困難になります。

ただ、そのような場合でも、パソコンのログを取得する、出退勤時間を手書きメモにつける、スマホのGPS機能で出退勤時間の記録を取るなどの方法で、残業代請求が可能となる場合もあります。
(タイムカードがない場合は、こちらをご覧ください。「タイムカードがない会社で残業代を請求する方法|違法性、代わりになる証拠を解説」

3. 固定で残業代が含まれていて残業代が出ない

固定残業代制度とは、会社があらかじめ残業時間を想定し、基本給に加えて一定の固定残業代を支払うというものです。固定残業代制度を導入すること自体は、法律に反することではありません。
しかし、そのことを悪用して基本給を低額にして固定残業代を高くしておくことで、残業代の支払を実質的に免れようとする企業が散見されます。

例えば、同じ月給25万円でも、「基本給25万円」という条件と、「基本給15万円、固定残業代10万円(残業時間40時間分)」という条件とでは、残業代に関しては全く異なる条件となります。
「基本給25万円」の方には基本給にプラスして残業代が発生しますが、「基本給15万円、固定残業代10万円(残業時間40時間分)」の方は10万円分の残業時間については既に支払われているため、残業時間が40時間以内だった場合、月給25万円以上は支払われないということになります。
つまり、同じように残業をしたとしても、固定残業制の有無によってもらえる給料が異なるということになります。

なお、固定残業代制度を採用していたとしても、当初想定された残業時間を超えて働いた場合は超過部分については別途残業代が支払わないといけません。また、固定残業代制度自体が違法になっている可能性もあります。
この点、ブラック企業は『固定残業制だから、追加で残業代は支払われない』と説明し、残業代の支払いを拒みます。

(こちらで詳しく解説しています。「固定残業代(みなし残業代)を超えた残業代は請求できます」

4. 年俸制で残業代が出ない

年俸制を採る会社は高給取りのイメージがありますが、実際には過酷な長時間労働を強いられることがあります。
年俸制の場合、残業代は出さなくていいと勘違いしている企業もありますが、そのようなルールはありません。

年俸制であったとしても、残業した分についてはきちんと残業代が払われなければならないのです。
(こちらで詳しく解説しています。「年俸制だから残業代は払いません!は違法です」

5. 管理職なので残業代が出ない

「管理職には残業代が出ない」という話を聞いたことがありませんか?
確かに、労働基準法第41条にはこのように規定されています。

(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一  略
二  事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
三  略

「管理監督者」は労働時間の規制を受けないため、残業代が支払われません。

しかし、この地位はそう簡単に認められるものではないのです。
裁判例によれば、以下の3要件を満たした場合のみ「管理監督者」として扱うことができます。

労務管理についての経営者との一体性(経営事項や人事に関する権限を有する等) 労働時間管理を受けていないこと 基本給や手当において、その地位にふさわしい処遇を受けていること
要件をみてもらえばわかる通り、「管理監督者」にあたるためには、残業代を支払わなくても十分な給与、待遇を受けている必要があります。

ブラック企業の多くは、この要件を満たさない「名ばかり管理職」の地位を与え、残業代を支払わないという手段を採っていますので気をつけましょう。
(こちらで詳しく解説しています。「「名ばかり管理職」でも残業代は貰えます。」

まとめ

残業代を支払うことは、強制法規である労働基準法に定められています。そのため、正しく管理監督者の立場を与えられているなど一定の要件を満たす方以外は、自分が行った労働時間に対して全額残業代を支払ってもらうことが当然なのです。
しかし、未払い残業代について支払いを求めようとしてもブラック企業は支払いを認めない可能性が高く、場合によってはパワハラを受けていて支払いを求めること自体が難しいというケースもあるでしょう。
そういった場合は弁護士を間に入れることでスムーズに残業代請求ができるようになります。
残業代の未払いがあるけれど企業に請求できないという方は、まず一度気軽にご相談ください。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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