どのような業界にいても、残業は避けて通れない道かもしれません。
誰もが経験する「残業」ですが、その正しい定義というのはご存じでしょうか?
法律上の定義にあてはめると、自分が思っている以上に「残業」しているかもしれません。
残業について正しい知識をもち、自分が行っている労働に残業代が支払われるべきかをきちんと把握しておきましょう。
1. 労働基準法での残業の定義
実は、「残業」という言葉は法律のどこにも出てきません。
労働基準法上では、残業は「時間外労働」と呼ばれています。
時間外労働とは
労働者は、会社が定めた「就業規則」や労使間で交わした「労働契約書」に定められた労働時間である「所定労働時間」の労働をします。
この所定労働時間を超えて労働した時間が時間外労働、いわゆる残業となります。
例えば就業規則で所定労働時間を「9:00~18:00(うち休憩12:00~13:00)」と定められている方が19:00まで労働した場合には、18:00~19:00の1時間が時間外労働です。
法定内残業と法定外残業
法定内残業というのは、法定労働時間の中で行った残業のことです。
法定労働時間とは、労働基準法第32条で定められている、1日8時間、週40時間のことです。
例えば所定労働時間が9:00~13:00の4時間勤務の方が14:00まで労働した場合、1時間法定内残業をしたことになります。
一方、法定外残業というのは法定労働時間を超えて行った残業のことです。
9:00~18:00(うち休憩1時間)の所定労働時間の方が19:00時まで労働した場合、1時間の法定外残業となります。
法定内残業と法定外残業の残業代の違いは、労働基準法第37条の「割増賃金」が支給されるかどうかです。
割増賃金とは
割増賃金とは、法定外残業をした場合や休日労働、深夜労働を行った場合に通常の賃金に対して定められた割増率で計算して支払われる賃金で、以下のとおりとなっています。
・法定外残業…1.25倍以上(ただし、月の残業時間が60時間を超えた場合は1.5倍以上)
※法定内残業の場合は割増賃金の対象にはなりません。
・休日労働…法定休日(※)の場合:1.35倍以上
法定外休日の場合:法定外残業と同じ
※法定休日とは労働基準法第35条に定められた休日で、毎週少なくとも1回、または4週を通じて4回以上の休日を与えなければならないとされ、就業規則などに明記されています。
・深夜労働…22:00~5:00までの間の労働のこと。1.25倍以上。
仮に、9:00~17:00(休憩1時間、法定休日は日曜日、時給1,000円とする)の所定労働時間の方が月曜日に23:00時まで残業を行った場合
・17:00~18:00までの間は法定内残業となるため、時給1,000円(割増賃金の対象外)
・18:00~22:00までの間は法定外残業の割増賃金となるため、時給1,250円以上
・22:00~23:00の1時間は法定外残業+深夜労働の割増賃金となるため、時給1,500円以上
が支払われることになります。
2. 残業時間の上限は定められているのか?
法定外残業や休日労働をさせるためには、36協定が締結されていなければならないというのはご存じでしょうか。
また、36協定が締結されているからと言って無制限に残業をさせても良い訳ではありません。
ここで36協定についてもしっかりと確認しておきましょう。
36(サブロク)協定とは
労働基準法第36条「時間外及び休日の労働」には、使用者と労働組合などの間で協定を締結し、労働基準監督署に届け出ていなければ、法定外残業をさせることや休日労働をさせることはできないと定められています。
これがいわゆる「36(サブロク)協定」で、大小問わず全ての企業で必要です。
そして、上限は、原則1ヶ月45時間以内、1年360時間以内が限度とされています。
ただし、繁忙期や緊急の対応が必要な業種(例えば製造業や医師など)について「特別条項付き36協定」を締結している場合は、法定外残業と休日労働の合計が1年720時間以内、1ヶ月100時間以内が限度とされています(※2ヶ月以上の複数月の平均がどの月も80時間以内である必要があります。)。
3. この時間は残業になるのか?
例えば通勤時間や接待の時間など、仕事に関連する時間はたくさんあるかと思いますが、それらの時間が所定労働時間を超えた場合、時間外労働になるのかと考えたことはありませんか?
それを確かめるためには、疑問に思う時間が「労働時間」に該当するかどうかを知っておく必要があります。
労働時間とは一体どういった時間のことを指すのでしょうか?
労働時間とは
労働時間とは、使用者の指揮命令下で働く時間のことを指します。
使用者からはっきりとした指示された業務を行う時間は労働時間に該当しますし、暗黙の指示があったと判断される場合も労働時間となります。
※使用者とは事業主のために行為をする全ての者を指します(労働基準法第10条)。
企業そのものや社長などだけでなく、部長や課長などでも事業主のために行った行為であれば使用者であるとみなされます。
労働時間になる?具体例で確認
「使用者の指揮命令下」といってもピンときませんので、具体例を元に労働時間に該当するかどうかを確認していきましょう。
- 通勤時間
通勤時間は使用者の指揮命令下に置かれているとは言えないため、労働時間には該当しません。
ただし、一度出社した後に別の事業所などに移動した場合は労働時間と判断されたケースがあります。 - 研修時間
研修に参加することが強制されている場合は、使用者の指揮命令下にあるとして、労働時間に該当すると考えられます。
例えば新人研修や、業務上必要不可欠な研修などがそれに該当します。
一方、自身のスキルアップや昇進のための研修などについては、参加の自由が認められているかどうかや業務との関連度合いによって、労働時間に該当するか否かが判断されます。 - 社内イベント
こちらも研修と同じく、参加を強制されている場合や参加しなければ不利益な扱いを受けてしまうような場合は労働時間に該当すると考えられます。
参加自由のイベントの場合は労働時間とは認められないでしょう。
(社内イベントが残業にあたるのかは、こちらで詳しく解説しています。「社内の強制飲み会やイベントは残業の対象になる?」) - 接待
営業担当などが仕事を円滑に行うために取引先に対して行う接待は、飲食店やゴルフ場などで行われることが多いため、業務と直接関連がないことや、必ずしも使用者の指揮命令下にあるとは考えられないことから労働時間であると認められないケースが多いです。
ただし、会社から接待を強制されている場合や接待の場が商談に使われる場合、接待の日時や内容の詳細を会社に報告しなければならない場合など、業務と関連する場合は労働時間であると認められる可能性があります。 - 出張
出張にかかる移動時間も、使用者の指揮命令下にあると言えないため労働時間と認められないようです。
ただし、打ち合わせをしながら移動をする場合や物品の保管や貴金属の運搬などで労働者の自由が認められないような移動がある場合は、労働時間だと認められるケースがあります。 - 持ち帰り残業
例えば『急ぐ必要は無いけれど早く終わらせたいから持ち帰る』といった自発的に行う持ち帰り残業については、残業だと認められないでしょう。
一方、到底所定労働時間に終わらない量の仕事を上司に任されたにも関わらず、残業禁止の規定があるので持ち帰らざるを得なかったなど、暗黙の指揮命令があったと考えられる場合には労働時間だと認められる可能性があります。
(持ち帰り残業については、こちらで詳しく解説しています。「持ち帰り残業の残業代請求はできるのか?」)
監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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