「医師の残業時間はどのぐらいが平均なのだろう?」
「医師の残業時間に上限が設けられるらしいけど……」
医師の方は、上記のような悩みを抱えていないでしょうか。
この記事では、医師の残業時間の疑問に答えます。
・医師の残業時間の平均
・医師の残業時間の上限
・医師でも残業代は請求できる
・残業時間60時間超の割増率について
上記の内容を詳しく解説していきます。
2024年に適用の「時間外労働の上限規制」を中心とした、医師の働き方改革が気になる方に最適な内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
医師の残業時間の平均
医師の残業は日常化しているため、長時間労働になる傾向があります。
厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査」によると、病院常勤勤務医の1週間の労働時間は50~60時間が26.3%と最も多く、次に40~50時間(22.3%)、60~70時間(18.9%)と続きます。
つまり、医師の労働時間は少なくても月160時間を超えているのです。
医師の職務の性質上、患者の命や健康を守るための緊急対応や外来対応の延長など、労働時間が長くなる傾向があるのです。
医師の残業時間の上限
医師の時間外労働の上限規制について、現状とこれからを一般的な時間外労働の上限規制と比較して紹介します。
医師の時間外労働の上限規制(2024年3月31日まで)
医師は業務の特殊性から、2024年3月31日までは時間外労働の上限規制の対象外です。
つまり、医師の残業時間は法律では上限がありません。
それでは、一般的な時間外労働の上限規制はどのようなルールになっているのでしょうか。
次の見出しで解説していきます。
一般的な時間外労働の上限規制
36協定で定める残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情がない場合以外は、上記時間を超えることはできません。
また、1日の労働は8時間、1週間の労働は40時間と決められています。
つまり、上記を超過した時間が残業時間ということです。
例外的に特別な事情があって労使が合意する場合でも、残業時間(=時間外労働)については以下のような上限が定められています。
・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(2カ月~6か月)(休日労働含む)
・月100時間未満(休日労働含む)
(参考:厚生労働省|時間外労働の上限規制)
医師の時間外労働の上限規制(2024年4月1日以降)
2024年4月1日以降、医師の残業時間上限規制は一般的な上限規制と同じ「月45時間・年360時間」が原則となります。
すでに大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月から、残業時間の上限が前述のとおり「原則月45時間・年360時間」に規制されています。これは、「働き方改革関連法」が施行されたことによるものです。
医師の時間外労働については、勤務環境の改善に時間を要すると判断されたため、5年間の猶予が与えられ、2024年4月の施行となっているのです。
2024年4月1日以降、医師の残業時間の規制は述べた通りですが、医師には例外的な措置が設けられています。勤務する医療機関などにより3つの水準に分けられます。下記の表にまとめます。
水準 | 対象 | 時間外労働の上限 |
A水準 | すべての医師
※診療従事勤務医
|
年960時間以下/月100時間未満(休日労働含む) |
B水準 | 地域医療確保暫定特例水準
※救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関 |
年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む) |
C水準 | 集中的技能向上水準
※初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や高度技能獲得を目指すなど、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師 |
年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む) |
(参考:厚生労働省|医師の時間外労働規制について)
医師の例外的措置では、時間外労働の上限時間が一般的な上限時間(年360時間・年720時間)を大きく上回っています。
この点を含め、一般的な上限規制と比較して異なるポイントを詳しく解説していきます。
ポイント1 月45時間超の回数制限がない
一般的な上限規制は、月45時間を超過する労働は年6ヶ月までです。
上記に対して、医師の例外的措置に、月45時間を超過する労働の回数制限はありません。
これは、臨時的な業務が発生する時季・頻度が予想しづらいためとされています。
ポイント2 複数月平均80時間の規制がない
一般的な上限規制は、時間外労働が月45時間を超過する場合は月100時間未満でなければなりません。また、2~6ヶ月平均で月80時間以内と定められています。
対して、医師の例外的措置には複数月平均で80時間以内とする規制はありません。
医師業務は公共的であり残業発生が不確実なので、残業時間を調整することが難しいことが要因です。
イント3 医師の面接指導により月100時間超が許可される
一般的な上限規制は、業務が臨時で発生する場合でも、月100時間を超える労働は許可されていません。
上記に対して、医師の例外的措置には、面接指導が行われた際は月100時間超の残業が許可される場合があります。
ポイント4 年間の上限時間はA水準960時間、B水準・C水準1,860時間
一般的な上限規制は、年360時間超の時間外労働を行う際は、年720時間以内でなければいけません。
上記に対して、A水準では年960時間以内、B水準・C水準は年1,860時間以内と定められています。
ただし、一般的な上限規制の720時間に含まれるのは時間外労働のみですが、医師の例外的措置の上限時間には時間外労働と休日労働を含みます。
医師でも残業代を請求できる
ここでは、医師によく適用されている年俸制や固定残業代制、また残業代が出ない理由に使われることがある管理職について、残業代が発生することを解説します。
もし医師であるあなたがこれらを理由に残業代が出ないと認識しているのならば、それは正しくない可能性があります。
年俸制、固定残業代制、管理職について、それぞれ解説していきます。
年俸制
年俸制だから残業代が発生しないということはありません。
なぜなら、年俸制でも使用者と労働者の労働契約関係に労働基準法が適用されるからです。労働基準法が適用される以上、時間外労働については残業代を支払わなければいけません。
ただし、年俸制は下記の条件を満たしている場合、年俸として支払う給与の一部を残業代とすることができます。
・年俸に残業代が含まれていると明確である
・残業代と基本給が区別できる
逆に考えれば、上記の条件を満たしていないにも関わらず、「残業代は年俸に含まれている」「年俸制だから残業代は出ない」と言われ、残業代が出ていないのであれば、残業代が未払いである可能性があります。
病院から残業代は発生しないと主張されたとしても、必ず上記のような法的根拠を確認するようにしましょう。
(年俸制については、こちらで詳しく解説しています。「年俸制だから残業代は払いません!は違法です」)
固定残業代制
固定残業代制の場合、固定残業代を超過した残業代が発生したときは、病院は支払う義務があります。
例えば、固定残業代が「月5万円(30時間)」と定められている場合、月40時間残業した場合には、30時間を超過した10時間分の残業代を追加で支払わなければなりません。
また、固定残業代は下記2点の区分を明らかにしなければいけません。
・通常の労働時間の賃金に該当する部分
・時間外労働等の割増賃金に該当する部分
つまり、「月給30万円(固定残業代を含む)」という書き方ではNGです。「月給30万円(固定残業代5万円を含む)」というように、基本給と残業代の区分が明確でなければなりません。
このような区分がない「月給30万円(固定残業代を含む)」などの労働条件で固定残業代制が導入されているとすれば、それは違法です。
違法に導入された固定残業代制は認められませんので、未払いの残業代が発生している可能性が高いです。
固定残業代をもらっている場合でも、適切に導入されているか、固定残業代を上回る残業をしていないか確認するようにしましょう。
(固定残業代制については、こちらで詳しく解説しています。「固定残業代とは?違法か判断する4つのポイントと残業代計算方法」)
管理職
法律上の「管理監督者」(労働基準法41条2号)に該当すれば、残業代支給の対象外となります。
法律上の「管理監督者」とは下記3点を満たしている者です。
何かしらの管理職に就いている場合でも、上記の条件を満たしていない場合は、「管理監督者」とはなりません。つまり、残業代を支給する対象外とはなりません。
一般的な管理職と法律上の「管理監督者」は全くの別物です。「管理職だから残業代が出ない」と思っている方は、自分が「管理監督者」なのか確認してください。
(管理職については、こちらで詳しく解説しています。「管理職の残業代、出る?出ない?その判断のポイントは?」)
残業時間60時間超の割増率について
2023年4月1日以降は、医療業界も含めすべての企業で、月60時間超の時間外労働については50%以上の割増率となります。
すでに大企業については適用されており、中小企業は適用が猶予されていました。そのため、60時間超の時間外労働であっても、中小企業の場合は割増率25%以上となっていたのです。
月60時間を超える残業をしている方は、残業時間が変わらずとも残業代が増える可能性があります。2023年4月以降の残業代については、割増率が正しく適用され残業代計算がされているか注意が必要です。
(参考:厚生労働省|法定割増賃金率の引上げ関係)
おわりに
医師であっても残業代は発生します。
年俸制だから、固定残業代制だからという病院側の説明を鵜吞みにせず、残業代が出ていない理由をきちんと確認するようにしてください。
少しでも残業代に疑問を感じたら、まずは勤務先へ確認するのもいいですが、確認しづらいという方は、弁護士への相談を検討してみてはいかがでしょうか。
勤務医も労働者であり、残業代を請求することは正当な権利です。
残業代請求は専門的な知識がなければ困難なため、詳しい弁護士に相談することがおすすめです。この記事が、残業時間に悩んでいる医師の方に役立つことができると幸いです。
また拘束時間の長さ、残業代の未払い等への不満から、転職を考えている医師の方は、こちらのサイトがおすすめです。
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監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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