ドライバーが残業代請求をするにあたり問題となるのが、停車時間を労働時間と考えるか休憩時間と考えるかという点です。

ドライバーの場合、チャート紙やデジタコで記録が残りますので、運転していた時間については労働時間であることが証明できます。

しかし、チャート紙やデジタコで停車時間となっている時間については、労働時間であるか休憩時間であるかが争いになるケースが多いです。

労働時間とは何か

労働基準法32条の「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します(最高裁平成7年(オ)第2029号同12年3月9日第一小法廷判決)。

これに対して、労働基準法34条の「休憩時間」とは、単に作業に従事しない手待時間ではなく、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間である必要があるというのが行政通達(昭和22年9月13日基発17号)の考え方です。

ドライバーの労働時間について判断した行政通達(昭和33年10月11日基収第6286号)も、

「運転手に対して路線運転業務の他、貨物の積込、積降をおこなわせることとし、小口の貨物が逐次持ち込まれるのを待機する意味でトラック出発時刻の数時間前に出勤を命じている。この場合、現実に貨物の積込を行う以外の時間は全く労働の提供はなく、いわゆる手待ち時間がその大半を占めているが、出勤を命ぜられ、一定の場所に拘束されている以上、労働時間と解すべき」

として、トラック運転手が、出勤時刻からトラックの出発までの間にトラックに貨物が積み込まれるのを待機しており、全く労働の提供のない時間も、労働時間に該当する呼び出されれば直ちに対応しなければならない状況であれば(結果として実際に呼出しがなくても)労働時間に該当すると解釈しています。

この通達は、他にも貨物取り扱いの事業の場において、貨物の積込係が、貨物自動車の到着を待機して身体を休めている場合や、運転手が2人乗り込んで交替で運転に当たっている場合において、運転しない者が助手席で休息ないし仮眠している場合についても、労働者が使用者の指揮監督の下で拘束されていることに変わりないとし、労働時間に該当すると評価しています。

大星ビル管理事件最判

この点、最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決(民集 56巻2号361頁・大星ビル管理事件)は、

不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。

そこで、本件仮眠時間についてみるに、前記事実関係によれば、上告人らは、本件仮眠時間中、労働契約に基づく義務として、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事がその必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができる。

したがって、上告人らは、本件仮眠時間中は不活動仮眠時間も含めて被上告人の指揮命令下に置かれているものであり、本件仮眠時間は労基法上の労働時間に当たるというべきである。

と判断し、仮眠時間であっても労働時間に当たると結論づけています。

仮眠時間であっても、呼び出されれば直ちに対応しなければならない状況であれば(結果として実際に呼出しがなくても)労働時間に該当するというのであれば、トラック停車中において、必ず呼び出しがなされる状況での待機時間は労働時間と解されることとなります。

ですから、積卸しの作業時間はもちろん労働時間に当たりますし、積卸し前に荷物の準備ができるのを待つ時間や、作業場が空くのを待つ時間など、いわゆる手待時間についても、呼ばれればすぐに作業を開始しなければならないスタンバイの時間ですので、「労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間」(=休憩時間)ではなく、労働時間に当たることとなります。

ドライバー業務の実情

トラックドライバーの業務は、運転時間だけに限られず、荷待ち、荷卸しの作業時間や、荷物が出来上がったり、作業場が空いたりする時間までの待機時間などの多くの時間が含まれます。

この点、平成27年の「トラック輸送状況の実態調査」によれば、1運行当たり、平均1時間45分の荷待ち時間(3時間超の荷待ちが発生する割合も15.1%ある)と、2時間44分の荷役時間が発生するものとされています。かかる調査からも明らかなとおり、荷待ちや荷役作業により、1運行あたり平均約4時間30分もの停車時間が生じることは、ドライバー業務において通常のことですが、これらの時間はすべて「権利として労働から離れることを保障されている時間」(昭和22年9月13日基発17号)ではなく労働時間であると考えられます。

ドライバーの休憩時間が争点となった裁判例

トラックドライバーの休憩時間が争点となった東京地判平成27年9月18日(平25(ワ)3658号)においては、「『一般走行』と『アイドリング』又は『エンジンOFF』が交互に繰り返されている状況は、原告X2が配送先をくまなく回りながら積み荷を下ろしている状況が推認されることから、この間に休憩を取ることが出来たとは考え難い。」、「エンジンOFFの時間についても荷物の積み込み等他の作業をしていた可能性もあり得ることから、労働から解放されていたと同記録からは直ちに認めることができない。」という点を指摘し、すべての時間を労働時間と認定しています。

同じくトラックドライバーの休憩時間が争点となった事案において、横浜地裁相模原支部平成26年4月24日判決(判時 2233号141頁)は、「出荷場や配送先における待機時間は、いずれも待ち時間か実作業時間に当たり、使用者である被告の指揮命令下に置かれたものと評価することができるものであり、その待機時間中に原告らがトイレに行ったり、コンビニエンス・ストアに買い物に行くなどしてトラックを離れる時間があったとしても、これをもって休憩時間であると評価するのは相当ではない」と判断しています。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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