1.「かとく」とは

「かとく」とは、「過重労働撲滅特別対策班」の通称名です。

労働基準法や関係法令に違反している、または違反している疑いがある場合で、特に悪質な長時間労働を強いているような企業を対象として大規模・調査困難なケースでも企業本社などへの監督指導、広域捜査活動を迅速かつ的確に実施できるよう、厚生労働省によって、2015年4月に東京労働局と大阪労働局に新設されました。
「かとく」が設置されて以降、東京・大阪を中心に様々な企業が調査対象となり、その中には、著名な会社も多く含まれています。

さらに、2016年4月からは、広域捜査の調整役となる「本省かとく」や、全国全ての労働局に、長時間労働に関する監督指導等を専門とする「過重労働特別監督監理官」が設置されております。
今後も、長時間労働に対する行政の取り締まりは強化されていく傾向にあるといえるでしょう。

「かとく」の権限

「かとく」は労働基準監督官で構成されており、刑事訴訟法に基づいて犯罪捜査を行うことができる「特別司法警察職員」として様々な権限を持っています(労働基準法第102条)。
具体的にどういった権限を持っているのかチェックしていきましょう。

立ち入りや捜査

労働基準監督官は事業場などに立ち入り帳簿や書類の提出を求めることや、使用者(※)や労働者に対して尋問を行うことができます(労働基準法第101条の1)。
※使用者…会社や法人、事業主、取締役、労働条件の決定や労務管理の実施などについて一定の権限を持っている者など。

また、司法警察官として、労働基準法をはじめとする労働法に違反している使用者などに対して捜査を行うことや、事件を検察官に送致(送検)することができます(労働基準法第102条、労働安全衛生法第92条など)。つまり、警察官と同じような権限を与えられているのです。

逮捕・勾留

刑事訴訟法上は一般の警察官と同じ権限を持っているため、強制捜査をすることができます。
つまり、逮捕や勾留、押収、捜索、差押えをすることもできるのです。

実際に、立ち入りや捜査を行った結果として労働法に違反していることが明らかになった場合や是正勧告に従わない場合などで、その程度が悪質なケースや、捜査に協力しないケースなどは逮捕や捜索が行われることがあります。

デジタル・フォレンジック

「デジタル・フォレンジック」とは主にコンピュータ犯罪に関連して、デジタルデバイスに記録された情報の回収や分析調査などを行う専門的技術のことを言います。
「かとく」は、改ざんされたデータを復元するために「デジタル・フォレンジック」の技術も有しているため、過酷な長時間労働を強いる企業を摘発・排除する、専門かつ強力なスペシャリストといえます。

労基署との違い

労働基準監督署(労基署)も「かとく」と同じように労働問題を取り締まっています。
労基署も「かとく」と同じように司法警察官の権限を有しているため、労働法に違反する会社などの捜査や逮捕、送検をすることができます。
中でも「かとく」は、悪質な長時間労働させるいわゆる「ブラック企業」を専門に取り締まることを目的として設けられた組織となっており、主に企業の本社などの重点的な取り締まりや、大規模捜査、広域捜査を取り扱います。
企業単位で効率よく長時間労働の問題に対応できることが労基署との違いとなっています。

「かとく」の送検事例

では、実際に「かとく」が送検した事例を確認してきましょう。

電通

電通と言えば日本最大手の広告代理店です。電通の女性社員が過労により自死に至ったことは、ニュースでも大きく取り上げられ、記憶にある方も多いでしょう。

亡くなった女性社員は、亡くなる前の1ヶ月間で105時間の残業をしていたことが認定されているだけでなく、入退館の記録によると最長130時間に上る時間外労働を行っていたとされています。
それにも関わらず労使間で定めた残業時間の枠内に収まるように上司が指導していたそうで、実際の残業時間と記録上の残業時間は大きく乖離していたとのことです。事態を重く見た厚生労働省が「かとく」に捜査を行わせ、結果として電通および女性の上司である幹部などが労働基準法違反容疑で書類送検されました。

電通については、この件だけでなく3つの支社に対しても一斉に強制捜査が実施され、労使協定の上限を超える違法な長時間労働について書類送検をされています。

ドン・キホーテ

ドン・キホーテは2014年10月~2015年4月までの間、都内店舗の複数の従業員に対して、36協定で定められた「3ヶ月120時間」の上限を超えて最長415時間45分の時間外労働を行わせていました。

「かとく」は労働基準法第32条(労働時間)に違反するとして、ドン・キホーテおよびドン・キホーテの執行役員など8人を東京地検に書類送検しています。送検される前には家宅捜索も行われています。
ドン・キホーテは都内店舗だけでなく、全国の店舗で労働基準法違反があったとして「かとく」が捜査を進めていたとのことです。

ABCマート

靴の小売業で全国展開しているABCマートでは、従業員4人が法定労働時間や労使協定による時間外労働の上限を超えて、月に100時間近い残業をさせられたとして、労働基準法違反の疑いで書類送検されました。

この件が「かとく」の初めての送検でしたが、実は送検される前にはABCマートに対して是正勧告が行われています。
長時間労働をさせたからといってすぐに書類送検されるわけではなく、是正勧告をすることによって猶予期間が与えられているのです。
是正勧告を行ったにもかかわらず改善されなかったため、悪質であると判断されて書類送検されたという結果になりました。

私の残業代はどうなるの?

ところで、「かとく」の調査対象となった企業にお勤めである、またはお勤めだった方には、企業から自主的に、顧問弁護士などを通じて、残業代の未払いを認めるとともに、残業代を支払うという文書が送られてくることがあります。
しかし、企業が「支払う」というこの残業代は正確な計算がされておらず、非常に少ないことがあります。

その原因は様々ですが、企業側が労働時間の一部を認めていない、「残業代の一部は既に〇〇手当として支払っている」と一方的に考えているといったことなどが挙げられます。
そのため、「「かとく」が調査に入っているのだから、正しく計算されているだろう。」などと安易に考えてしまうことは、おすすめしません。

また、残業代を認めている場合でさえ不正確な計算をしている可能性があることから、文書が来ていない場合でも、「そんな文書は来てないし、自分には関係ない」と直ちに判断することもおすすめできません。

当事務所は、このような「かとく」の調査対象となった企業に対する残業代請求も取扱っております。
そのため、企業から支払われた残業代の内容に疑問に思われる方や残業代が支払われる可能性があると思われる方は、一度ご相談されてみてはいかがでしょうか。

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
「解決したはいいけど、費用の方が高くついた!」ということのないように、残業代請求については初期費用無料かつ完全成功報酬制となっております。成果がなければ弁護士報酬は0円です。お気軽にご相談ください。