平成29年度の厚生労働省の監督指導による賃金不払い残業の是正結果

厚生労働省は,賃金不払残業に関する労働者からの申告や各種情報に基づき企業への監督指導を行った結果,平成29年4月から平成30年3月までの期間に不払いだった割増賃金が各労働者に支払われたもののうち,その支払額が1企業で合計100万円以上となった事案を取りまとめ,公表しました。

【平成29年度の監督指導による賃金不払残業の是正結果のポイント】

(1) 是正企業数 1,870企業(前年度比521企業の増)
うち,1,000万円以上の割増賃金を支払ったのは,262企業(前年度比78企業の増)
(2) 対象労働者数 20万5,235人(同107,257人の増)
(3) 支払われた割増賃金合計額 446億4,195万円(同319億1,868万円の増)
(4) 支払われた割増賃金の平均額は,1企業当たり2,387万円,労働者1人当たり22万円

<引用元URL>
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/chingin-c_h29.html

監督指導による割増賃金支払額は,前年度比約3.5倍の増加

厚生労働省の監督指導により支払われた未払いであった割増賃金の額は,前年度から約319億円増えており,増加率は約3.5倍となっています。ここまで支払額が増加した背景にはヤマト運輸が約210憶円という多額の残業代支払いを行った年度であるという事情がありますが,その額を除いたとしても未払い残業代の支払いは大幅に増加しています。
サービス残業が違法であることは一般に周知されつつあり,労働基準監督署の介入も増え,多くの企業が割増賃金支払いの対応を行っているようです。

未だ割増賃金の支払いを行っていない企業も多数存在

もっとも,労働基準監督署の調査対象となっていない企業や,労働基準監督署の是正勧告にもかかわらず残業代を支払わない企業も未だ多数存在します。
残業代は労働基準法上定められた労働者の権利であり,これを支払わないことは違法です。労働者側も,サービス残業を当たり前と思わず,正当な権利として残業代支払いを主張していくことが重要です。
また最近では,固定残業代の定めがあることや,管理監督者であることを理由として残業代を支払わないと主張する企業も増えています。
しかし,それらが常に労働基準法上残業代を支払わなくてよい場合に該当するとは限りません。例えば,雇用契約に固定残業代が定められている場合でも,規定の時間を超えて労働した場合には残業代が発生します。固定残業代の規定の仕方や額によっては,固定残業代制度が無効とできるケースもあります。管理監督者であるとして残業代を支払わないとさる場合でも,管理監督者にあたるためには,経営者との一体性を有すること,労働時間に裁量があること,その地位にふさわしい待遇を得ていること,といった事情が必要ですので,実際にはそのような権限や待遇がなく管理監督者にあたらないという場合も多くあります。
このように,本来であれば残業代が支払われなければならないのに,企業側が誤った主張をして支払わない場合もあるのです。

まとめ

厚生労働省の是正勧告による未払い残業代の支払いは増加してはいますが,未だ多くの企業で残業代の未払いがあります。
「サービス残業が当たり前になっている」「いろいろと理由をつけて残業代を支払ってもらえない」等,企業側の対応が不誠実な場合には,労働者から積極的に残業代の支払いを求めていくことが必要です。
前記の統計のように,労働基準監督署からの指導が入ることで未払い残業代が支払われる場合もありますし,弁護士に依頼すれば企業に直接残業代の支払いを請求することもできます。残業代の支払いについて問題や疑問を感じられた場合には,残業代の請求の可否について,是非一度弁護士にご相談ください。