サービス残業・みなし残業とは?

まずはサービス残業とみなし残業について確認しておきましょう。

サービス残業とは

サービス残業とは所定労働時間を超えて働いても残業代がもらえない状態のことを指します。
サービス残業をする理由としては「勤務時間が過ぎたけど仕事が終わらなかったからタイムカードを切ってそのまま働いた」「毎日始業より早く出勤して掃除をしている」などがよく挙げられるのではないでしょうか。

所定労働時間とは雇用契約書や就業規則によって定められた労働時間のことで、例えば「始業10:00、終業19:00(うち休憩1時間)」といったように定められています。所定労働時間を超えて働いた部分については残業代が発生します。
法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働いた部分については「法定時間外残業」となり、25%以上の割増賃金が支給されることになります。法定労働時間より短い時間で働くパートやアルバイトなどが法定時間内で残業をした場合は、割増にはなりませんが通常の時給が支払われます。

これらを支払われることなく働くとサービス残業になります。
労働基準法によって残業代は1分単位で支払われることになっていますので、1分でも多く働いたら残業代が支払われるのが本来ならば当然のことなのです。

みなし残業とは

みなし残業とは「固定残業制」のことで、基本給に「想定される一定時間分の残業代」を固定で支払う制度のことを指します。

みなし残業を採用している場合、雇用契約書や就業規則などに例えば「月給30万円(固定残業代5万円(20時間分)を含む)」といったように記載されています。この場合は20時間までは残業代は含まれているため追加で支払われることはありません。
もちろん20時間を超えた部分については残業代が発生します。

サービス残業・みなし残業とは違法ではないか

サービス残業をしている人は6割を超えるという調査結果が報告されており(日経ビジネス2016年10月20日記事に基づく)、実際まだまだ日本の社会ではサービス残業は横行しているといえます。

サービス残業だから残業代が支給されないのは当然だと思っていませんか?
また、固定残業代が支給されているからいくら残業しても残業代は支給されないのは当然と思っていませんか?

残業の仕方によっては違法になるケースがありますので確認しておきましょう。

サービス残業は違法ではないか

もうおわかりかと思いますが、サービス残業は違法です。

労働基準法37条は、労働時間を1日8時間、週40時間と定め、それを超えて労働させた場合、使用者に残業代を支払うことを義務付けています。
したがって、会社がサービス残業をさせて残業代を支払っていない場合は、一部の例外を除き労働基準法違反になります。

そのため、会社が定時やある一定の時間になったらタイムカードを切ってその後も業務を続ける場合や、業務上の必要性から始業時間前に出勤して業務をしている場合、会社の指示に基づき、参加が強制されている終業時間後の教育訓練に参加した場合、休憩時間とされている時間に、電話番をしなければならない場合や、来客の対応をしなければならない場合において残業代が支給されていない場合、また、名ばかり管理職として残業代が支給されていない場合等は、労働基準法違反になる可能性があります。

みなし残業制は違法ではないか

みなし残業制については前述したとおりです。この制度自体は違法ではありません。 では、どのような場合にみなし残業代制は違法になる可能性があるのでしょうか。

労使間で同意されていない場合

みなし残業制を導入するためには労使間で同意されていなければなりません。
導入前に説明会や質問の受付などを行い、面談などで同意を得る(同意書を作成する)といったことをしておかなければなりません。
また、同意を得ることができた後は、就業規則に明記し、就業規則の変更があったことを労働基準監督署に届け出るなどきちんと手順を踏んでおく必要があるのです。

このような労使間の同意が無い状態で会社が労働者にみなし残業をさせている場合は違法となる可能性があります。

想定されている残業時間を超えたのに残業代が出ない場合

みなし残業を取り入れている場合でも、想定されている残業時間に対して実際の残業時間のほうが多い場合は、会社側は想定時間を超えて残業した部分について残業代を支払う必要があります。
例えば、「固定残業代4万円(40時間分)」の労働契約をしている人が、ある月に50時間働いたとします。この場合、会社側は固定残業代に加えて10時間分の残業代を支払われなければならりません。
「固定残業代を支払っているから」という理由で、想定されている残業時間を超えて働いた部分について残業代が支給されていない場合は、労働基準法違反になります。

固定残業代が想定されている残業時間に比して明らかに少ない場合

固定残業代とは、上記のとおり想定される残業時間に対して支払われる残業代です。したがって、想定されている残業時間に対する残業代として明らかに少ない固定残業代しか支払われていない場合は、違法になる可能性があります。

基本給が最低賃金を下回っている場合

基本給と固定残業代の総額は最低賃金を下回っていないけれど、基本給だけをみると最低賃金を下回っているケースです。
固定残業代は想定される残業時間に対する対価であり、基本給のような所定労働時間労働に対する対価ではありません。
つまり、基本給と固定残業代は明確に区別されなければならないのです。

具体例を見ていくと、まず契約内容が、
・月給18万円(固定残業代を含む)
といった内容の場合はこの時点でルール違反です。固定残業代が何時間分で何円なのかが全くわからないからです。

・月給18万円(固定残業代3万円(20時間分)を含む)
このような内容ならばルールには沿っていることになります。

次に、基本給が最低賃金を下回っていないことが必要になります。
先ほどの例で、年間労働日数が250日、1日の労働時間が8時間の契約で働いている場合の1時間あたりの賃金は
{(18万円-3万円)}÷(250日×8時間÷12)=900円
となります。

さて、2020年の東京都の最低賃金は1013円です。例の労働者が東京都で働いているという場合は最低賃金を下回る計算になります。
このようなケースでは、固定残業代は残業時間に対する対価として支給されているものではなく、所定労働時間労働の対価として支払われているものである可能性が高く、残業代が支給されていないとして違法になる可能性があります。

固定残業代ではなく他の名目で支払われている場合

会社によっては、「営業手当」等他の名目の支給があり、これが固定残業代であるから残業代は出ないと説明をしているケースがあります。
実際に、雇用契約や就業規則に「営業手当」等他の名目の手当を固定残業代として支給する旨が明記されている場合は違法にはなりません。
しかし、明記されていない場合は固定残業代の趣旨とはみなされないので、会社が別途残業代を支給していない場合は違法になる可能性があります。

想定されている残業時間が多すぎる場合

想定残業時間を「残業90時間分」や「残業100時間分」として固定残業代が支払われているケースがあります。このような場合、実際の残業時間が想定されている残業時間を超えることはほとんどないでしょう。
このような場合、固定残業代に追加して残業代は一切支払われないのでしょうか。

これについては判断が分かれているところであり、このような固定残業制の合意自体が残業を例外とする労働基準法の趣旨や36協定、公序良俗に反し無効であるといった判断が出ているケースもあります。

これらのことから、固定残業代として月残業90時間分や100時間分出ているからといって必ずしも残業代請求できないというわけではなく、就業規則や雇用契約書の記載内容、36協定の内容、残業代の支給実態等により請求できるケースもあります。
このような固定残業代の合意がなされている場合も、残業代請求を諦めるのではなく、一度専門家にご相談されることをお勧めします。

まとめ

このようにまだまだサービス残業が横行しているのが実態です。
サービス残業として残業代を支給しないことは違法です。
また、固定残業制を採用しているからといって想定残業時間を超える残業をしても残業代が支払われていないことも多々あります。

一度ご自分の残業代がきちんと支払われているか確認してみてはいかがでしょうか。