退職を考えているが会社がなかなか辞めさせてくれない、会社に退職したいと伝えると嫌がらせを受けそう、など様々な理由で退職代行に依頼を考えている方も最近は少なくはないのではないでしょうか。

今回は、退職代行に依頼した場合の残業代の清算の仕方について説明をしていきたいと思います。

退職代行とは

まず退職代行とは、本人に代行して会社に対して退職の意思を伝えることにより、退職を実現するものです。

退職代行を利用するケースとしては
・労働環境の改善を提案したところパワハラを受けるようになった
・会社からの強引な引き留めがあった
・自身で退職の意思を伝えづらい
・退職届を受け取ってもらえない
・退職の意思を伝えたところいじめや嫌がらせを受けるようになった
といったように、会社のモラルやコンプライアンス意識の低さが原因で退職の意思を伝えることができない環境であることなど、退職希望者自らが動けないことが多いでしょう。

退職代行に頼んでも残業代は請求できる?

「退職代行」と検索をすると、弁護士以外が行っている場合があります。
しかし、退職の意思表示を代行することは雇用契約を終了させるという法律行為を代行することですので、本来は弁護士しか行うことはできません

そのため「退職代行に頼んでも残業代は請求できる?」という疑問については「弁護士に依頼しなければ請求することはできない」という答えになります。

退職代行サービス業者の問題点

改めて弁護士でない退職代行サービス業者に依頼した場合の問題点を確認しておきましょう。

退職代行サービス業者に依頼したからといって退職できないというケースは少ないようです。
しかし、弁護士ではないため法律行為を行うことができませんので、退職前や退職後に次のような問題が発生する可能性があります。
・「即日退職できる」と謳われていたが即日退職できない
・損害賠償請求をされる
・退職書類を送ってもらえない
・嫌がらせを受けても対処してもらえない

即日退職できない・損害賠償請求をされる

民法第627条第1項には次のように定められています。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

そのため「即日退職」はできないということになります。
退職を伝えてから2週間の間有休消化をすることによって「実質即日退職」をするという方法をとることはできますが、この有休消化の協議などを会社と行うことは業者にはできません。

無理矢理即日退職してしまうと、会社から債務不履行(雇用契約の義務違反)や、会社に対してもたらした不利益(例えば開発に携わっていた場合に開発が進まなくなった、引き継ぎをしなかった、信用を失ったなど)に対して損害賠償請求をされてしまう可能性があります。
実際に裁判で退職希望者側が負けてしまったものもあるほどですので、注意が必要です。

退職書類を送ってもらえない

会社の中には、郵送はしないので書類を取りに来なさい、というところもあるでしょう。
退職代行サービス業者は代理人になることができませんので、郵送を依頼することはできても拒否された場合に本人に代わって交渉することはできません。
また、書類を送ってもらえたとしても、内容に関するやりとりを行うこともできません。
そもそも会社と直接のやり取りをしたくないなどの理由で退職代行を利用したのに、これでは本末転倒です。

嫌がらせを受けても対処してもらえない

退職代行を使ったことについて誹謗中傷を受けたり、退職日を会社の都合の良い日にされてしまったりという嫌がらせを受けてしまう可能性があります。
この場合も退職代行サービス業者のは何も対処することができません。

そして、ここまでに挙げたトラブルはいずれも、退職代行サービス業者が「法律行為を行うことはできない」ことに起因します。

法律行為を行うことはできないとは

さて、ここからが重要なのですが、退職代行サービス業者が行う退職代行サービスはそもそも「非弁行為」となる可能性が高いのです。
非弁行為とは弁護士法第72条に反する行為のことで、弁護士法第72条には次のように定められています。

弁護士または弁護士法人ではない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

簡単に言うと弁護士以外の者がお金をもらって法律事務を取り扱うことはできないのです。
単純に「使者」として退職希望者が作成した退職届を持って行くだけであれば合法となる可能性もありますが、それ以上の交渉や調整などを行えば違法となります。
また、退職代行サービス業者に依頼したことについて「弁護士法違反だ」と会社から指摘を受け、退職手続きを進めてもらえない可能性すらあります。
きちんと弁護士に依頼しておけば良かったと後悔することになるかもしれません。

なお、ホームページなどに「顧問弁護士から指導を受けています」という文章があっても、弁護士が行っていない以上違法となる可能性が高いため、直ちに信用することはお勧めできません。

退職代行を弁護士に依頼する場合

このように、退職代行サービス業者に依頼をした場合はそもそも非弁行為に該当する可能性が高く、退職が上手くいかないケースもあります。

弁護士に退職代行を依頼した場合、退職自体を実現するだけでなく、退職に伴う次のような問題もあわせて解決してもらうことができます。

・退職日の設定や有給休暇の取得
・未払賃金や残業代、退職金の請求
・パワハラを受けた場合等の慰謝料請求
・(うつ病などを発症している場合)労災認定
・会社から損害賠償請求されてしまった場合の対応
・退職時の手続きの代行

弁護士に依頼するとなると費用面が心配になる方もいらっしゃるかと思いますが、さほど変わらない費用設定がされているケースもありますので、まずは費用を確認してみてはいかがでしょうか。

残業代請求には時効がある

退職について弁護士に相談すると、未払い賃金の有無についても確認をすることができます。もし未払い賃金がある場合は、退職の意思表示をする際に請求することが大切です。

その理由が未払い賃金請求には時効があるからなのです。
未払賃金には2年間(2020年4月以降に発生したものについては3年間)の時効がありますので、退職後請求までの期間が長くなってしまうと、その分過去の未払賃金が時効により消滅してしまいます。
退職時に未払い賃金の清算についても交渉をすることによって請求期間の減少を防ぐことができるのです。

未払い賃金の有無についても、自分では確認しきれない部分があるかと思います。
弁護士に依頼することで、時効による消滅も含めて「もらえるはずの賃金がもらえなかった」という事態を防ぐことができるでしょう。

まとめ

今回は退職代行の際に残業代請求ができるかについて説明をして説明をしてきました。
退職代行とあわせて残業代請求をすることができるのは弁護士だけです。また、退職時のトラブルを解消することができるのも弁護士だけです。
退職代行を依頼する場合は、慎重に依頼先を検討されることをおすすめします。