職務手当が残業代?!

“職務手当が毎月出ているから、どれだけ残業したって残業代は出ない”と思っている、または、“職務手当を残業代として支給しているから残業代は出ない”と説明をされていることから、どれだけ残業をしても残業代は出ないと思っていませんか。
今回は職務手当の性質について説明をし、職務手当の支給がある場合に残業代は請求できるのか、以下説明をしていきます。

職務手当とは

職務手当の性質について、法律に決まりがあるものではありません。職務手当を支給する会社によって趣旨はそれぞれです。
雇用契約や就業規則に、「職務手当は~として支給する」と記載されている場合が多いかと思いますが、その記載に従って、どのような性質の手当であるか判断できるかと思います。
「職務手当」という名称からして、特定の職務について必要とされる技能や技術、資格、責任などの程度に応じて支給される場合が多いかと思いますが、中には、職務手当を残業代として支給する旨が定められている場合もあります。

役職手当とは

職務手当と似ている手当に役職手当があります。
役職手当の性質についても法律に決まりがあるものではありませんが、通常、課長、部長といった一定の役職者に対して支給される手当であり、支給基準については就業規則などに記載されていることが多いでしょう。
役職手当についても職務手当と同様、役職手当を残業代として支給する旨が定められているケースがあります。
なお、一定以上の役職者について、労働基準法上の「監督又は管理の地位ある者」として、残業代を支払わない扱いとするケースもあります。

残業代として支給されている場合

では、職務手当や役職手当が残業代として支給されている場合、それ以上残業代を請求することはできないのでしょうか。
この場合、職務手当や役職手当という名称が付されていたとしても、毎月固定の額を残業代として支払うという取り決めがなされているということであり、固定残業代と同じ話になります。
もっとも、雇用契約書や就業規則に職務手当を残業代として支払うと規定されているからといって、直ちに残業代の支払いが有効と判断されるわけではありません。毎月固定の職務手当や役職手当が有効な残業代の支払いであるといえるためには、以下の要件を満たすことが必要になります。

・職務手当や役職手当が残業代として支給されるという記載が、就業規則または個別の労働契約にある

そもそも、残業代として支給する旨の使用者と労働者の合意が必要です。

・通常の労働時間の対価にあたる部分と、時間外労働の対価にあたる部分が明確に区別されている

これは、従業員が自分の残業代がいくら支払われているか計算をして判断することができるために、どの部分が通常の労働時間の部分でどの部分が残業代の部分なのか判断できることが必要ということです。

以上の要件を満たさない場合は残業代の支給として有効とは認められず、通常どおり、所定労働時間を超えて労働した分について、未払賃金を請求することができます。
また、この場合、職務手当や役職手当が時給を計算する際の基礎賃金に含めて計算されるため、時間単価が上がることになります。

会社側が、職務手当又は役職手当を残業代として支払っているため残業代は既に支払済みであり、未払い残業代はない、と残業代請求に対して反論をしてくる場合がありますが、この場合は上記の要件に従って有効な残業代の支払いといえるかどうかが判断されます。

本当に管理監督者に該当するのか?

管理職になった途端残業代が支給されなくなり、代わりに毎月固定の職務手当や役職手当だけが支払われることになった、といった場合もあります。
この場合、残業代請求はできないのでしょうか。

使用者には、労働基準法上の「管理又は監督の地位にある者」(管理監督者)に該当する労働者に対して残業代を支給する義務がありません。そのため、管理者にする代わりに手当をつけ、残業代の支給がなくなるということが多々あります。
しかし、会社が管理職として残業代を支給しない扱いをしていたとしても、必ずしも残業代の支給義務がない労働基準法上の管理監督者に該当するとは限りません。

労働基準法上の管理監督者は、時間外労働をさせた場合は残業代の支給をしなければならない、という労働基準法上の原則の例外ですから、厳格に判断がなされます。
会社から管理監督者と位置づけられたとしても、それが労働基準法上の管理監督者とはいえず、実際は残業代の支払い義務がある場合があります。
具体的には、労働基準法上の「管理監督者」は、通達により、“労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあり、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限になじまない者をいう(昭和 22年9月13日付発基17号、昭和63年3月14日付け基発150号)”とされており、以下の判断要素によって判断されます。

①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること ②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有していること ③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇が与えられていること

したがって、上記の条件に当てはまらない場合は、使用者側には、通常の労働者に対するのと同様に残業代を支給する義務があるため、「職務手当」や「役職手当」を支給していても残業代を支給する義務があるのです。

(こちらでも解説しています。「管理職」と「管理監督者」とは 残業代に関わる話」)

まとめ

今回は職務手当や役職手当の性質及び、それらの支払いがある場合でも残業代を請求できる場合があることについて説明をさせていただきました。
固定残業制は、正しい知識をもとに運用されていないケースも多々あります。また、管理監督者についても法律上の管理監督者と一般的に使用されている管理者とが必ずしも一致しないため、実際は労働基準法上の管理監督者に該当しないにもかかわらず、管理者になったことから残業代は出ないと誤解されている場合もあります。
「職務手当」や「役職手当」が支払われており、残業代が支払われていないことに疑問がある場合は、今回の解説をもとに雇用契約書や就業規則を今一度ご確認ください。