飲食店の店員さんの場合、タイムカードが完備されてないケースが他の業種に比べて多いです。また、各店舗の店長、マネージャーなどの役職者である場合、会社側から「管理監督者なので残業代は発生しない」との主張がだされることもあります。
1 タイムカードがない場合
シフト上の勤務時間自体が一日8時間以上となっている場合、シフト表を証拠とすることで、少なくともシフト上の時間分は働いたことを立証できるでしょう。また、例えばキッチンが1名しかいないなど、あなたがいなければ店がそもそも営業できないような場合は、店舗の営業時間(+開店前の仕込み時間や、閉店後の片づけ時間)については働いていたという主張も説得的かと思われます。こういったケースの場合、厳密な立証が求められる訴訟よりも、柔軟な解決を目指す労働審判の方が妥当な結論を得やすいかもしれません。
どのような手続で解決すべきかという点も検討する必要があります。
いずれにせよ、日々の業務がどのような流れであったかなどを証拠や陳述書などにより説得的に立証する細やかな訴訟活動が求められます。
2 店長、マネージャーは管理監督者か
多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲については、厚生労働省が基準とすべき考え方を公表しており、参考になります(平成20年9月9日基発第 0909001 号 「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」)
この文書では、
「小売業、飲食業等において、いわゆるチェーン店の形態により相当数の店舗を展開して事業活動を行う企業における比較的小規模の店舗においては、店長等の少数の正社員と多数のアルバイト・パート等により運営されている実態がみられるが、この店舗の店長等については、十分な権限、相応の待遇等が与えられていないにもかかわらず労働基準法(昭和 22 年法律第 49 号)第 41 条第2号に規定する『監督若しくは管理の地位にある者』として取り扱われるなど不適切な事案もみられる」
という現状を問題視し、管理監督者性を否定する要素を、
①「職務内容、責任と権限」についての判断要素
②「勤務態様」についての判断要素
③「賃金等の待遇」についての判断要素
に分けて示しています。
A 「職務内容、責任と権限」についての判断要素
他の従業員の採用や解雇、人事考課、労働時間の管理などについての権限を実際に有していたかが問題となります。
特に採用や解雇の権限がない場合について、平成20年9月9日基発は、「管理監督者性を否定する重要な要素」となるとしています。
この「重要な要素」については、厚生労働省の平成20年10月3日基監発第 1003001 号「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化を図るための周知等に当たって留意すべき事項について」、厚生労働省の平成20年9月9日基発に関するQ&Aでは、「監督指導において把握した実態を踏まえ、これらの事項すら満たされていないのであれば、管理監督者性が否定される可能性が特に大きいと考えられる逸脱事例を強調して示したもの」とされており、この事実だけで、管理監督者性を否定する十分な事情となります。
B 「勤務態様」についての判断要素
管理監督者は本来自分の裁量で時間管理を行う立場にあります。出退勤時間の自由がなかったり、遅刻をすると注意されるような取り扱いがなされたりしていれば、そのような事情は管理監督者性を否定する要素となります。
また、部下と同じような現場での仕事に携わっており、マネージャーとしての仕事はごく一部の時間しか行っていないなどという事情も管理監督者ではないことを根拠づけるものとなります。
C 「賃金等の待遇」についての判断要素
残業代がでないと仮定した場合の一時間当たりの時間単価を算出した結果、他の社員やパート社員の時間単価と変わらなかったり、逆に少なくなっているケースもあります。こういった事情も管理監督者性を否定する重要な要素となります。特にパート社員よりも時間単価が低くなるような場合は、その事情一つだけでも管理監督者性を否定することができるでしょう。
飲食店勤務の方の未払い残業代の解決事例
店長(カフェ)
会社側がタイムカードの開示にも応じなかったため、推定計算で提訴した上で、タイムカードの開示を求める文書提出命令を申し立てました。その後開示されたタイムカードをもとに、訴訟での請求を続けたところ、会社側からは管理監督者なので残業代は生じないという反論が出されましたが、裁判所はこれを認めず、和解で800万円を回収しました。
飲食店においては長時間のサービス残業が常態化しているケースが散見されます。
店長であっても、人事権や労働時間についての裁量のない場合は残業代請求が認められますので、ご相談ください。
シェフ(ビストロ)
ビストロのシェフからのご依頼でした。残業代を請求したところ,ある手当が固定残業代であるとの主張がなされ、和解に至らなかったため,提訴しました。裁判において、当方の主張が概ね認められた結果、和解により450万円の支払いを受けることができました。
居酒屋店員
一部の手当について、会社は,固定残業代であるとの主張をし、残業代の支払いを拒否しました。訴訟において、当方は、固定残業部分の金額が180時間分にも上り不当に大きすぎることを主張した結果、当方の見解を前提とする和解により320万円を獲得しました。
和食料理店 同僚3名
飲食店にお勤めの同僚3名からのご依頼でした。交渉では誠意ある対応が得られなかったので、提訴した結果、和解により3名合計で900万円の支払いを受けることができました。
副料理長(和食)
相談者は飲食店の副料理長として、開店前の仕込から閉店後の片づけまで、毎日15時間前後の労働を余儀なくされていました。
相手方は有名店ということもあり裁判をおそれたために、早期に交渉で十分な金額(約285万円)が提示され、交渉から2カ月のスピード解決となりました。
寿司店店員
タイムカードの打刻がない日が多く、労働時間が争いになった事件です。訴訟の結果、270万円の支払いを受ける和解が成立しました。
居酒屋店員
タイムカードがなく、手書きの出退勤管理がなされていましたが、実際の労働時間よりも短い記入となっていました。交渉では資料の開示が十分なされなかったため、訴訟をした結果、和解により500万円の支払いを受けることができました。