働き方改革による法改正や社会意識の変化等により、近年、残業時間の管理は厳格になってきています。残業を制限・禁止し、残業時間を減らそうとする会社も少なくはありません。
しかしその中では、「終業時刻後の残業ができないから」と、始業時刻前に業務を行っている労働者もいるようです。

では、このような「早出残業」では、残業代を請求することができるのでしょうか。

そこで今回は、早出残業において、残業代がつくケースとつかないケースについてわかりやすく解説します。

 

早出残業とは

早出残業とは、始業時刻の前から業務を開始し、所定労働時間(会社ごとに定められた1日の労働時間)を超えて働くことを指します。始業時刻前から業務を始めているため、終業時刻まで働くと、その労働者は1日の所定労働時間を超過して勤務することになります。この場合、所定労働時間を超過した労働時間は、終業後の残業と同じく、残業代支払いの対象となります。
また、所定労働時間を超え、法定労働時間(1日8時間、週40時間)も超過した残業に関しては賃金が25%以上割増されます。

ただし、「始業時刻前に業務を行った分、早く退勤する」という場合は、早出残業とはなりません。

残業代が発生する時間、つまり労働時間といえるためには、本来、前提として、会社から残業を命じられている必要があります。終業時刻後の残業(いわゆる居残り残業)については、会社からの明確な業務命令がなくても、黙示の業務命令が会ったものと解されることが大半です(ですので、残業代請求の裁判の場合も、居残り残業の業務命令の有無が争いになることはまずありません)。

しかし、始業時刻前の早出残業については業務命令があったといえるかが争点となることが多いのです。
もっとも、「明日●時に出勤しなさい」という具体的な業務命令がなくても、事情により黙示の業務命令が認められることはあります。
以下では、早出残業として認められやすいケースについてご説明します。

 

早出残業になるケース

一般的に早出残業とされるのは、次のようなケースです。

上司からの指示(黙示の指示を含む)
朝礼や会議への出席
業務上必要な作業のため
着替えの時間

上記4つのケースについて、詳細をご説明します。

ケース1 上司からの指示(黙示の指示を含む)

上司から始業前に業務を行うよう指示を受けていた場合、また始業前の業務が暗黙の了解となっていたような場合、早出残業と認められる可能性が高いです。上司の指揮命令下で業務を行っている以上、それは労働時間に該当するためです。

これによって、労働時間が所定労働時間を超えた時には、労働者は会社に残業代を請求することができます。

ケース2 朝礼や会議への出席

会社によって出席が義務付けられている朝礼や会議は、業務の一部です。よって、始業前の朝礼や会議への出席も、早出残業の対象となり得ます。

この朝礼や会議に出席したことで、労働時間が所定労働時間を超えれば、残業代が発生します。

ケース3 業務上必要な作業のため

始業前にやっておかなければならない作業があり、そのために早出をした場合も、早出残業は認められます。例えば業務の引き継ぎや、業務で使用する機械のメンテナンス等が該当します。
これらの始業前における業務上必要な作業の実施は、当然労働時間に含まれます。

ケース4 着替えの時間

会社によっては、制服や作業服での業務が義務付けられていることもあるでしょう。このような場合、始業前の着替えの時間も労働時間の一部と考えることができます。

よって、所定労働時間外で着替えをした時には、着替えの時間を残業時間とし、残業代請求の対象とすることが可能です。

 

早出残業にならないケース

始業時刻より早く出勤しても、次のようなケースは早出残業になりません。よって、それに対する残業代の請求はできません。

・通勤時間
・始業時刻に間に合うように出勤しただけである
・早く出勤しても仕事をしていない
・早出残業が明確に禁止されている
・早出残業が必要であるほどの業務量ではない

各ケースを詳しくみていきましょう。

ケース1 通勤時間

通勤時間は、原則労働時間にはなりません。よって、始業時刻の前に家を出て通勤したからといって、その行為が早出残業になることはなく、残業代の支払いも発生しません。

ケース2 始業時刻に間に合うように出勤しただけである

始業時刻に間に合うように出勤しただけの場合も、早出残業にはなりません。

多くの労働者は、遅刻しないよう、始業の数分前には職場に着いていることが多いでしょう。しかし、これは自主的な行為であり、始業時刻までは、会社の指揮命令下における労働時間にはあたりません。よって、残業代の支払い対象にはなりません。

ケース3 早く出勤しても仕事をしていない

労働者が早く出勤していても、仕事をしていない場合には、早出残業とはなりません。
例としては、始業時刻より前に出勤し、朝食を食べたり同僚と世間話をしたりしているような場合が考えられます。当然、これらの行為は労働ではありません。

残業は、始業前・終業後に関わらず、「仕事をしていた」ことが前提条件です。早く出勤しただけで、残業が認められることはありません。

ケース4 早出残業が明確に禁止されている

会社から早出残業が明確に禁止されているにもかかわらず、労働者自身の勝手な判断で始業前に出勤し業務を行っていた場合は、早出残業は認めらない可能性が高いです。

ただし、労働者の自主的な残業が黙認されていたり、残業しなければ到底終わらない業務量であったりする場合は、残業として認められる可能性があります。このような場合、残業として認められるかはケースバイケースですので、弁護士にご相談いただき、判断してもらうといいでしょう。

ケース5 早出残業が必要であるほどの業務量ではない

早出残業が必要になるほどの業務量がないにもかかわらず、労働者が自主的な判断の元、始業時刻前に業務を行った場合も、早出残業とはなりません。必要性のない残業は認められないのです。

 

早出残業の残業代の計算方法

早出残業における残業代は、次の数式で算出します。

残業代 = 基礎賃金÷所定労働時間×割増率×残業時間

この数式の各項目の意味は、次のとおりです。

・基礎賃金:基本給と諸手当を合わせた賃金のこと(ただし、家族手当や通勤手当、賞与等は除外する)
・所定労働時間:会社で決められた労働時間
・割増率:法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える残業に適用される割増賃金のパーセンテージ
・残業時間:法定労働時間を超えた労働時間(休日出勤や深夜労働を含む)

※法定内残業の場合は割増なし
※法定外残業の場合は25%割増

これをもとに、具体例を出してみましょう。
例えば、月給が40万円(基礎賃金)である労働者が、所定労働時間160時間の職場において、1年間にわたって、1ヶ月に15時間の早出残業(全て法定外残業)をしたとします。この場合、1年間分の残業代は以下のように求めます。

40万円÷160時間×1.25×15時間×12ヶ月=56万2,500円

対象の労働者は法定外の早出残業をしているため、割増率は25%です。数式では1.25を掛けて、残業代を算出することになります。

残業代の計算方法については、下記の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
残業代を請求する際の計算方法や注意点を詳しく解説

 

未払いの残業代を請求する流れ

未払いの残業代を会社に請求する際には、次のように手続きを進めます。

・証拠の確保
・残業代の計算
・会社への通知書の送付
・会社との交渉
・労働審判・訴訟

まずは、サービス残業の事実とその時間を証明できる証拠を集め、保管します。そして、証拠をもとに、未払い残業代がいくらあるのか計算しましょう。

次に、会社への対応に入ります。会社に対し、内容証明郵便で未払い残業代請求の通知書を送付しましょう。この作業では、会社への資料開示を求めるとともに、残業代請求の時効も一時的に停止させることが可能です。

その後は、会社との交渉を行い、交渉で和解できなかった場合には、労働審判、訴訟へと手続きを進めます。
とはいえ、訴訟は時間や費用がかかり、精神的な苦痛も伴うものです。これを避けるためには、交渉、または少なくとも労働審判での決着を目指すべきでしょう。

残業代を請求する流れについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
残業代を請求する!未払いがあるケース、請求の流れ、必要な証拠を解説

 

早出残業に関するよくある疑問

最後に、早出残業についてよくある2つの疑問について、その答えを解説していきます。

Q1 何時からが早出残業になりますか

「何時から早出残業となるか」については、明確な基準がありません。会社によって始業時刻が異なるため、早出残業と見なされる時刻は一律に定められていないのです。会社で決められている始業時刻の前に出社して業務を行い、出社から所定労働時間を超過して働いた場合に、早出残業として認められます。

Q2 早出残業には36協定が必要ですか

会社側が労働者に対して、法定労働時間を超過した早出残業を指示するためには、36協定が必要です。

36協定とは、労働基準法第36条による労使協定のことです。労働者に法定外の残業をさせたり休日出勤をさせたりするためには、この労使協定の締結が必要です。
36協定を締結しなければ、会社は法定労働時間を超える残業を求めることはできません。そのため、36協定を締結していない場合は、早出残業の指示があっても従う必要はありません。

また、36協定は労働者が長時間労働を強いられることを防ぐための取り決めであり、残業代の請求を制限するものではありません。36協定の有無にかかわらず、早出残業をしていれば残業代の請求は可能です。

 

まとめ

早出残業は、始業時刻より前に業務を開始した結果、発生する残業のことです。その日の労働時間が所定労働時間を超えた場合は、残業となります。

また早出残業は、当然残業代の支払い対象になります。もし早出残業の残業代を受け取っていないという場合には、会社に対し未払い残業代の請求を検討しましょう。

ただし、未払い残業代の請求を行うためには、証拠集めや計算、会社との交渉等、専門的で複雑な手続きが必要です。自身の負担を軽減させるためにも、未払い残業代請求にあたっては弁護士に相談し、代理手続きや代理交渉を依頼するようにしましょう。