美容師は、過労や賃金未払いなど、労働基準法違反の被害に遭いやすい職業の一つ。
「美容師には労働基準法はない」「休憩時間はない」「残業代は出ない」という誤った常識により、無理な働き方を余儀なくされている方は少なくありません。
結論から述べると、「美容師には労働基準法はない」は大きな間違いです。
もし労働基準法に反している場合、従業員は事業主や会社を訴えることができます。
目次
美容室によくある違反例
美容室によくある労働基準法違反には、以下のようなケースがあります。
・休憩が無い、または10〜30分程度の休憩で10時間以上働いている
・実際の労働時間が改ざんされ、残業代を受け取れていない
・片付けやミーティング、チラシ配りなどの時間が労働時間に含まれていない
・週休2日という労働条件でありながら、そのうちの数日に対し、勝手に有給を使われている
・時給を計算すると、最低賃金を下回っている
・オーナーや上司の指揮命令を受けて働いているにもかかわらず、業務委託として扱われている
・休憩時間にも電話や来客対応をしなければならない など
適切な休憩時間・休日の付与、時間外労働に対する賃金の支払いなどは、労働基準法に定められた事業主の義務です。上記のようなケースは、すべて違法となるおそれがあります。
会社が守るべき労働基準法の規定
会社が守るべき労働基準法の代表的な規定には、以下のようなものがあります。
これらの規定を遵守しない場合、会社側は「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則を受ける可能性があります。
労働時間は1日8時間
原則として労働時間の上限は、1日8時間、週40時間です。(労働基準法第32条)
36協定を締結しているのであれば、この「1日8時間、週40時間」の上限を超えて働かせることができます。しかし36協定締結時でも「時間外労働は月45時間、年360時間まで」と上限が定められています。
もし36協定を締結していないにもかかわらず、「1日8時間、週40時間」の上限を超えた労働を強いられている場合、労働基準監督署の是正対象となります。
十分な休憩時間
労働者に十分な休憩時間を与えることも、労働基準法には明記されています。
労働時間が6時間を超える場合には最低45分、8時間を超える場合には最低1時間の休憩時間を、労働者に与えなければなりません。(労働基準法第34条)
またこの休憩時間は、30分+30分、15分+45分というように分割することも可能です。
上記の休憩時間が守られていない場合、労働基準法違反となります。
週に1度の休日
労働基準法には、「毎週最低1日は労働者に休日を与えること」が定められています。(労働基準法第35条第1項)
ただし、4週間で4日以上の休日を与える制度であれば、必ずしも毎週1日の休日を与える必要はありません。(労働基準法第35条第2項)
適切に休日が与えられていない場合、労働基準監督署の是正対象となります。
有給の取得
労働者による有給の取得も、労働基準法に定められたルールです。雇用した日から6カ月以上勤務し、すべての労働日の8割以上を出勤した労働者に、会社は規定日数以上の年次有給休暇を与えなければなりません。(労働基準法第39条)
有給休暇は、労働者が自由に取得日を指定できます。また取得にあたって特別な理由は必要ありません。
労働者が指定した有給の取得日に関して、会社が取得日の変更をお願いすることは認められています。(労働基準法第39条5項)
ただし会社側が強制的に有給取得日を決めたり、正当な理由なく取得を認めなかったりする場合、その対応は違法となる可能性があります。
残業代の支払い
労働者が時間外労働をした場合には、会社は割増賃金(割増率を適用した残業代)を支払わなければなりません。(労働基準法第37条)
法定時間外労働の場合の割増率は25%以上、深夜労働の場合の割増率は25%以上、休日出勤の場合の割増率は35%以上となります。
サービス残業は、労働基準法では認められていません。
時間外労働に対して労働者に割増賃金を支払っていない場合、それは違法です。
労働時間を証明できる資料があれば、未払いの残業代を請求できる可能性があります。
主な2つの相談先
「職場での労働基準法違反が常態化している」という場合、適切な機関に相談し、改善を求めましょう。このとき利用できる相談先としては、以下の2つが挙げられます。
労働基準監督署
労働基準監督署は「会社が労働関連法を遵守しているかどうか」を監視・監督する機関です。
労働基準監督署には相談窓口が設置されており、賃金の未払いや長時間労働、不当解雇、懲戒処分、ハラスメントなど、労働基準法違反に関するトラブルはこの窓口で相談することができます。
具体的な相談手順は、後述する「労働基準監督署に訴える方法」にて解説しています。
相談・通報を受けた労働基準監督署は、会社に対し強制捜査や指導、是正勧告などを行うことが可能です。ただし、個別の案件に対し具体的な対応(未払いの残業代請求など)を行うことはできない点には、注意が必要です。
弁護士
労働基準監督署では「労働者に代わって未払い残業代の請求を行う」など、個別の対応は行いません。あくまで、是正を目的とした指導が主です。
弁護士は労働基準監督署と異なり、残業代請求や不当解雇に対する損害賠償請求など、個別の案件について対応することが可能です。
また会社を訴えるとなると、社員との気まずさを感じる方は多いでしょう。
弁護士に依頼すれば、会社との交渉をすべて一任できます。会社の人間と顔を合わせず、スムーズに交渉を進めることができます。
「労働基準監督署・弁護士」どちらに相談するべき?
労働基準監督署と弁護士、どちらに相談すべきか迷ったら、以下の違いに注目するとよいでしょう。
違い①対応可能な範囲
労働基準監督署と弁護士では、「対応可能な範囲」が異なります。
労働基準監督署が行えるのは、労働基準法などに違反する会社に対する調査や指導、是正勧告にとどまります。不払いとなっている残業代を回収したり不当解雇による損害賠償を請求したりしてくれることはありません。
一方の弁護士は依頼人一人ひとりのケースに応じて、柔軟に対応することができます。
会社に是正を求めたい場合には労働基準監督署、自分の被った不利益について具体的に対応してもらいたい場合には弁護士を選ぶというのが、相談先を選ぶ基準の一つです。
違い②会社との交渉・訴訟
「会社との交渉や訴訟への対応」も、労働基準監督署と弁護士では異なります。
労働基準監督署では、労働基準法などに違反している会社へ指導・是正勧告を行うことはできますが、労働者に代わって、会社との交渉や訴訟手続きを担うことはありません。
また、管理監督者性や固定残業代などの論点がある事案の場合、労働基準監督署は十分な検討なく会社に有利な計算での是正勧告を行う場合もあり、注意が必要です。
しかし弁護士は、会社との交渉や訴訟手続きを代理で行うことができます。弁護士に依頼すれば、依頼者は会社の担当者と顔を合わせることなく手続きを進められ、また複雑な訴訟手続きの負担も軽減することが可能です。
労働基準監督署に訴える方法
会社を労働基準監督署へ訴える場合には、以下の手順で手続きを進めます。
①証拠を集める
前述のとおり、労働基準監督署へ相談・通報するためには、相談者側で証拠を用意する必要があります。まずは証拠収集から始めましょう。
例えば、賃金が適切に支払われていないことを相談する場合には、賃金規定がわかる就業規則や雇用契約書、実際に支払われた賃金がわかる給与明細などが証拠として有効です。さらに、残業代の不払いの場合であれば、残業の事実や残業時間を把握できるタイムカードや勤怠データ、日報などがあるとよいでしょう。
労働基準監督署に動いてもらうには、違反している事実を客観的に示す資料が必要です。
②近くの労働基準監督署へ相談
証拠が揃ったら、勤務する会社を管轄する労働基準監督署へ相談します。
まずは下記リンクから、お住まいの地域の労働基準監督署を検索しましょう。
都道府県労働局(労働基準監督署、公共職業安定所)所在地一覧
労働基準監督署への相談はメールや電話でも可能ですが、より詳しく具体的に相談をするには、対面を選ぶと良いでしょう。
③立ち入り調査・是正勧告
深刻な労働基準法違反が疑われる場合、労働基準監督署は会社へ立ち入り調査に入ります。この調査で法律違反が発覚すれば、指導や是正勧告を行い、会社に労働環境の改善を促します。
会社が指導や勧告に従わないときには、労働基準監督署が会社を送検することもあります。
未払い残業代を請求する方法
残業代が正しく支払われておらず、会社に対し未払い残業代を請求する場合には、弁護士の手を借りながら手続きを進めることをおすすめします。手続きの手順は以下のとおりです。
①弁護士へ相談する
未払いの残業代請求を行う際は、まず弁護士に相談し、「残業代の回収が可能か」「どのような証拠が必要か」などのアドバイスを受けましょう。回収できる見込みがあれば、弁護士と契約し、手続きを進めていきます。
相談・依頼先は、未払い残業代請求に力を入れている弁護士事務所を選ぶとよいでしょう。
②証拠の収集・支払いの催告
次に残業の事実や、具体的な残業時間がわかる証拠の収集に入ります。タイムカードや勤怠データ、Googleマップのタイムライン、業務メールなど、あらゆるものが証拠になり得るので、弁護士のサポートを受けながら資料を確保しましょう。
手元に証拠がないという場合でも、弁護士による開示請求により、相手方に証拠の提出を求めることができます。
証拠が揃ったら、それをもとに請求する残業代の金額を計算します。
また、未払い残業代の請求権には3年(2025年8月現在)という時効があります。残業代支払いの催告を行うことで、この時効は一時的に中断することができます。
請求権の消失を避けるためにも、弁護士は会社に対し速やかに催告を行います。
③会社と交渉する
次に会社と交渉し、残業代の支払いを求めます。
交渉は弁護士が代理で担うため、依頼者が会社の人間と顔を合わせる必要はありません。
④労働審判・裁判を行う
交渉で解決できなかった場合には、労働審判や裁判によって解決を目指します。
「審理は原則3回」というルールがある労働審判は迅速な解決を目指せる手続きですが、審理に時間が必要な事案については労働審判を選択せず、はじめから訴訟を行うケースもあります。
「労働審判と裁判のメリット・デメリット」については、残業代請求では「労働審判」と「裁判」、どちらがお勧め?にて詳しく解説しています。
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監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
「解決したはいいけど、費用の方が高くついた!」ということのないように、残業代請求については初期費用0円かつ完全成功報酬制となっております。
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