業務委託でも「労働者」に該当する場合がある

外部の個人事業主に業務を依頼し、その業務の遂行に対して報酬を支払う契約形態を、「業務委託契約」と呼びます。
業務委託契約が適法に締結されている場合、受託者は労働基準法上の「労働者」には該当しません。
そのため、労働時間の上限や時間外労働に関する規定など、労働基準法上の保護は原則として適用されません。

しかし、企業が人件費削減を目的として、実態にそぐわない形式的な「業務委託契約」を締結するケースがあります。
たとえば、契約書上は業務委託とされていても、業務の進め方に裁量がなく、勤務時間や業務内容が会社の指揮命令下にあり、実態としては正社員などと変わらない働き方をしている場合、その人物は労働基準法上の「労働者」に該当する可能性があります。

形式上は業務委託であっても、実態が労働者だと判断できれば、当然労働基準法が適用されるべきです。

つまり労働者だと判断されれば、当然残業代が支払われるべきなのです。

 

実際に労働者だと判断された職種の例

厚生労働省が公開している「労働者性に関する主要な裁判例集」では、「業務委託として扱われながらも、実質的には労働者であると判断された判例」が数多く示されています。
下記にて、実際に労働者であると判断された職種を紹介します。

・システムエンジニア
・コピーライター
・客室乗務員
・幼稚園の園長
・英会話学校の教師
・塾職員
・予備校非常勤講師
・不動産鑑定士
・看護師
・介護ヘルパー
・研修医
・大工
・ホテルのフロントマン
・リラクゼーションサロンの施術者
・運転代行業務従事者
・引越し業務従事者
・トラック・ダンプカー運転手
・保険営業
・ホステス
・吹奏楽団員
・二輪車のテストライダー
・映画撮影技師
・アイドル
・劇団員
・シルバー人材センターの会員 など

(※上記で紹介した職業であれば必ず労働者性が認められる、というわけではありませんのでご注意ください。)

このように、業務委託として扱われがちな多くの職種において、労働者性が認められた、つまり雇用関係であると判断された判例が存在します。
各判例について詳しく知りたい方は、「労働者性に関する主要な裁判例集」をご覧ください。

 

労働者性の判断要素(残業代を支払うべきかどうかの判断要素)

労働者性の判断では、「指揮監督下における労働を行っているかどうか」が重要なポイントとなります。
業務委託で働いている方は、自分の働き方が以下の要素に当てはまるかどうか、確認してみましょう。

 

「仕事を受ける・受けない」を決める自由があるか

業務委託の場合、発注者から仕事の依頼をされたときに、受注者はその仕事を受けるか受けないかを自分で決めることができます。
一方で、実質的にその判断の自由がないと認められる場合、それは労働者性を肯定する要素となります。

【労働者性の肯定へ働くケース】(残業代を支払うべき、と判断されやすくなる事情)
・病気や冠婚葬祭などといったよほどの理由がない限り、依頼された仕事を断ることはできなかった

【労働者性の否定へ働くケース】
・「他に仕事があればそっちを優先して構わない」「何日でもいいから来てほしい」と仕事を依頼されていた
・仕事を断っても強制的に依頼されることはなく、それによって不利益な対応をされることもなかった

 

業務の進め方に細かい指示をされているか

基本的に業務委託では、業務の進め方に一定の裁量があります。
それにもかかわらず、業務の進め方について発注者側から細かい指示が出されている場合、受注者の労働者性が肯定される可能性があります。

【労働者性の肯定へ働くケース】(残業代を支払うべき、と判断されやすくなる事情)
・運送業務を請け負ったときに、発注者からスケジュールや経路、方法など具体的な指示を出され、そのとおりに業務進めざるを得なかった
・業務遂行にあたって、毎日日報を作成し、発注者に対し詳細な報告を行うよう求められていた
・助手として、発注者の指示のもと業務を行っていた

【労働者性の否定へ働くケース】
・依頼された業務の遂行方法を自分で決めることができた
・会社従業員の就業規則は適用されず、他の従業員が行っている雑用も求められなかった

 

勤務時間や場所が拘束されているか

業務委託の場合、正当な理由なく発注者から勤務時間や勤務場所を厳しく制限されることはありません。勤務時間・場所の拘束を受けている場合、それは労働者性を肯定する要素となります。

【労働者性の肯定へ働くケース】(残業代を支払うべき、と判断されやすくなる事情)
・指定の場所でシフト表に従って業務を行うよう指示され、自分の意思で休日を変更することはできなかった
業務に従事する時間を「1日8時間」と決められていた
・社内規定に沿った勤怠を求められ、業務スケジュールを管理されていた

【労働者性の否定へ働くケース】
・他の従業員と出勤時間が異なったり、日中に私用を行ったりしたが、注意や減給などの処分を受けることはなかった
・他の従業員とは異なる稼働場所を提供されていた
・稼働日や稼働時間は自由で、勤怠管理をされることもなかった

 

指揮命令下の労働に対して報酬が支払われているか

業務委託では、「業務の遂行・完成」に対し報酬が支払われます。
一方で、指揮命令下の労働に対して報酬が支払われている場合には、使用従属性が認められるため、労働者性が肯定される可能性が高いと考えられます。

【労働者性の肯定へ働くケース】(残業代を支払うべき、と判断されやすくなる事情)
・報酬は時給で与えられていた
・業務量や売上高に関係なく、月額固定報酬とされていた

【労働者性の否定へ働くケース】
・報酬は業務量や売上高に連動する出来高払いであった

 

代替性はあるか(補強要素)

代替性の有無とは、「発注者から受けた仕事を、受注者が自分の判断で他の人に遂行してもらうこと、また他の人に手伝ってもらうことが認められているかどうか」ということです。
業務委託であれば業務の進め方に裁量があるため、他の人による代役や補助は認められやすいでしょう。

(この代替性の有無は、労働者性の判断に大きく影響しないため、あくまで補強要素として考慮されることが多いです。)

【労働者性の肯定へ働くケース】(残業代を支払うべき、と判断されやすくなる事情)
第三者への再委託や補助者を使用して業務を遂行することが認められていなかった
「受注者本人が業務を行うこと」が前提とされていた

【労働者性の否定へ働くケース】
・受けた業務を、アルバイトや家族に手伝ってもらうことが認められていた

 

事業者性の有無(機材負担・報酬水準など)

事業者性が認められない場合、労働者性が肯定される要素となります。
この事業者性は、「業務に必要な機材を有しているか」「業務遂行にあたって発注者から受ける報酬が一般労働者に比べ高額か」によって判断されます。

【労働者性の肯定へ働くケース】(残業代を支払うべき、と判断されやすくなる事情)
業務に必要な機材や備品は、発注者によってすべて用意されていた
受け取っていた報酬は、一般労働者と同等、もしくは著しく高いとはいえない金額であった

【労働者性の否定へ働くケース】
・業務遂行に必要な機材やその維持費を受注者自身が負担していた
・一般労働者の賃金に比べ、かなり高い報酬を受け取っていた

 

特定発注者への専属性の程度

特定の発注者への専属性の高さも、労働者性の判断を補強する要素です。
特定の発注者に対する専属性が高く他の発注を受けることができないような場合には、労働者性は高いと判断されます。

【労働者性の肯定へ働くケース】(残業代を支払うべき、と判断されやすくなる事情)
特定の発注者の依頼が1日8時間以上を占めており、他の発注者の依頼を受けることができなかった
・特定の発注者が代理販売を行っている商品以外の取り扱いを認めてもらえなかった

【労働者性の否定へ働くケース】
・兼業を許可されており、他の仕事をすることに発注者から制約を受けていなかった

 

その他の補強要素(採用過程・福利厚生・保険適用など)

他にも、雇用されている労働者と比較した採用過程や福利厚生、社会保険の適用などが、労働者性を補強する要素となる場合があります。

【労働者性の肯定へ働くケース】(残業代を支払うべき、と判断されやすくなる事情)
採用において、雇用された従業員とほぼ同じ過程を踏む必要があった
・他の労働者と同じように、福利厚生や雇用保険、労災保険などの対象となっている
・報酬を給与所得とし、源泉徴収が行われている

【労働者性の否定へ働くケース】
・福利厚生や各種社会保険が適用されていない
・服務規程の適用対象となっていない

 

業務委託契約下で残業代請求した事例(勝浦総合法律事務所)

勝浦総合法律事務所では、業務委託契約で働いていた方の労働者性を主張し、未払い残業代の回収に成功したケースがいくつかございます。
その一つとして、この記事ではシステムエンジニアの方の事例を紹介します。

ある20代のシステムエンジニアの男性から、ご相談を受けました。
最初は雇用契約で働いていましたが、途中で会社から業務委託契約に切り替えられ、残業代の支払いを受けられずにいました。
お話を聞いていると、会社が残業代の支払いを避けることを目的に、業務委託契約を偽造したことは明らかでした。

このケースではタイムカードがなく、証拠収集が難しかったのですが、弊所弁護士は業務日報メールとその送信時間から退勤時間を推測し、未払い残業代を請求しました。
相手弁護士との交渉の結果、会社側は未払い残業代として200万円を支払い、和解となっています。

このように業務委託契約とされていても、きちんと労働者性が立証でき、かつ残業時間を証明する資料がある場合には、未払い残業代を請求できることがあります。

弊所が残業代請求を行ったその他の事例>>>

 

業務委託の方が残業代請求する手順

業務委託として働いているものの、その労働実態が「雇用された労働者」にあたる場合には、会社に対し未払い残業代を請求することが可能です。
残業代請求のおおまかな手順は、以下のとおりです。

 

①証拠を収集

労働者性を判断する上では、下記のような資料が有用です。

業務内容に関係なく、常に一定の給与が支払われていることを示す資料(給与明細など)
勤務時間が管理されていたことがわかる資料(シフト表など)
福利厚生や雇用保険、労災保険に加入していることがわかる資料
業務の進め方に関して、細かい指示を受けていることがわかる資料(メールやメッセージなど)

また、未払い残業代請求では残業時間を証明する証拠が必要です。例えば、以下のようなものは有用な証拠となる可能性があります。

・タイムカード
・勤怠システムのデータ
・Googleマップのタイムラインデータ
・業務日報
・建物の入退出記録
・退勤時に送った帰宅メッセージ
・メモ・日記
・交通系ICカードの記録
・就業規則
・雇用契約書 など

証拠は多い方が望ましいです。
可能な限り多くの証拠を確保するようにしましょう。

 

②弁護士へ相談

未払い残業代請求には、さまざまな法的手続きが必要になります。
負担軽減のためにも、請求を行う際には弁護士に相談し、手続きを一任することをおすすめします。

また、残業の証拠がない場合でも、弁護士による会社への開示請求を通して、証拠を確保できる可能性があります。

勝浦総合法律事務所では「こういう状況で働いてるんだけど、残業代は請求できる?」というようなライトな質問も受け付けております。

下記のリンクから、お気軽に無料相談をご利用ください。

弊所の残業代請求に関する無料相談はこちらから

 

③会社への催告・交渉

次に会社へ「催告」を行います。催告とは、未払い残業代の支払いを求める通知のことを指します。
未払い残業代の請求権には3年の時効がありますが、催告によりこの時効の進行は中断させることができます。
一般的には、「内容証明郵便」と呼ばれる、郵便局が通知内容および送付日を証明するサービスを用いて行います。

催告の後は、会社との交渉に移ります。
会社側から「業務委託契約だから残業代は発生しない」と主張される場合でも、実態として労働者性が認められれば、残業代の請求は可能です。
そのためには、業務実態を示す証拠をうまく用いて、反論していく必要があります。

弁護士に依頼している場合、こうした交渉はすべて弁護士が代行してくれるため、依頼者が会社側と直接やり取りをする必要はありません。

 

④労働審判・裁判

交渉で合意できなかった場合には、労働審判や裁判で解決を図ることもあります。

労働審判は、労働問題を迅速かつ柔軟に解決するための制度です。労働審判では、原則として3回以内の期日で結論が出るため、スピーディーに解決することが多いです。

一方、裁判では双方が証拠をもとに徹底的に争うため、問題の解決までに長い時間がかかることがあります。
ケースによって労働審判→裁判の順に手続きを進めるべきか、はじめから裁判行うべきかは異なるため、その判断は弁護士に仰ぐと良いでしょう。

残業代請求における労働審判・裁判については、残業代請求では「労働審判」と「裁判」、どちらがお勧め?にて詳しく解説しています。

 

「私は本当に業務委託契約?」お気軽にご相談ください

実態にそぐわない業務委託にお悩みの方、未払い残業代請求をご検討の方は、勝浦総合法律事務所へご相談ください。
当事務所は労働問題、とりわけ残業代請求に注力しており、これまでに多数のご依頼を受けてきました。業務委託契約下における未払い残業代の回収を実現した事例も複数ございます。

「自分は本当に業務委託契約にあたりますか?」
「業務委託を否定し、請求できる見込みはあるか?」

など、不安や疑問についてもお気軽にご相談ください。無料相談にて状況をお伺いいたします。

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監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
「解決したはいいけど、費用の方が高くついた!」ということのないように、残業代請求については初期費用0円かつ完全成功報酬制となっております。
成果がなければ弁護士報酬は0円です。お気軽にご相談ください。