36協定について

まず、労働基準法第32条には「1週間40時間、1日8時間」の法定労働時間が定められています。いわゆる36協定を締結すれば法定労働時間の超過が認められる場合がありますが、その場合でも無制限に許されるわけではなく、「1週間15時間以内、1ヶ月40時間以内、1年間360時間以内」と定められています。

トラックドライバーの労働時間

本題のトラックドライバーですが、トラックドライバーには仕事の性質上36協定の労働時間の延長の限度が適用されません。
その代わり「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準)」により別途限度が定められています。

改善基準に登場するのが「拘束時間」と「休息期間」です。

●拘束時間
拘束時間とは始業時間から終業時間までの間のことを言います。労働時間と休憩時間の合計時間のことです。
拘束時間は原則として1ヶ月293時間となっています。ただし毎月の拘束時間の限度について労使協定を締結すれば1年のうち6ヶ月以内は1年間の拘束時間が(293時間×12ヶ月分に当たる)3,516時間を超えない範囲で、1ヶ月最大320時間までは拘束時間を延長することができます。
仮に6ヶ月間は293時間で収めて、残り6ヶ月が320時間以内で収めたとしても293時間×6ヶ月、320時間×6ヶ月で合計3,678時間となり3,516時間を超えるため違法となってしまいます。

また、拘束時間のうち運転時間についても制限があり、2日(始業から48時間)で平均して9時間を超えることはできません。例えば今日10時間運転した場合、明日は8時間までしか運転することができないということになります。

●休息期間
休息期間とは、勤務の終業時間から次の勤務の始業時間の間の時間のことを言います。例えば今日9時から18時まで働き、翌日10時から働くとしたら、今日18時から翌日10時までの間が休息期間となります。

1日(始業から24時間以内)の拘束時間は原則13時間以内となっており、延長したとしても最長16時間が限度となります。また、1日の休息期間は連続して8時間以上取らなければなりません。

しかし、場合によっては8時間以上連続して休息期間を与えることが難しいこともあります。その場合は特例として1日の休息期間を連続して4時間以上、合計10時間以上与えることとされています。
ほかにも「2人乗務の特例」として1台のトラックに2人以上のドライバーが乗務する場合は1日の拘束時間を20時間に延長して、休息期間を4時間にすることも可能とされています。(この特例が適用されるのは車両内に身体を伸ばして休息できる施設がある場合に限られます)

休息期間と休憩時間の違い

これまで説明してきた休息期間ですが、間違えられやすいのが休憩時間や休日です。
休息期間との違いについて確認していきましょう。

休息期間はトラックドライバーの生活時間ですので、仕事とは全く関係のない時間のことを指します。
休憩時間は拘束時間の一部です。そのためある程度は会社側や使用者の管理の下にあることになります。

なお、トラックドライバーの運転時間には厳しい規制が設けられており、トラックドライバーは連続して4時間までしか運転をすることはできません。
4時間以内に1回10分以上、合計30分以上の休憩時間を取得しなければならないとされています。

また、労働基準法第34条によって一日の労働時間が6時間以上8時間未満の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を取らなければならないと定められています。
トラックドライバーも同じ基準で休憩を取らなければいけません。

なお、トラックドライバーには「荷待ち時間」といって荷物の積み下ろしをする際にドライバーが待機する時間が発生してしまいます。送り主や物流施設などの都合で発生してしまうため、どれだけトラックドライバーが正確に動いても防ぎようがないことです。
場合によっては数時間待たされてしまうケースもあります。

この荷待ち時間が休憩時間にあたるかがよく問題になるのですが、これについては後ほど詳細に解説していきます。

休息期間と休日の違い

では次に休日についてです。
休息期間は労働者の生活時間と解説しましたが、休日は休息期間より更に長い休みとして、きちんと「休息期間に24時間を加えたもの」と定められているのです。
また、休日は30時間を下回ってはならないとされています。
基本的に休息期間は連続して8時間必要ですので、休息期間と休日を合わせて32時間は必要ということになります。

上限規制や特例事項について

トラックドライバーの労働についてはここには書き切れないほどの多くの厳しい上限規制や特例事項が設けられています。
その理由として、トラックドライバーの仕事は長時間拘束される可能性が高いことや、それによってドライバーの疲労が蓄積されることなどが挙げられます。
例えば天候不良で高速道路が通行止めになったり規制がかけられていたりして思うように進めなかったり、送り主の都合でスケジュールが遅れたりと様々な原因があると思います。

長時間拘束されることによる疲労蓄積は、交通事故などが発生するリスクを高めることになります。これがかなり深刻な問題で、2016年度の運送業・郵便業の過労死等の労災請求件数は145件、支給決定件数は89件となっておりダントツの一位となっています。
そのため「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を設けて拘束時間や休息期間、休憩時間、休日などを厳しく規制しているのです。

さらに2024年4月からは罰則付きの時間外労働の上限規制が導入されます。
トラックドライバーに適用されるのは「年960時間(休日労働を含まない)の時間外労働の上限規則」です。
今まで見てきたように厳しい規制がかけられているにも関わらず、36協定の特別条項を適用すれば無制限に時間外労働を設けることができていたのです。
それが今後はこの上限規制によってできなくなります。

いずれは事務職のように年720時間の制限がかけられるような流れになっているそうですので、トラックドライバーの労働環境はまだまだ改善されていくという期待が持たれます。

2024年の改正については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
「【労働者向け】ドライバーの残業時間は、どう変わる?2024年の改正を解説」

余談ですが、1ヶ月平均80時間の時間外労働が続くと脳や心臓の病気で過労死するリスクが高まり、100時間を超えるとうつ病などによって過労自殺するリスクが高まるそうです。一刻も早く労働環境を整備してほしいところですね。

荷待ち時間は労働時間となるのか

トラックドライバーの残業代請求の際、必ずといっていいほど争点になるのが、休憩時間の扱いです。先述した「荷待ち時間」が争点となる問題ですね。
タコグラフからは、トラックが停止している時間が分かりますが、その時間は、休憩時間なのか、労働時間なのか、どのように考えるべきでしょう。

この点、昭和33年の行政通達(昭和33・10・11基収6286号)では、

「トラック運転者に貨物の積み込みを行わせることとし、その貨物が持ち込まれるのを待機している場合(一般に手待ち時間という)において、全く労働の提供はなくとも出勤を命ぜられ、一定の場所に拘束されている時間は労働時間と解すべき」

と解されています。

他方で、別の行政通達(昭和39・10・6基収6051号)では、

「貨物の到着の発着時刻が指定されている場合、トラック運転者がその貨物を待つために勤務時間中に労働から解放される手あき時間が生ずるため、その時間中に休憩時間を1時間設けている場合にあって、当該時間について労働者が自由に利用できる時間」であれば「休憩時間である」

と判断しています。

結局、労働者が自由に利用できる休憩時間なのか、一定の場所に拘束されている時間なのか、実態を総合的に判断することとなるのです。

その場合の判断要素としては、以下のようなものが上げられます。

(1) 駐車して車両から離れることができるかどうか

→取引先の構内に停車して自由にトラックを離れられる場合は休憩と言われやすいですが、逆に、路上駐車をせざるをえずトラックから離れると駐禁を取られる場合などは休憩とはいい難いでしょう。

(2) 停車中も車両を監視する義務があるか。

→積荷が空でトラックを置いていける状態であれば休憩と言われやすいですが、危険物や高価品を積んでいてトラックから離れられない場合などは休憩とはいい難いでしょう。

(3)休憩時間を自由に利用できるか。

→荷待ち中も他のドライバーの手伝いをする必要などがあればそれは休憩ではないでしょう。

(4)次の作業開始時刻が決まっているか。

→例えば、荷積の時間が午後1時からと決まっていて、それまで自由に時間を使える場合は休憩と言われやすいですが、いつになるか分からないが呼ばれたらすぐに作業を開始しなければならない場合は自由な休憩とはいい難いでしょう。

荷待ち時間が労働時間であるか休憩時間であるかについては区別が容易でないケースが多くあります。労働時間に該当するか否かによって、未払残業代の金額が大きく変わる可能性もありますので、荷待ち時間の扱いに疑問をお持ちの方は、一度専門家に相談されてはいかがでしょうか。

また、運送業界のトピックや各車両の知識などを知りたい方は、こちらのサイトがおすすめです。
「運送業界向けオンラインマガジン|トラッカーズマガジン」

監修弁護士

勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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