年俸制と言えば、プロ野球選手などの契約更改の際などに話題になることからスポーツ選手などに取り入れられる報酬のイメージがありますが、近年では一般企業でもこの年俸制を取り入れるところが増えてきています。
年俸制は、一般的な月給制とどのようなところが異なるのでしょうか。
年俸制とは
年俸制は給与形態の一種で、給与の金額を1年単位で決めることです。
もっとわかりやすく言うと、給与の1年間の総支給額と言ったところでしょうか。
年俸制の給与は1年に1回給与の全額が支払われると思っている方もいらっしゃるかも知れませんが、実際はそうではありません。
労働基準法第24条によって「賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められているため、一括払いではなく12分割して毎月支給するケースや、16分割して夏冬に2ヶ月分の金額を賞与として支給するケースなどがあります。
また、年俸制は成果主義(成果や能力を反映する)と連動することが多いため、企業によって決め方は異なりますが、多くの場合、年俸額は前年度の業務成績や翌年度の期待値、役割などに応じて金額が設定されることになります。
なお、年俸制でも社会保険や年金、所得税はマイナスされますので、手取額は年俸額よりも少なくなります。
残業代と賞与は年俸額に含まれるのか
賞与については前述したとおり、年俸額を16分割して賞与として支払うケースがあります。
他にも、年俸額を12分割して月々の給与として支払うものとは別に賞与を支払うケースもあります。
そのため、必ずしも賞与が年俸額に含まれるとは限りません。
年俸制でも残業代は請求できます
『年俸制には残業代なども含まれているから、どんなに残業しても残業代を請求できない』と思われている方がいるようですが、それは大きな間違いです。
年俸制は、あくまでも月給の基本給に該当するものと考えられていますので、年俸制だからといって残業代を請求できないということはありません。
年俸制でも時間外労働(残業)をした場合や法定休日に仕事(休日手当)をした場合、深夜時間帯に労働(深夜手当)をした場合は、使用者は基本賃金に定められた利率をかけた割増賃金を支払わなければならないと決まっています。
残業代を支払わなくてもよいケース(後述)もありますが、その中に年俸制は含まれていません。
もし、年俸制を理由に残業代が支払われていないというのであれば、その企業は違法行為を行っているということになります。
年俸制の残業代の計算方法
年俸制だからといって残業代に特別な計算方法があるわけではありません。
月給制と同じく、基礎賃金×残業時間×割増率の計算式で残業代を算出することができます。
基礎賃金は、{年俸額÷年間所定労働時間}-諸手当(※)で算出することができます。
年俸の中に最初から含まれていて金額が確定している賞与については、基礎賃金の算定に含めることができますので、その分基礎賃金額が上がることとなります。
例えば、年俸1600万円だが、16分割して、月給100万円+夏冬に2ヶ月分の金額を賞与として支給することが約束されている場合、月給100万円分に確定賞与も加えた年俸総額(1600万円)を基礎賃金にすることができるのです。
他方、年俸には含まれておらず、業績や成果に応じて算定される賞与は、基礎賃金には含まれないことになります。
そして、残業の割増率は1.25倍から1.5倍の間で企業が設定していますので、その率をかけることで計算することができるというわけです。
※家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金(ボーナス)、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(残業代)のこと。
残業代の計算方法について、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。「残業代の計算方法を分かりやすく解説(具体例付き)」
年俸制で残業代が出ないケース
年俸制を採用していても残業代が出ることがわかりましたが、一定のケースでは残業代が出ませんのであらかじめ確認しておきましょう。
- 管理監督者
管理監督者とは、「労働時間の決定やその他労務管理について、経営者と一体的な立場にある従業員」のことです。具体的には、
・企業経営に関する決定に関与することができる
・人事権や労務管理に関する指揮監督権限がある
・自身の労働時間や業務量などについて裁量権がある
・一般の従業員と比較して、自身の地位と権限に見合った待遇(手当や賞与など)与えられているといった要件を満たしている方が管理監督者となります。なお、部長や課長などの役職を与えられていたとしても、上記の要件を満たしていない場合は管理監督者に該当しません。
『役職を与えているから残業代は支給されない』と言われていたとしても、明らかに管理監督者でない場合は残業代を請求することができます(いわゆる「名ばかり管理職」です)。(名ばかり管理職については、こちらで詳しく解説しています。「「名ばかり管理職」でも残業代は貰えます。」)
- 個人事業主
個人事業主は、会社との間で労働契約(雇用契約)を結んでおらず、業務委託契約などにより仕事を受注していることになるため、そもそも労働者には該当せず、労働基準法に基づく残業代請求をすることができません。
ただし、時間管理をされるような働き方をしている場合や残業の指示をされているといった場合など、実質的に雇用関係があると認められる場合は残業代請求ができる可能性があります。 - 事業場外労働に関するみなし労働時間制
バスの添乗員や外回りの営業をしている方など、
・会社の外で働いている
・実際の労働時間の算定が困難である
という条件を満たしている場合には「事業場外労働に関するみなし労働時間制」が採用されている場合があります(労働基準法38条の2)。事業場外労働に関するみなし労働時間制は、会社の外で労働した場合に所定労働時間分働いたとみなす制度です。例えば、所定労働時間が8時間の方が月曜日に6時間働き、火曜日に10時間働いたとしても、両日8時間働いたとみなされるのです。そのため、火曜日に8時間を超えて労働した分に残業代は支給されません。
ただし、所定労働時間が8時間であっても「業務上通常必要とされる時間」が9時間である場合は、9時間を事業場外に関するみなし労働時間に設定し、1時間分の残業代を支払う必要があります。
もちろん、残業代を含めた事業場外に関するみなし労働時間を超える労働を行った場合は、その時間分についても残業代を請求することができます。もっとも、スマホなどの通信機器が発達した現代においては、会社の外で働いているからといって「労働時間を算定し難い」といえる場合はほとんど存在しませんので、「事業場外労働に関するみなし労働時間制」が適用されるケースはほとんどないと考えられています。会社が「事業場外労働に関するみなし労働時間制」を理由に残業代を払っていないのであれば、未払い残業代の請求ができるケースが多いと思われます。
(事業場外労働に関するみなし労働時間制にについては、こちらで詳しく解説しています。「「事業場外みなし労働時間制」は要注意。外回り営業だから残業代ゼロ!?」)
まとめ
年俸制だからという理由で、残業代が出ないということはありません。自身の労働条件や残業代に疑問があるのであれば、弁護士などの専門家にご相談してみてはいかがでしょうか。