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「債権債務がないことを確認する」の意味
退職にあたって、会社が労働者に合意書や誓約書を書かせることがあります。
そしてこれらの書類には、「債権債務がない」ことに合意させる内容が含まれていることがあります。
これは「清算条項」と呼ばれており、具体的には以下のような文言です。
・「貴社と私との間に何らの債権債務がないことを確認し、今後貴社に賃金等一切の請求をすることはありません」
・「甲と乙との間に、何らの債権債務のないことを相互に確認し、今後、本合意書の内容について、一切異議申し立てをしないものとする」
・「甲および乙は相手方に対し、裁判上、裁判外を問わず、本合意書に定めるほか、何らの請求もしない」
ここでいう債権債務とは、「会社と労働者の間においてまだ清算されていない金銭のこと」を指します。例えば、未払い賃金・残業代は、会社と労働者の間においてまだ清算されていない金銭であり、会社にとっての債務に該当します。
中には、従業員からの未払い賃金・残業代の請求を防ぐ目的で、このような「債権債務がないことを確認する」という条項を設けていることもあります。
もし未払い賃金・残業代があり、今後会社に請求する可能性がある場合は、合意のサインをすることはおすすめしません。
もしサインしてしまったら…
未払い賃金や残業代、退職金など、債権があるにもかかわらず、「債権債務がないことを確認する」という内容の合意書・誓約書にサインをしてしまったという方もいるでしょう。
未払いの賃金・残業代は請求できなくなる?
退職時に「債権債務がないことを確認した」ことに合意のサインをしているからといって、必ずしも未払いの賃金や残業代を請求できないとは限りません。
最高裁の判例(シンガー・ソーイング・メシーン事件 最判昭和48年1月19日)では、賃金債権の放棄は、労働者の自由な意思に基づくものであると認められる合理的な理由が客観的に存在するときに限り有効となるという極めて厳しい基準を示しています。
この基準を適用した近年の具体的な事例としては、大阪地裁令和元年12月20日(はなまる事件)が挙げられます。
この事件では、中古車の買取販売会社に勤めていた労働者が、退職後に会社へ未払い残業代を請求しました。退職時に当該労働者は「貴社に対し何らの債権債務がないことを確認します」という旨の退職届に署名捺印し提出していたことから、これが債権の放棄に該当するかどうかが争点となりました。
この裁判では、裁判所は以下のように判断しています。
・賃金債権の放棄は、労働者の自由な意思に基づくものであると認められる合理的な理由が客観的に存在するときに有効となる
・十分な判断能力を備えた状態において検討がされたものではない可能性があり、さらに賃金債権の放棄によって原告が得られる利益の存在等もなく、合理的な理由が客観的に存在しているとは評価できない
・退職届の記載によって原告が賃金債権を放棄したとは認定できない
つまり、十分な判断能力がある状態でサインしていない、また賃金の放棄を行うことによる労働者側のメリットが無いという場合、労働者が自由な意思に基づいて合意したといえる理由がなく、合意は無効と判断されることがあるのです。
このような判例があることから、退職時に清算条項のある書類に合意のサインしたとしても、後から未払い賃金等を請求できる可能性はあります。
ただし、合意書・誓約書にサインをしてしまうと、それは合意があったという1つの証拠になってしまいます。確実に未払い賃金等を請求するためには、可能であれば、やはりサインすべきではありません。
退職金は支払われなくなる?
「債権債務がないことを確認する」といった書類にサインしていても、直ちに退職金を受け取れなくなるとは限りません。会社に退職金規程があり、就業規則などで支給条件が明確に定められている場合、退職金は労働の対価として保護される性質があるためです。
退職直前になって「債権債務がないことを確認する」書類へサインしてしまった場合、退職金の放棄が、労働者の自由な意思に基づくものであると認められる合理的な理由が客観的に存在すると言える場合でない限り(そのようなケースはほとんどないと思われます。)、退職金は請求できることとなります。
サインせずそのまま退社しても、法的に大丈夫?
合意書・誓約書にサインせず退職することに、法的な問題はありません。民法には、以下の記載があります。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(e-Gov法令検索 民法第627条)
つまり法的には、退職の2週間前までに申し出れば、会社が認めなくても退職はできます。
もっとも、退職合意書の内容や退職までの経緯によって判断が異なるため、不安な場合にはまず弁護士に相談することをおすすめします。
納得できない場合は弁護士へ相談を
「未払い賃金や残業代が残っているのに、清算条項へのサインを求められている」
「会社へ損害賠償請求を検討しているため、安易にサインしたくない」
「サインせずに退職しても問題ないのか不安」
このように、退職時の書類対応や労働トラブルで悩んでいる方は、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
もし「未払い賃金・残業代請求と清算条項について一緒に相談したい!」という方がいらっしゃいましたら、勝浦総合法律事務所の無料相談をご利用ください。
弊所では、未払い賃金・残業代請求を中心とした労働問題の解決に注力しております。
たくさんの方にご依頼いただき、令和7年には1年で約13億円もの残業代を回収しました。
相談したからと言って、必ず契約しなければならない、というわけではありません。
どうぞお気軽に無料相談をご利用ください。
最後に、勝浦総合法律事務所でお引き受けした残業代請求の解決事例をご紹介します。
残業代請求の解決事例(勝浦総合法律事務所)
720万円回収|30代店舗マネージャーの事例
マネージャー職としてスーパーに勤務していた30代の方から、未払い残業代請求のご依頼を受け、勝浦総合法律事務所で対応し訴訟を提起しました。
会社側は「マネージャーは管理監督者であるから残業代は支払われない」と主張しましたが、弊所弁護士は名ばかり管理職の実態を指摘し、残業代の支払いを求めました。
結果として、会社側は残業代を支払う必要性について認め、未払い残業代と遅延損害金合わせて約720万円を支払い、解決となっています。
500万円回収|30代長距離ドライバーの事例
長距離トラックドライバーとして働いていた30代の方から未払い残業代請求のご依頼を受け、勝浦総合法律事務所で対応しました。
交渉では会社から誠意ある回答を得られなかったため、弊所弁護士は訴訟を提起しました。会社は「運行手当を残業代として支払っていた」と主張しましたが、裁判所はこの主張を否定。
結果として会社が500万円を支払うことで和解が成立しています。
200万円回収|20代システムエンジニアの事例
システムエンジニアとして働いていた20代の方から、未払い残業代請求のご依頼を受け、勝浦総合法律事務所で対応しました。
この事案では、雇用契約が途中で業務委託契約に切り替えられ、残業代が支払われていませんでした。弊所弁護士は、これを偽装請負に該当すると指摘し、会社側の弁護士と粘り強く交渉を行いました。
結果として、会社が200万円を支払うことで和解となっています。
300万円回収|40代建設業の事例
建設業の現場監督として働いていた40代の方から未払い残業代請求のご依頼を受け、勝浦総合法律事務所で対応しました。
タイムカードはなかったものの、作業日報から労働時間を割り出し、会社に請求を行いました。しかし、会社側が交渉に応じなかったため弊所弁護士は訴訟を提起。
会社は「作業日報は正確でない」「役職手当を残業代として支払っていた」などと反論しましたが、裁判所の説得もあり、結果として元従業員に300万円を支払うことで解決となっています。
監修弁護士

執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
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