ご紹介する判例:久日本流通事件(札幌地判令和5年3月31日労判1302号5頁、札幌高判令和6年6月21日)
勝浦総合法律事務所が札幌地裁で獲得した裁判例が労働事件の専門的な判例雑誌である労働判例に掲載されました。その後、札幌高裁でも労働者勝訴が維持されております。
本件(久日本流通事件)は、運送会社に勤めていたトラック運転手が、売上高の10%で計算されていた「残業手当」の割増賃金としての有効性を争い、未払い残業代の支払いを求めた事案です。
被告会社から売上の10%を「残業手当」として支給されていましたが、裁判所は、そのように算定される手当を残業代として支払う旨の合意が認められないこと、売上比例で算定される手当は実際の労働時間と連動せず、通常の労働による売上分も含まれるため時間外労働の対価とは認められないことを理由に「残業手当」は残業代の既払いとは認められないとして被告の主張を排斥しました。さらにこの「残業手当」は売上の10%で計算されてはいるが、出来高払制賃金(いわゆる歩合給)にも該当しないとし、会社側に未払割増賃金の支払いを命じました。
目次
「残業手当」は固定残業代に当たるのか
会社側は売上の10%で算定される「残業手当」がいわゆる固定残業代に当たると主張しましたが、売上の10%で算定される手当を割増賃金として支給するということは雇用契約書にも賃金規程にも記載されておりませんでした。
つまり、本件においては、いわゆる対価性(=当該手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていること)を基礎付ける事情は、当該手当が「残業手当」というそれらしい名称であったこと以外は皆無であり、その意味で、「残業手当」の対価性を否定したという判決の判断はいわば当然のものであると思われます。
出来高払制賃金(歩合給)に当たるのか
むしろ、本件で当事務所がより注力したのは、「残業手当」が残業代でなかった場合に、出来高払制賃金(いわゆる歩合給)に該当してしまうかどうか、という点でした。
なぜなら、ある手当が、通常の賃金ではなく、出来高払制賃金であると認められてしまうと、残業代の算定方法が変わってしまい、残業代額が著しく減ってしまうからです。
本件では、賃金規程に、月給制や時給制の定めがあるが、出来高払制の定めがないことを根拠に、就業規則の最低基準効を論じたり、賃金規程に割増賃金の算定方法が定められていることから契約規律効を論じたりするなどしました。
結果として、地裁判決、高裁判決ともに、「実態として、労働者の売上げに応じて本件残業手当の額が増減するものであったとしても、出来高払制の賃金といえるためには、賃金の一定部分を出来高払とすることや、当該出来高部分の算定方法等が当事者間で合意されている必要があるものと解される」とした上で、そのような合意がないことを理由に、売上の10%で算定されていた手当についても出来高払制賃金とは言えないと判断しました。
出来高払制賃金該当性について、このような観点から論じた裁判例は非常に珍しいと思われます。なお、この札幌高裁の裁判官3名のうち裁判長及び右陪席はいずれも令和3年まで東京地裁労働専門部に所属(裁判長は部総括であった)されており、その意味で本高裁の判断は専門的知見に基づくものと考えられます。
担当弁護士のコメント
久日本流通事件は、勝浦総合法律事務所が獲得した代表的な判例です。
北海道から本州への長距離便を担当していたドライバーさんからご依頼をお受けした件です。
「残業手当」が固定残業代として認められず、また、出来高払制賃金にも該当しないという点については確信がありましたので、当初から強気な姿勢を崩さず、交渉を継続しましたが、結局交渉は成り立たなかったため、提訴しました。
相手方は訴訟でも和解に応じなかったため、判決となり、高裁でも勝訴した結果、利息も含めて2000万円を超える金額を獲得しました。残業代は、退職後は年利14.6%の利息が加算されます。本件は解決までに長期間がかかった結果、1000万円近い利息が発生しました。
上でも書いた通り、この裁判例は、「出来高払制の賃金といえるためには、賃金の一定部分を出来高払とすることや、当該出来高部分の算定方法等が当事者間で合意されている必要があるものと解される」と判断した部分が画期的であり実務的に非常に重要であると考えています。
この点を強調して労働判例という著名雑誌に情報提供を行ったところ、雑誌への掲載がなされたのですが、判例解説ではこの点が強調されていないことは少々残念に感じました(本件における対価性判断はある意味当たり前の判断に留まっています)。
なお、土田道夫教授の「労働契約法(第3版)」352頁では、本判決を引用して、「出来高払賃金の労働契約上の要件として、賃金の一部を出来高払制とすることやその算定方法に関する労働契約上の根拠を整備する必要があることは当然である。久日本流通事件・札幌地判令和5・3・31労判1302号5頁参照」との記載がなされております。
久日本流通事件(札幌地判令和5年3月31日労判1302号5頁、札幌高判令和6年6月21日)
監修弁護士
執筆者:勝浦 敦嗣(かつうら あつし)
所属:第二東京弁護士会所属
-監修コメント-
「解決したはいいけど、費用の方が高くついた!」ということのないように、残業代請求については初期費用0円かつ完全成功報酬制となっております。
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